犬がトマトに見える(長期) | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 「あなたには犬がトマトに見える呪いを掛けておきました」と魔女が言った。

 それ以来、私の目には犬がトマトに見えている。そのせいで犬がどのような姿の動物であったのかという記憶がすっかり薄れている。四本足で歩いていたような気がするのだが、細部までは思い出せなくなっている。それで、このところ猫や猿などといった他の獣達までトマトに見えるようになってきている。

 この間、息子が持っている動物図鑑を開いてみたのだが、トマトの写真ばかりがずらりと掲載されていたので驚かされた。どうも四本足で歩く動物の大半がトマトに見えるようになっているらしい。今では猫や猿などといった獣達の本来の姿もしっかりと思い出せなくなっている。

 数日前、自宅で息子の姿が大きなトマトに見えたので驚かされた。その時、息子は四つん這いになっていたらしい。二本足で立った途端に元の息子の姿に戻ったのだが、とうとう人間までトマトに見えるようになったようだと気が付いて衝撃を受けた。今一度犬という動物の姿をしっかりと思い出して他の獣達との違いを認識しておかなければならないと考えているのだが、頭の中にはトマトしか思い浮かばない。


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