テトラド1 統計外暗数犯罪 | 山田屋古書店 幻想郷支店

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物語を必要とするのは不幸な人間だ

作者は吉上亮。

 

2052年に小菅の東京拘置所で発生した大火災、そこから救助された静真は2年ぶりに東京に帰ってきた。小柄な彼の横にはフランケンシュタインの怪物のような巨体が聳える。相棒である坎手正暉警部補だ。警察庁の統計外暗数犯罪調整課に所属する二人の任務は、墨田区の土師町における暗数犯罪の調査である。さっそく土師町交番に向かうと、そこで意外な顔と出会う。静真を火災から救ってくれた永代皆規刑務官の父親と思しきベテランの警察官だ。彼によるとこの地域では小火が頻発しているという。静真は自身の特殊能力で、そこに何かがあると感じていた。

 

治安のバロメーターとされている犯罪認知件数は人口と経済規模に相関する。都内なら歌舞伎町がもっとも高く、治安が悪いとされる。しかしこの件数はあくまで警察が認知した犯罪の件数で、統計外暗数犯罪調整課は、見逃された犯罪について調査する警察庁の新設の部署だ。

 

隠された犯罪を調べるには静真(シスマ)の能力が活かされる。彼は周囲にいる人々の情動に強い感受性を示す特質があり、特に怒りの感情には強く反応し高熱を発し、そこにある何かを感じ取れる。矯正杭という医療器具を取り付けていなければ日常生活に支障を来たすほど強い能力だ。

 

その彼をサポートするのが相棒の坎手正暉警部補である。大火災の際に友人の永代皆規から静真を託され、その後すぐにコンビを組むようになった。皆規は静真を託し命を落としたが、死の間際に「矯正杭が人間とテトラドを共助の関係にする」と言い残した。テトラドとは果たして何なのか。


過剰に共感するシスマ、その真逆で冷静な正暉のコンビと、二人の共通の友人だった皆規の父である永代が協力者となり、土師町に迫りつつある脅威を追う。暗数犯罪という設定はあまり生かされていないが、警察小説としてはなかなか良い。続編ありきのようなので、そちらに期待かな。


次は澤村伊智。