夜、顔面に異物が乗っていると感じたので驚いて意識が覚醒した。私は咄嗟にそれを両手で除けそうと試みたのだが、そこには目や鼻や口などがあるばかりで実際には何も乗っていなかった。
そういえば、夢の中で怪物に扮装して夜道を行き交う人々を驚かせていたと私は思い出した。鮮やかな原色で彩られた仮面を被り、人々の悲鳴を聞く度に心の底から笑っていたのだった。それはとても痛快な夢だった。過去の数十年間で最も充実した時間を過ごせていたのではないかという気がした。
今、生まれて初めて自分という人間を喜ばせる方法を知ったのだと私は思った。そして、これまでの虚しい人生が一変しそうだという予感を覚えた。その為に人々を驚かせなければならなかった。それに、まずは怪物の仮面を制作しなければならないと私は思い付いた。かつてない強烈な意欲を感じたので私は跳ね起きた。夢の記憶が鮮明である間に仮面の模様や配色などを紙に書いて記録しておかなければならないと考えていた。
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