行政書士試験・平成25年度・問題3・解説⑤ | 山田優の★行政書士試験憲法の分析★

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分析の手がかりは芦部信喜著『憲法』(岩波書店)のみです。
「芦部憲法」があれば行政書士試験の憲法の問題は解ける!
ということを示したいと思っています。

こんにちは、行政書士の山田優です。

 下記の説明が少し難しいと感じる人はコチラの
「山田優の☆ちゃんテキ合格☆行政書士試験」

の解説を読んでみてください。


 今回はこの問題で最も高度な事項について考えることにするが、本問についての検討は、さしあたって今回で終了としよう。問題の正答に至ること自体は、「行政書士試験・平成25年度・問題3・解説①」
で述べた思考過程をたどれば、比較的容易である。しかし、この判決文の述べていることは従前一般に考えられてきたこととは異なる。


 次の文章は、ある最高裁判所判決の意見の一節である。
空欄<ア>~<ウ>に入る語句の組合せとして、正しいものはどれか。

 一般に、立法府が違憲な<ア>状態を続けているとき、その解消は第一次的に立法府の手に委ねられるべきであって、とりわけ本件におけるように、問題が、その性質上本来立法府の広範な裁量に委ねられるべき国籍取得の要件と手続に関するものであり、かつ、問題となる違憲が<イ>原則違反であるような場合には、司法権がその<ア>に介入し得る余地は極めて限られているということ自体は否定できない。しかし、立法府が既に一定の立法政策に立った判断を下しており、また、その判断が示している基本的な方向に沿って考えるならば、未だ具体的な立法がされていない部分においても合理的な選択の余地は極めて限られていると考えられる場合において、著しく不合理な差別を受けている者を個別的な訴訟の範囲内で救済するために、立法府が既に示している基本的判断に抵触しない範囲で、司法権が現行法の合理的<ウ>解釈により違憲状態の解消を目指すことは、全く許されないことではないと考える。
(最大判平成20年6月4日民集62巻6号1367頁以下における藤田宙靖意見)

ア          イ           ウ


1 不作為    比例         限定


2 作為      比例         限定


3 不作為    相互主義      有権


4 作為      法の下の平等   拡張


5 不作為    法の下の平等   拡張


 本判決は、簡略化して述べれば、「本件の立法不作為について、司法権が介入し得る余地は極めて限られている」としている。ここまでは、これまで確認してきたことから理解しうる内容である。しかし、「司法権が現行法の合理的拡張解釈により違憲状態の解消を目指すことは、全く許されないことではない」と述べていることについては、どのように理解したらよいだろうか。「合理的拡張解釈」とはどのようなものだろうか。

 これについて考えるには、本判決の「立法府が既に一定の立法政策に立った判断を下しており、また、その判断が示している基本的な方向に沿って考えるならば、未だ具体的な立法がされていない部分においても合理的な選択の余地は極めて限られていると考えられる場合」の部分が参考になる。

 ここでは、立法府が既に一定の立法政策に立った判断を下していることが前提になっているのである。つまり、当該問題について既に一定の立法がなされている状況だと予想できるだろう。

 そう考えれば、「その判断が示している基本的な方向に沿って考えるならば」という記述も「未だ具体的な立法がされていない部分」という記述も理解可能になる。

 つまり、既に一定の立法はなされているが、不十分な点が残っており、その部分の立法をしないでいることが違憲であるという状況ではないかと、「合理的拡張解釈」という用語を知らなくても、本判決を落ち着いて読めば、推測できるだろう。

 では、「著しく不合理な差別を受けている者を個別的な訴訟の範囲内で救済するために、立法府が既に示している基本的判断に抵触しない範囲で、司法権が現行法の合理的拡張解釈により違憲状態の解消を目指すこと」の部分はどのように理解したらよいだろうか。

 ここで留意すべき点は、本判決も「本件不作為が違憲状態である」という認識に立っていることは、通常の考え方と同じであるということである。つまり、出発点は同じなのである。ただ、「著しく不合理な差別を受けている者を個別的な訴訟の範囲内で救済する」ための方法が異なるのである。

 話が少し抽象的になってきたので、本判決の具体的事案をおおまかに見てみよう。

 外国人の子が日本国籍を取得する要件について、国籍法は、胎児認知の子や準正子などの場合は届出によって日本国籍を取得できるのに対して、生後認知を受けた非準正子の場合はそれ以外の要件が必要であるとしている。これが法の下の平等原則に違反するのではないかが問題となったのである。

 ただ、「生後認知を受けた非準正子の場合はそれ以外の要件が必要であるとする国籍法の規定が違憲であるから当該条項は全部無効である」と判決しただけでは、非準正子の場合の救済にはならない。

 そこで、多数意見は「それ以外の要件が必要である」とする部分だけを違憲無効とした。これに対して、本問の藤田意見は、「届出によって国籍を取得できるとする
規定の対象者には生後認知を受けた非準正子も含まれる」という解釈をすべきだと主張しているのである。

 これは、届出だけで国籍を取得できるとする
規定の対象者には、もともと生後認知を受けた非準正子は含まれていないのにもかかわらず、含まれると解釈するのだから、当該規定の拡張解釈である。これが、ここで「合理的拡張解釈」と呼ばれているのである。この合理的拡張解釈によれば、「未だ具体的な立法がされていない部分」にいう「具体的な立法」とは、国籍法の当該規定の対象者に生後認知を受けた非準正子を含める立法であるということになろう。

 なお、この合理的拡張解釈の手法は、合憲限定解釈と逆の思考法であるが、合憲的限定解釈については、機会を改めて研究することにしよう。



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