行政書士試験・平成25年度・問題4・解説⑧ | 山田優の★行政書士試験憲法の分析★

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行政書士試験の憲法の過去問について分析するブログです。
分析の手がかりは芦部信喜著『憲法』(岩波書店)のみです。
「芦部憲法」があれば行政書士試験の憲法の問題は解ける!
ということを示したいと思っています。

こんにちは、行政書士の山田優です。

 下記の説明が少し難しいと感じる人はコチラの
「山田優の☆ちゃんテキ合格☆行政書士試験」
の補足説明を読んでみてください。


 私法上の法律関係における憲法の効力に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、正しいものはどれか。

5 企業者が、労働者の思想信条を理由に雇い入れを拒むことは、思想信条の自由の重要性に鑑み許されないが、いったん雇い入れた後は、思想信条を理由に不利益な取り扱いがなされてもこれを当然に違法とすることはできない。

 これは「三菱樹脂事件」に関する記述である。「三菱樹脂事件」について、芦部憲法は、かなり詳細にコメントしている(芦部6-3-2注*)。この判例が人権の私人間効力に関する最高裁の判断の出発点である。この芦部憲法のコメントを正確に把握していれば、選択肢の記述がコメントの要約であることがわかるであろう。

 裁判で問題となったのは、①人権規定が私人間に適用されるか、②会社が入社試験の際に応募者の思想に関する事項を尋ねることが憲法19条の思想の自由に反しないか、③特定の思想を有することを理由に本採用を拒否することは憲法14条の「信条」による差別に当たらないかの3点である(芦部6-3-2注*)。

 選択肢には「企業者が、労働者の思想信条を理由に雇い入れを拒むこと」とあるから、主として③の問題についての理解があれば、これが誤りであることがわかるであろう。

 もっとも、この訴訟の原告は被告の会社に仮採用ではあるが採用されているので、「労働者の思想信条を理由に雇い入れを拒むこと」に該当しないという捉え方もできようが、本採用を拒否されたのだから、該当すると考えることもできよう。

 さらに、最高裁の判断は、企業は雇用の自由を有し、「特定の思想・信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはでき」ないというものだから、選択肢の内容がこの判断とは合致しないことは明らかである。

 ところで、最高裁
、「違憲」とすることはできないとは言わず、「違法」とすることはできないと言っているのなぜだろうか。それは、最高裁が、人権規定が私人間に適用されるかという問題に関して、間接適用説の立場に立っているからである。つまり、「社会的に許容しうる限度を超える」人権の侵害があった場合は、民法1条・90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって解決できるという立場である。そこで、「特定の思想・信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒」むことが、これらの私法の諸規定に違反するか、つまり、違法であるかを判断することになるわけである。


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