蛙になる | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 「あなたには蛙になる呪いを掛けておきました」と魔女が言った。

 しかし、私は二本足で地面に直立していたし、手にも水掻きや吸盤などは出来ていなかった。未熟な魔女だから失敗したのだろうかと訝ったが、それにしては呪いが既に効果を発揮しているかのような口振りで話した点が奇妙だと思われた。それで、魔女に質問を投げ掛けたのだが、彼女は何も答えないまま姿を消した。

 翌日、雨が降ったので私は呪いの効果に気が付いた。喉の奥から蛙のような声を出したくなったのだった。それに、全裸になって身体に冷たい水を浴びたくもなった。人間としての理性が残っているので我慢して制止したが、辺りの湿度が高まってくるのに連れて衝動が強まってくるようだった。

 その日以来、私は人生に嫌気が差す度に何もかも投げ出して人間を辞めようかと迷うようになっている。なにしろ雨に濡れるだけで蛙になれそうなのである。或いは、雨が降っていなくても冷たい水を浴びるだけで充分かもしれない。まだ決心が着かないが、蛙としての生活の方が余程気楽であるかもしれないと事ある毎に思われている。


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