働くということ・29 植松 勉さん | くるまの達人

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とか、タイトルで謳いながら、実はただの日記だったりするけど、いいですか?

株式会社植松電機
専務取締役 植松 勉さん

民間企業がロケットを打ち上げたって
いうことで、なんだか注目されるよう
になってしまいましたが、ウチの本業
はマグネットなんです。ロケットはま
だ趣味の範疇を越えてません。

採算を考えずにロケット事業に夢中に
なれるために、マグネットで稼げばい
いという気持ちはあります。

でも、植松さんのところは金のなる木
があっていいねとか言う人もいます。
その木を育てて維持していくのに、ど
れだけ苦労しているかということは、
なかなか人には見えないわけです。そ
れはそれで、全然構わないんですけど
ね。

たった15人の会社で、ひとつの事業と
はいえ国内シェアナンバーワンを取る
ためには、それなりの工夫が必要です。
裏を返して言えば、工夫をすれば不可
能じゃないということなんです。

例えば、真っ正面から勝負を挑んでも、
とてもまともな条件を引き出せそうに
ないほど巨大な企業とのビジネスにな
ったとします。

ウチにとっては日常茶飯事なんですが、
そういうときはケンカしちゃだめなん
です。

仲良くなって仲良くなって、そして必
要とされるようになれば、そのうち自
分たちが主導権を取れるようになるも
んです。

たいがいそういう場には、出来ない理
由を探して、それを自分の実力だと思
って頑張ってる人がいるもんですが、
僕にとってはもっけの幸いですよね。

出来ない理由が分かってるということ
は、それは出来るってことでしょ。出
来ない理由をひっくり返せたら、それ
が出来る理由になるわけですから。

もちろん自分たちに必要とされる能力
が備わっているということは、とても
大切なことです。

未来には、何が起きるか分からないん
です。何が起きるか分からないことに
備えるためには、能力を高める以外に
ないんです。

能力というのは新しいことが起きても
ビビらない心で、新しい事態に対応す
るためには、昨日までの自分を否定し
ないと掛かれないことが多いんですね。

だから仕事の上で現状を維持する必要
なんて全くなくて、常に変わることだ
けを意識することです。

マグネットにねじ溝を刻む作業が100
本分あるとしたら、100本とも違うこ
とをやってみろと。どれかいいものが
あったら、それに集中して試してみろ
と。そして、もうこれ以上吸収するこ
とがなくなったら、外注しろと。

修練のためだけに働くことが大切なん
です。

未来にやってくるであろうチャンスを
ガツッとつかむためには、日常に埋没
しない仕事をし続けるしかないわけで、
そのためには右から左へなんて仕事は
絶対にダメなんです。

葉隠れに「武士道は死ぬことと見つけ
たり」という言葉があるんです。
武士というものは、こんなに必死にな
ってやっているこいつの為ならなんと
かしてやろう、死んでもいい、と思え
る人と出会えることこそ誉れであると
いう意味なんです。

そうすれば、死にものぐるいで力を貸
してるその人を見て、また別の人が必
死になってくれます。

これがリーダーシップの原点なんです
ね。リーダーシップというのは、人を
支えるとか人を思いやるとかいうこと
ではなくて、馬鹿みたいに無我夢中で
やる姿だけなのかなと思うんです。

いつどんな形で採算が採れる事業にな
るか分からないロケットに、従業員が
協力してくれて、一緒に感動してくれ
る理由は、ひょっとしたらその辺にあ
るのかも知れませんね。

Interview, Writing: 山口宗久


「かもめ」2006年7月号掲載
※内容は、すべて取材時のものです

※記事掲載への思いについて。


山口宗久(YAMAGUCHI-MUNEHISA.COM)
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