旭川市 旭山動物園
副園長・飼育展示係長
板東 元さん
結果として、たくさんのお客さんに来
ていただけるようになりましたけど、
入園者数を増やそうと思って展示の方
法を工夫したわけじゃないんです。
もちろん動物園という施設は、最終的
に観てもらうことが大切ですから、た
だ動物を飼育していればいいというわ
けではないんですが、現状を変えなく
てはならないという意識は、お客さん
ではなくて動物たちに向いていたんで
す。
時代時代で、はやりの動物というのが
あって、その動物の愛らしい姿が目的
で動物園に足を運ぶ人はとても多いん
です。
旭山動物園は、創立当初から地元で保
護したけど自然に還してやれなかった
動物の飼育が大きな目的のひとつでし
たから、コアラがはやっているから
コアラを買ってきて展示するというよ
うなやり方が馴染まなかったんです。
でも、それは結果として「コアラはど
こ?」「ラッコはいないの?」という
お客さんのがっかりする気持ちにつな
がって、誰も訪れないつまらない動物
園として休園を迫られるところにまで
至ってしまったんです。
飼育していた動物が伝染病に冒された
という直接的なきっかけはあったんで
すが、減り続けるお客さんの数が休園
の大きな理由だったことは確かなんで
す。
ものすごく悔しかったですね。
休園したことにではなくて、動物たち
の本当の魅力をなにひとつ表現してや
れなかったことが悔しかったんです。
多くの動物園が人気の動物を作り出し
て、それだけを特別扱いする価値観を
正当化するなんて、と思い続けてきた
気持ちも、このままではただの負け惜
しみでしょ。
悔しさがばねになりました。
でもウチは市営の動物園ですから、働
いてる人はすべて公務員なんです。配
属先がたまたま動物園だったという人
も、少なくありません。もちろん、入
園者数が増えたら給料が増えるなんて
ことはないし、仮にこのまま閉園にな
ってしまっても職を失うことはないわ
けです。
何もしなくてもいいのに、何かをしよ
うという気持ちになるには、好きだと
思って取り組むことが大切だと思いま
す。
ウチでは、班でひとつの動物を飼うの
ではなく、各人それぞれ自分が希望し
た動物の獣舎を担当するんです。
何人かでひとつの仕事にあたると、思
い入れの微妙な違いを調整するために、
自然に妥協点を探るようになります。
そうすると、飼育や展示についての尖
った発想も消えてしまいます。
共同責任だからと思った瞬間に、自分
がやらなければという意識も薄らぎま
す。
与えられた仕事をやらされてると思っ
た瞬間に、人よりたくさん働くのは損
だという比較もしてしまいます。
自分がやってるんだ、という意識で
仕事に取り組むためには、個人の責任
においてそこそこ突っ走れる体制が
必要だと思うんです。
まるで個人プレーのように感じられる
かもしれませんが、同じ軸の上に乗っ
かってやってるんだという共通認識は
あるんですよ。
チームとしての連帯感は、みんなが共
通なものに関わるだけで生まれるので
はなくて、各人が同じ軸に乗っかって
しっかりやっていく中で育っていくも
のだと思います。
それが組織のカラーなんだと思うんで
す。
僕はリーダーシップの旗を振ろうなん
てタイプじゃないんですが、みんなか
ら見えるところで先頭を走って行かな
きゃいけないという意識はあります。
軸の位置はここだと思うということを
自他共に確かめあうために、ね。
Interview, Writing: 山口宗久
「かもめ」2006年8月号掲載
※内容は、すべて取材時のものです
※記事掲載への思いについて。
山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
Twitter / nineover
facebook / Yamaguchi Munehisa