芸能界 | 山田屋古書店 幻想郷支店

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物語を必要とするのは不幸な人間だ

作者は染井為人。

 

石川恵子は15歳の時にスカウトされ、アイドルとして芸能界デビューを果たした。デビュー三曲目でメガヒット曲を出し、スターに上り詰め、映画やドラマ、CMなどに何度もヒロイン役として出演した。しかし恵子もいまは50歳、安定して仕事は続けているものの、当時と比べたらどうしても露出は少ない。その彼女が目を付けたのが娘の日向がやっていたSNSだった。加工した写真を載せるだけで、多くのいいねがつきフォロワー数も増えていく。事務所からは何度もやめるよう言われたが、すっかり虜になってしまった恵子は承認欲求を満たすために次々と写真を投稿するが、ちょっとしたことで炎上してしまう。

 

女優、歌手、お笑い芸人など芸能界に所属する人々を描いた短編集。あらすじは「いいね」より。自分が世間から忘れられてしまうことを恐れる恵子は、気軽に自らの宣伝ができるSNSにハマっていく。ネットの怖さを知らない人がネットに夢中になってしまうと怖いよね、という典型的なお話だ。

 

「終幕」ではジャニーズを彷彿とさせる若手俳優の演劇を演出する叶野花江の没落を描く。権力者が女性と男性という違いはあるが、あの事件をモチーフにしたものだろう。「相方」ではデブとハゲのお笑いコンビがコンプライアンスのために自虐ネタを封じられ苦しむ。

 

どの短編も安定して面白いのだが、ちょっと刺激に薄い。結構ドロドロした展開を期待したのだが、過程の盛り上がりがイマイチで、ラストもハッピーエンドが多く物足りない。新刊が面白そうだったので、とりあえず手近な作品を読んでみたのだが、個人的には合わない作家さんかもしれない。

 

次は堂場瞬一。