安定感がある椅子 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 休日に妻と一緒に家具販売店でずらりと陳列されている椅子を見物していると店員が話し掛けてきた。「どのような商品をお求めでしょうか?」

 「どの椅子も不安定そうね。座っていて転倒や破損が心配になってくるような造りの椅子は駄目よ」と妻が感想を言った。

 「それでは、あちらの八本脚の椅子はどうでしょうか?脚が八本もありますから一本や二本の脚が破損したところで椅子としての機能や安定感は失われませんよ」と店員は笑みを浮かべたまま提案した。

 「脚が多ければ安定するの?あの椅子は座っている人間を絶対に転倒させないの?座部や背もたれが破損する可能性があるわよね?私はあの椅子でも安心できそうにないわ」と妻は言った。

 「それでは、あちらの宇宙船用の椅子はどうでしょうか?惑星への離発着時には船員の身体にもかなり重力が掛かりますが、あの椅子はその際にも船員の体勢を安定させ、肉体への負荷を軽減する効果があるのです。軽くて頑丈な素材で作られているので長年に渡って使用できるはずですよ」と店員は言った。

 妻と店員の対話を聞きながら私は高価な商品を買わされる羽目になるのではないかと心配になっていた。予算を超過するようであれば会話に割って入って彼女を制止しなければならないと警戒していた。