老人の椅子 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 「そもそも、あなたはどうして椅子に座っていたのですか?」と警察官が質問してきた。

 「長時間に渡って歩いていたので足がかなり疲れていたのですよ。それで、路上に置いてある椅子をたまたま見つけたので腰を下ろして休息を取ろうと思い付いたのです」と私は警察官の顔に視線を向けて答えた。

 「勝手に他人の椅子に座るなんて無礼だ」と老人が口を挟んできた。この老人が椅子の持ち主であり、私の行いを警察に通報した張本人だった。

 「公道に置いてあったので個人の持ち物だと思わなかったのですよ」と私は老人の方に目を向けて弁解した。

 「あなたは確かに自分がこの老人の椅子に座ったと認めるのですね?」と警察官が訊いてきた。

 「ええ。認めます。そもそも、最初から一度も否定していませんよ。しかし、それが事実であるとして何の罪になるのですか?この老人の椅子に無断で座ったという事実がどのような被害を生じさせたのでしょうか?」と私はうんざりとした気持ちになりながら言い返した。

 「とても反省しているような態度には見えない」と老人が険しい顔で言った。