重量感があるソファ | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 休日に妻と一緒に家具販売店でずらりと陳列されているソファを見物していると店員が話し掛けてきた。「どのような商品をお求めでしょうか?」

 「重そうなソファばかりが並んでいるわね」と妻が感想を言った。

 「ソファは頑丈さや安定性を求められる商品ですので重量感がある造りになっているのです」と店員は笑みを浮かべたまま解説した。

 「実際にここにあるソファはどれも重いの?」と妻は訊いた。

 「はい。そうですね。見た目だけではなく、実際に結構な重量があります。なにしろ、ソファは全身を預ける家具ですから軽い力を加えただけで簡単に動くようでは安心できないのです」と店員は答えた。

 「どれも凄く重そうね。ソファ自体に人間を引き寄せる重力が発生していそうだと感じるわ」と妻は言った。

 「これらのソファは座り心地が良いので腰を下ろしたら立ち上がろうという気持ちにはなかなかならないと言われるお客様もいらっしゃいます」と店員は言った。

 実際、ずらりと陳列されているソファには悉く客達が座っていた。彼等はまるで重力に引き寄せられて墜落した瞬間に息絶えた死体のようにそれぞれのソファの上で少しも身動きしていなかった。