微笑の仮面 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 夜、顔面に異物が乗っていると感じたので驚いて意識が覚醒した。私は咄嗟にそれを両手で除けそうと試みたのだが、そこには目や鼻や口などがあるばかりだった。

 そういえば、夢の中で鮮やかな原色で彩られた微笑の仮面を被って歩いていたと私は思い出した。そこは繁華街でたくさんの人々が行き交っていた。私は誰かと笑い合いたいと望んでいたが、微笑の仮面を被っている仲間を見つけられずにいた。

 そもそも周りの人々は誰も仮面など被っていなかった。私だけが素顔を隠しているのだった。その事実に気が付いて私は後ろめたくなった。堂々と胸を張って世間を歩いている人々の姿が眩しく輝いて見えるような気がした。そして、自分のような日陰者は仮面の奥にひそひそと隠れておくべきだと感じた。私は人々の視線が怖くなり、繁華街から逃走した。

 目が醒めて私はようやく胸を撫で下ろした。しばらく暗い天井を見つめていた。すぐには夢の世界に戻りたくないという気持ちになっていた。


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