行政書士試験・平成25年度・問題4・解説⑥ | 山田優の★行政書士試験憲法の分析★

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行政書士試験の憲法の過去問について分析するブログです。
分析の手がかりは芦部信喜著『憲法』(岩波書店)のみです。
「芦部憲法」があれば行政書士試験の憲法の問題は解ける!
ということを示したいと思っています。

こんにちは、行政書士の山田優です。

 下記の説明が少し難しいと感じる人はコチラの
「山田優の☆ちゃんテキ合格☆行政書士試験」
の補足説明を読んでみてください。


 私法上の法律関係における憲法の効力に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、正しいものはどれか。

3 性別による差別を禁止する憲法14条1項の効力は労働関係に直接及ぶことになるので、男女間で定年に差異を設けることについて経営上の合理性が認められるとしても、女性を不利益に扱うことは許されない。

 これは「日産自動車事件」に関する記述である。「日産自動車事件」については、芦部憲法は、「定年年齢を男子60歳、女子55歳と定める会社の就業規則が、性別による不合理な差別を定めたのもとして、民法90条により無効とされた」と、簡単にコメントするのみである(芦部6-3-2注*)。

 しかし、この簡略な記述について、①就業規則、②不合理な差別、③民法90条という3つの点に着眼して、選択肢の記述と照らし合わせてみよう。

 まず、本件は「労働関係」という「私法上の法律関係」が問題となっているのであるが、具体的には①就業規則の規定が問題となっているわけである。

 次に、「男女間で定年に差異を設けること」が問題となっているので、②不合理な差別とは「性別による不合理な差別」を指し、憲法14条1項の解釈が問題となる。

 さらに、「憲法14条1項の効力は労働関係に直接及ぶ」とあるのは、私法上の法律関係に対して憲法の効力を直接に及ぼす見地であるのに対して、判例は本件就業規則を「民法90条」により無効とした。

 以上のように考えてくると、①と③については、「行政書士試験・平成25年度・問題4・解説③」
で検討した「人権の私人間効力」の一般論と関係があり、②については、「法の下の平等原則」の理解が前提となるということがわかる。

 「人権の私人間効力」の一般論については既に「行政書士試験・平成25年度・問題4・解説③」
で検討したので、今回は「法の下の平等原則」について簡単に確認しておこう。

 判例が「不合理な差別」とわざわざ「不合理な」と説明しているのは、単なる形容ではなく、ハッキリとした共通理解があるのである。

 不合理な差別とは、一般的には、民主主義ないし個人主義の理念に照らして不合理と考えられる理由による差別を言う。この民主主義的合理性という基準は抽象的であるから、具体的な事件で違憲か合憲かを判断するには、十分であるとは言えない(芦部7-2-4)。

 「法の下の平等」には、①形式的平等と実質的平等の区別と②絶対的平等と相対的平等の区別がある。この2つの区別は視点の異なった区別である。今回は①②の内容については触れないが、以下では、この2つの区別に関連して芦部憲法が「不合理な差別」について述べている事項を確認しておこう。

 まず、法の下の平等に言う「平等」の意味は、実質的平等の思想を抜きにして解することはできないので、平等原則に反するか反しないかの基準とされている「合理的な取扱い上の違い」(合理的差別と説く見解もある)に当たるか否かを判定するに際しては、実質的平等の趣旨が最大限考慮されなければならない(芦部7-2-1)。

 次に、法の下の平等に言う「平等」とは、絶対的・機械的平等ではなく、相対的平等である。したがって、恣意的な差別は許されないが、法上取扱いに差異が設けられる事項と事実的・実質的な差異との関係が、社会通念からみて合理的であるかぎり、その取扱い上の違いは平等違反ではない。


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