ルーマーズ俗 | 山田屋古書店 幻想郷支店

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物語を必要とするのは不幸な人間だ

作者は堂場瞬一。

 

10月2日、俳優の上杉彩奈が都内の自宅で一亜で発見された。そばには男性が倒れており、意識不明の重態、のちに彼は俳優の馬場直斗であることが判明する。実力派の馬場と人気上昇中の彩奈、二人は薬物中毒とみられ、ネットでは心中説など様々な噂が囁かれる。馬場は既婚者で家庭円満で知られていたが、不倫だという見方が大勢を占め、さらには彩奈を騙したというポジションに定着してしまう。さらには事件系ユーチューバーによる関係者への突撃取材、馬場の第二の愛人を名乗る女の登場、と次々と燃料が投下され、彩奈の死は人々のエンターテイメントと化していく。

 

人気女優の上杉彩奈の死を巡る騒動を、ネットの投稿とマスコミの報道のみで描いていく、ちょっと珍しい作品。インタビューのみで構成された作品などもあったけど、この手の客観視だけの作品は堂場さんとしては新機軸でなかなか面白い。特にネットの書き込みはそれっぽくて笑える部分も。

 

ネットのうわさで自分の思考がどう動くかを確認しながら読むのが面白かった。最近でいえば都知事選でのSNSの書き込みの熱量と結果が乖離しており、自分のうちに入れる情報だけで現実は見えてこないと再認識した。逆に言えば人間の認識なんて簡単にコントロール出来るってことよね。

 

本は娯楽だから作者にコントロールされるのも醍醐味だけど、現実でそれをやられるのは怖い。ファクトは公式発表だけで、あとは自分の考えで動かなきゃいけない、ってのは分かっていても難しいものだ。コントロールされるってのは楽で、なんでも疑ってかかるのは疲れるんだけどね。

 

次は澤村伊智。