胴上げする日 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 「目が醒めると君を胴上げする日になっているよ」と夢の中で誰かが予言をした。

 時計がけたたましい音を鳴らしたので私はいつもと同じ時刻に起床した。夢の内容はほとんど記憶になかったのだが、予言だけはしっかりと憶えていた。

 目覚まし時計のベルを止めると玄関でインターホンが鳴らされていると気が付いた。それに、電話機も鳴っていた。それらの音に追い立てられるように感じながら私は寝床から起き上がった。どちらを優先するべきだろうかと考えたが、結局は玄関に向かった。

 覗き穴に片目を近付けてドアの向こう側の様子を確認したのだが、そこには数人の逞しい体格の男達が立っていた。彼等は鉢巻をしていた。それに、『あなたを胴上げする会』という大きな文字がプリントされた揃いのシャツを着ていた。一人の男が携帯電話を耳に当てていた。そして、さらに他の一人が玄関のドアを片手で叩きながら大声を張り上げて私に呼び掛け始めた。

 「もしもし。あなたを胴上げする日になりました。私達はあなたを胴上げする会ですよ。あなたを胴上げしなければ今日という一日が成り立ちません。さあ。早く出てきてください。胴上げされてください」

 呼び掛けを聞きながら私は男達に胴上げされる自分の姿を想像してみたのだが、寝間着姿で身支度もしていないので恥ずかしくて仕方がなかった。それで、ドアを開けずに玄関で息を殺していた。自宅前で大声を出している彼等の行動を近所の人々がどう思うだろうかと考えて気が気でなかったが、出て行って制止する勇気はなかった。どうにか居留守が成功して欲しいと願っていた。


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