「最近、私は人工知能に書かせた小説を読んでいるのですよ。人工知能は人間の小説家が書きたがらないような内容の作品でも文句を言わずに作成してくれますからね」
「どのような作品を書かせたのですか?」
「その小説は知能が高い蟻が書いたという設定で作られているのです。主人公であり、語り手でもある蟻は太陽恐怖症なので産まれてから一度しか巣の外に出た経験がないのです。そして、巣の中は常に真っ暗ですから視覚的な記憶はそのたった一度の外出時に得た情報だけに限られているのです」
「それで、どういう物語が展開されるのですか?」
「巣の外に出ようと他の蟻達から誘われるのですが、主人公は色々な理屈を付けて拒絶するのです。それだけの物語でしかないのですが、視界以外の情報を描写する語彙がとても豊富なので読んでいて飽きないのです。本当に地中の経験しか持っていない蟻が語っているようだと感じられます。よく出来た文学作品だと思いますよ」
「その小説はどう完結するのですか?」
「まだ読み終えていませんよ。しかし、完結せずにずっと物語が続いていきそうだと思っていますよ。少なくとも主人公の蟻が死ぬか、巣の外に出るまでは作品が終わる必然性がなさそうですね」