夜、枕元で会話をしている二人組の声が聞こえてきたので私は意識が覚醒した。かなりの早口だったが、発音が明瞭なので言葉の内容は聞き取れていた。
「この身体は随分と長いね。頭は布団の上にあるけど、足は道路にまで伸びている。それに、手は台所にあるじゃないか」
「道路や台所にある足や手は本当にこの頭と繋がっているのか?」
「間違いなく繋がっているよ。これは一つの巨大な生き物だ」
「本当かな?信じられないな。ちょっと台所へ行って手をナイフで刺してこいよ。痛がるかどうか試してみよう」
「僕が台所へ行くのか?嫌だよ。随分と遠いじゃないか」
「いいから行けよ」
「わかったよ」
どうやら彼等は私の肉体について話し合っているようだった。私は自分が巨大であるとは思っていなかったので違和感を覚えたが、枕元から立ち去っていく足音がまるで小動物のようだったので彼等から見れば巨大に見えるのかもしれないと考え直した。そして、手をナイフで刺されるらしいと察して恐怖に駆られた。逃げ出したくなったが、全身が金縛りに遭ったように動かせなくなっていた。
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