斬首の森 | 山田屋古書店 幻想郷支店

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物語を必要とするのは不幸な人間だ

作者は澤村伊智。

 

死体をラップで巻き、穴に埋める。部長の指示のもと4人でやった作業だが、それは彼らを共犯者にするための行動だとシンスケは言う。ここは株式会社Tの合宿所、アユたちはTの正社員になる研修のためにここにやってきた。研修の内容が異様であることは薄々感じていたが、それに従う楽しさも感じ始めていた。しかしその夜、合宿所で火事が発生し、アユは一人の男に助けられ、結果的に合宿所を脱走することになる。脱走したのは研修に疑問を覚えていたシンスケと助けられたアユを含む5名、洗脳からは逃れられたが、全く居場所がわからない森の中で彼らは途方に暮れる。そしてやがて夜がやってくる。

 

株式会社Tはマルチ商法の会社で、あちこちから落伍者を集めては、洗脳し飼いならし搾取する、ということを繰り返していた。カルト商法を取材している小田和真は、水野鮎美という脱走者の取材をしている最中だ。本編は鮎美による合宿所からの逃亡劇を語ったものである。

 

水も食料も無く、野生動物に襲われる危険性もある脱出行。脱走の主犯であるシンスケこと太刀川は物知りで、サバイバルに関する知識もあるが、夜になれば真の暗闇が訪れる森の中で彼らは生き残れるのだろうか。行く手には大量の古い刃物がぶら下がった不気味な巨木と晒し首が立ちはだかる。

 

脱出した面々の人間関係も良好とは言えない。研修では洗脳のためにお互いの心の傷を晒しあっており、知りたくないことも知られたくないこともすべてお互いの共通認識になっている。そのため仲間とは言えないような微妙な空気が流れるだけの気まずい関係。チームワークなど望むべくもない。


ホラーサバイバルは大好きなのでガンガン読み進めてあっという間に読了。澤村さんの作品の中では一番好きかもってくらい面白かった。参考文献に麻耶さんの「翼ある闇」があるのも最高だ。斬首による圧倒的トリックならやはりこの作品だろう。ちょっとツッコミどころもあるけど、最近読んだホラーとしては一番の傑作だった。


次は吉上亮。