行政書士試験・平成25年度・問題4・解説① | 山田優の★行政書士試験憲法の分析★

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行政書士試験の憲法の過去問について分析するブログです。
分析の手がかりは芦部信喜著『憲法』(岩波書店)のみです。
「芦部憲法」があれば行政書士試験の憲法の問題は解ける!
ということを示したいと思っています。

こんにちは、行政書士の山田優です。

 下記の説明が少し難しいと感じる人はコチラの
「山田優の☆ちゃんテキ合格☆行政書士試験」

の補足説明を読んでみてください。


 私法上の法律関係における憲法の効力に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、正しいものはどれか。

1 私人間においては、一方が他方より優越的地位にある場合には私法の一般規定を通じ憲法の効力を直接及ぼすことができるが、それ以外の場合は、私的自治の原則によって問題の解決が図られるべきである。

2 私立学校は、建学の精神に基づく独自の教育方針を立て、学則を制定することができるが、学生の政治活動を理由に退学処分を行うことは憲法19条に反し許されない。

3 性別による差別を禁止する憲法14条1項の効力は労働関係に直接及ぶことになるので、男女間で定年に差異を設けることについて経営上の合理性が認められるとしても、女性を不利益に扱うことは許されない。

4 自衛隊基地建設に関連して、国が私人と対等な立場で締結する私法上の契約は、実質的に公権力の発動と同視できるような特段の事情がない限り、憲法9条の直接適用を受けない。

5 企業者が、労働者の思想信条を理由に雇い入れを拒むことは、思 想信条の自由の重要性に鑑み許されないが、いったん雇い入れた後は、思想信条を理由に不利益な取り扱いがなされてもこれを当然に違法とすることはできない。



 本問は非常に基礎的な問題である。問題文に「私法上の法律関係における憲法の効力」とあるが、これは「人権の私人間効力
と呼ばれている問題である(芦部6-3-2)。

 選択肢2~5は重要判例であって、すべて芦部憲法に解説がある(芦部6-3-2)。つまり、芦部憲法に挙げてある4つの判例がそのまま選択肢に採用されているのである。

 実は、次の問題5においても、選択肢1~5に述べてある事項はすべて芦部憲法で触れてある事項であって、中には文言が芦部憲法とほとんど同じものもある。問題4の場合は内容が判例であるから、記述が芦部憲法と同じだとしても、それは要するに判例の文言がそのまま出題されているということだが、問題5の場合は、内容が判例ではなく理論に関するものであるから、芦部憲法との一致は注目すべきことではなかろうか。

 我田引水ということではなく、出題者は「憲法の基礎知識は芦部憲法に書いてある」とお考えなのではなかろうか。当然のことであるが。

 今回は選択肢1を扱っておく。これは「私法上の法律関係における憲法の効力」すなわち「人権の私人間効力」に対する判例の態度に関する記述である。この「人権の私人間効力」の問題は、芦部憲法において「基本的人権の限界」と題する第六章の第三節「私人間における人権の保障と限界」に収録されている。

 なぜ「私法上の法律関係における憲法の効力」ということが取り立てて問題となるのかということについてハッキリと認識していることが必要である。まず、人権をもっぱら国家に対する防禦権と解するのが伝統的な人権観念であったということを確認しておこう(芦部6-3-1注*)。基本的人権が、本来、主として「国家からの自由」という対国家的なものであったからこそ、人権規定を「私法上の法律関係」に適用できるかが特に問題となるのである。

 長くなるので、今回は、選択肢1のどこが不適切であるかを端的に指摘しておく。それは「私法の一般規定を通じ憲法の効力を直接及ぼす」という部分である。そもそも、この記述の意味はハッキリしない。私法の一般規定を通じて効力を及ぼすのであれば、それは「間接」ということではなかろうか。ここが「私法の一般規定を通じ憲法の効力を間接的に及ぼす」となっていれば適切である。判例は「間接適用説」の立場を採るからである。人権の私人間効力に関する学説については次回に詳しく検討する。

 さらに、「一方が他方より優越的地位にある場合」という記述については、その「一方」とは芦部憲法において「社会的権力」と呼んでいる私的団体を指していると考えていいだろう(芦部6-2-1)。



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