「目が醒めると君は街が地上数百階の巨大な建造物の屋上にあると信じているよ」と夢の中で誰かが予言した。
時計がけたたましい音を鳴らしたので私はいつもと同じ時刻に起床した。夢の内容はほとんど記憶になかったのだが、予言だけはしっかりと憶えていた。しかし、その内容を信じているつもりはなかった。
朝食を取って身支度を整えてから外出すると空がよく晴れていた。私は青空がいつもよりも自分に近いように見えると気が付き、再び予言の内容を思い出した。すると、なんだか空気が薄くなったように感じられた。それで、ひょっとして本当に街が地上数百階の建物の屋上にあるのだろうかと考えた。
周りをきょろきょろと見回しながらバス停へと歩いていったが、住宅街の景色は普段と何も変わっていなかった。ただ、本当の大地は遥か下方にあるのかもしれないと思われ、足元が頼りなくなったような気がした。この頼りなさをずっと抱えたまま生きていくのだろうかと考えて私は心細くなった。ひどく地面が恋しくなった。
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