頭を膨らませる | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 夜、枕元で会話をしている二人組の声が聞こえてきたので私は意識が覚醒した。かなりの早口だったが、発音が明瞭なので言葉の内容は聞き取れていた。

 「まったく膨らまないね」

 「膨らむわけがないよ。君は鼻と口を塞いでいないじゃないか。しっかりと塞いでおいてから耳から空気を吹き入れたら膨れるはずだよ」

 「鼻と口を塞いだら息苦しくなって目が醒めるのじゃないか?」

 「耳から空気を入れるから息苦しくなるわけないよ。君は心配性だな」

 「君も手伝ってくれよ。鼻と口だけで二箇所も塞がないといけない。しかも、頭部を支えながら反対側の耳の穴も塞いでおく必要があるとなると手の数がまったく足りていないじゃないか」

 「わかったよ。それなら、僕は鼻と反対側の耳を塞ごう」

 「できれば口も頼めないかな?」

 「そうなると僕の手の数も足りないじゃないか。では、僕は口と鼻を塞ごうか?」

 「反対側の耳は穴が見えないから上手く塞げそうにないよ」

 どうやら彼等は私の頭部に空気を吹き入れて風船のように膨らませるつもりのようだった。しかし、誰がどの穴を塞ぐのかという問題を巡って議論が紛糾し、作業が停滞しているのだった。手際が悪いようなので窒息死させられそうだと予想して私は恐怖に駆られた。逃げ出したくなったが、全身が金縛りに遭ったように動かせなくなっていた。


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