山田屋古書店 幻想郷支店

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物語を必要とするのは不幸な人間だ

作者は芦花公園。

 

観光気分で楽しみにしていた台湾への留学、中国語に堪能な友人が事故で行けなくなってしまい、緑川芽衣は一人で台湾へと飛ぶことになった。いざとなったら友人を頼れば良い、と考えて芽衣は何も準備しておらず、当初は不安ばかりだったが、留学先の女子高の生徒たちはみな優しく、友人と呼べるような存在も出来た。しかしとある出来事をきっかけに芽衣は学校で孤立してしまう。虫、と呼ばれイジメられていた少女を擁護したためだ。美しい容姿を持ちながら、生理的な不快感を催す存在である虫こと恵君。孤立した芽衣は彼女を忌避しながらも魅了され、虫の虜になっていく。

 

高校生である芽衣が留学したのは台北市立中央女子高級中学、日本でいえば女子高にあたる場所だ。先生も生徒もみな親日家で、芽衣の世話係となった林詠晴という少女はクールでとっつきづらいものの、芽衣はすぐに学校に馴染み、友人たちと観光やグルメを楽しむようになる。

 

それを壊したのが虫こと恵君の存在だ。薄汚れてはいるものの非常に美しい容姿を持つ恵君。しかし彼女の声は不気味な虫のうごめく音に聞こえ、体に触れると幼虫のようなぶよぶよした触感を覚える。芽衣は彼女に対して生理的な不快感を覚えるが、それを我慢する価値があるだけの魅力も感じていた。

 

世界には人間と虫人間の2種類が存在し、台湾ではその虫人間を使役する集団が存在する。その集団の中で人間と同じように育てられた恵君は芽衣と出会い、それがすべての災厄の源となった。1話では少女時代の芽衣が描かれ、それ以降は大人になって山梨に嫁いだ彼女が描かれる。

 

「食べると死ぬ花」は男性同士のカップル、本作は女性同士のカップルの作品だが、共通して言えるのは同性愛だからとか関係なく、設定と描写がとにかく気持ちが悪いこと。あとは悪臭の描写が執拗で素晴らしい。作者の単発の作品としては一番好きかも。面白かった。

 

次は降田天。

作者は逢坂剛。

 

マスダ(南米マフィア)からの暗殺者を退けた禿富鷹秋と渋六興業の面々だが、組長は娘が殺害されたショックで引退し、現在はナンバーツーだった中岡が組長の座についた。その影響もあり渋六興業のシマを狙うマスダとの戦いは劣勢の状態だ。おまけにマスダの影響下にある警察官が渋六興業に味方する禿富を狙い始め、さすがのハゲタカも身動きが取りづらくなってしまう。しかし禿富は「くれむつ会」という悪徳警察官同士の互助会を利用し警察の幹部の弱みを握ると、彼を痛めつけた者に復讐を開始する。法律よりも自分の利益を優先するハゲタカの反撃が始まった。

 

神宮署の悪徳刑事である禿富鷹秋が主人公となるシリーズの第二弾。禿富が利用している渋六興業とマフィア・スダメリカナ(マスダ)との戦いはまだ続いており、今回はマスダに篭絡されている警察官も敵に回る。禿富はともかくとして、ヤクザである渋六興業は警察相手では分が悪い。

 

序盤ではリンチされる禿富をただ傍観するしかない渋六の幹部の姿も描かれる。暴対法が厳しくなった時代の作品かは分からないが、どんな時代でもヤクザが警察官に手を出すわけにはいかず、それを分かっていて冷静に幹部を止める禿富は流石だ。このシーンが象徴するように今回はステゴロ多め。

 

やっていることは前作同様にマスダとの争いなのだが、殴り合いのシーンが非常に迫力があり面白かった。特に巨体の御園と久光の戦いは読みごたえがあり、個人的には一番の戦いで、最後にとどめを刺す禿富の非情さも相まって良い。何となく読み始めたシリーズだが、思った以上に面白い。

 

次は芦花公園。

作者は矢樹純。

 

映像制作会社キュープロの杉田佑季と阿南幹人は山梨県の奥砂村に向かっていた。その地の白土家の邸宅でホラー映画、いわゆるフェイクドキュメンタリーを撮影するためだ。白土家は彼らの上司にあたる小隈の婚約者の実家で、その家を訪れた際にアイデアが浮かんだのだと言う。義父母は撮影を快諾してくれたらしいが、佑季は今回のシナリオに疑問を感じている。12歳の少年がトラブルに巻き込まれる話で、小隈にも同じ年の息子がいるのだ。なぜこんな縁起の悪い作品を作ろうと思ったのか。白土家でのロケハンの最中、オカルトを信じていない佑季も邸宅に不気味なものを感じ、不可解な事実が次々と浮かび上がってくる。

 

奇妙な因習のある僻地の集落が舞台のホラー小説。小隈が用意してきたのが、白土家に息子が生まれると12歳になると死亡するか行方不明になる、というものなのだが、小隈の息子の昴太も12歳で、彼が幼いころから接してきた佑季としてはフィクションとはいえ抵抗があるシナリオだった。

 

それでも所詮は田舎の怪談話で、呪いなど存在するはずがない、と考えていたものの、白土家では享年12歳の少年の位牌が複数発見され、さらに奇妙な出来事が続く。中でも不気味なのが、小隈の婚約者である紘乃のアルバムだ。飼っている愛犬がすべての写真で異なる犬なのだ。

 

呪いなどは無い、と考えている佑季も少しずつその存在を否定できなくなるが、そこで頼もしいのがオカルトに詳しい阿南である。彼は怪談話を収集したりなどのオカルト趣味があり、昴太を守りたい佑季に力を貸してくれる。夢中になると周りが見えなくなるところもあるが、頼もしい仲間である。

 

結構いろんな要素が入っていたのをラスト付近で一気にまとめた感じ。同じホラーだと「或る集落の●」もあるが、そちらよりもちゃんと解決している一方、不気味さは劣る。こちらはエンタメに寄ったホラーであり、個人的にはどちらも好みなので、非常に楽しかった。

 

次は逢坂剛。