山田屋古書店 幻想郷支店 -2ページ目

山田屋古書店 幻想郷支店

物語を必要とするのは不幸な人間だ

作者は木崎ちあき。

 

警視庁に確定死刑囚捜査班が設立されたのは、蛭岡事件の死刑執行が発端だった。昭和55年に発生し40年の時を経て蛭岡に死刑が執行されたが、直後に真犯人が名乗り出て、えん罪だったことが判明したのだ。警察に対する猛バッシングが続く中、再発防止を防ぐため、過去の死刑囚事件を調べなおす確定死刑囚捜査班(確捜)が発足した。班長は元捜査一課のベテラン、小津勇。定年までのんびり過ごそうと矢先の異動で本人も不満を抱えている。部下たちも懲戒処分を受けるような曲者ばかりで、確捜の前途には早くも暗雲が立ち込めていた。

 

博多豚骨ラーメンズの木崎ちあきによる警察小説。死刑囚を再度捜査する、という一見無駄にも思える部署だが、死刑が覆るほどではないにしろ、探ってみれば様様な事実が浮上するのが面白い。実際の事件でも深堀りすればいろいろ出てくるのだろうか。出来れば冤罪は勘弁してほしいが。

 

ベテランでやる気がない班長の小津、大企業の娘で警察内でも権力を持つ碓氷、不正アクセス禁止法で島流しになった西、腕っぷしが強い元軍人の横井、穏やかだがすぐに口が悪くなる柏木。この曲者で扱いづらい4人の部下が揃う確捜をまとめるのは大変で、序盤から小津は苦労が絶えない。

 

それでも個々のメンバーの長所が少しずつ明らかになっていき、チーム内の雰囲気も良くなっていく。正直、曲者揃いのチームで苦労する常識人、というのはわりと定番なのだが、定番なだけに面白い。特に一見紳士に見えるのに実は不誠実の塊のような柏木が好き。

 

3話が収録されているのが、一見まったく関係のない事件のように見えて、実は繋がりがあった、という展開もベタだが好き。誰が読んでも面白いかはわからないが、個人的には設定もストーリーも好きな一冊だった。ラーメンズもちょっと手を出したいのだが、14冊もあるから躊躇してしまう。

 

次は水生大海。

作者は幸村明良。

 

福岡県警組織犯罪対策部の橘涼真は無意識に嘘をついてしまう性格だった。そのおかげで捜査対象のヤクザに嘘の情報を流し続け、それがバレて命を狙われるようになってしまう。署内でも嘘ばかりついていた彼は警察を放り出される寸前だったが、その嘘つきの能力を買われ、警視庁組織犯罪対策部特別調査班の潜入捜査員としてスカウトされる。福岡を離れたことで何とか一命はとりとめたものの、待っていたのは日本最大のヤクザ組織である阿頼組に潜入し、中国マフィアとの取引の情報を得るという過酷な任務だ。正体がバレれば消されるのは間違いない。彼は嘘でこの任務を切り抜けることが出来るのか。

 

この文庫がすごい!で大賞を取った一作。主人公の涼真は責められたと感じると、それを取り繕うように嘘をついてしまう。その嘘を取り繕うために嘘を重ね、信用を失っていく。決して嘘がうまいわけではないのがポイントだ。その場を切り抜けようと適当なことを言ってピンチに陥るシーンは多々ある。

 

その涼真が最初に接触したのが阿頼組の五代目組長、清山の一人娘の紗香である。自らも複数の水商売の店舗を持ち、組のシノギに貢献している彼女だが、子供のころから親がヤクザということで散々な目に遭っており、何とかいまの境遇から抜け出すために涼真を利用しようと協力関係を結ぶ。

 

お互いが利用しあう関係の涼真と紗香、最初こそ警戒しあっていたが、紗香はだんだんと涼真に本音を話すようになり、涼真も彼女の境遇を気の毒に感じるようになる。個人的にはわりとありがちな展開とラストで、面白くはあったものの目新しさはなかった。新作のトリタテ係はどうなんだろうか。

 

次は木崎ちあき。

作者はジェイムズ・バーン。

 

アフリカでの作戦から半年後、兵士だったデズは仲間たちに宣言した通り引退し、カリフォルニアで気ままな生活を送っていた。今日は友人の手伝いで高級ホテルのクラブで演奏し、与えられた部屋に戻ってきたところだ。ビールを飲んでリラックスしようとした矢先、窓から向かいの建物にいるスナイパーを見つけてしまう。下を見ると黒いヴァンからは複数の男たちが訓練された動きで展開する。明らかにプロだ。面倒ごとに首を突っ込むことはない、と思いつつデズは侵入者たちの動きを追う。奴らは女性の部屋に侵入し拉致しようとしていた。それがエレベーターで会った絶世の美女だとわかると、デズは躊躇なく侵入者を叩きのめした。

 

初めて読む作家さん、タイトルが面白そうだったので読んでみることにした。デズが助け出した美女は民間軍事企業トリトン・エクスペダイターズの創業者の娘、ペトラ・アレキサンドリスだった。冷静でタフな彼女は、デズが敵を叩きのめした後に彼に銃を向ける。信用できるか分からないからだ。

 

そんな出会い方をした二人だが、とある大物から「彼は信用できる」とのお墨付きを得て、ペトラは会社で起こっている横領事件の調査をデズに依頼する。ペトラ自身は有能なのだが、創業者である父は安全のために常に彼女に監視をつけており、迂闊に動けば横領犯に感づかれる可能性がある。

 

デズは冒頭での活躍でもわかる通り、とんでもなく有能で、次々と敵に繋がる証拠を発見してくる。彼はかつての仲間からはゲートキーパーと呼ばれており、ゲートに関するプロ、つまりセキュリティのプロなのだ。それだけでなく腕っぷしも強く、戦車のような体躯で敵を寄せ付けない。

 

タフな二人のまえに立ちはだかるのは、何十年も前から構想されている超保守派による51番目の州の設立だ。ナチを信奉する白人至上主義者によって行われているその活動は、政治や経済の中心部にまでシンパがおり、誰が敵か味方かすら分からない状態は、さすがの二人にとっても厳しい。


中盤まではデズの活躍が目立つが、クライマックスからはペトラの戦いも見逃せない。一緒にいた期間はわずか10日ほどだが、良いコンビである。海外小説にありがちな中だるみもなく、随所に見せ場が用意されているエンタメのお手本のような一冊だ。デズの次の活躍もあるようだが、果たして翻訳されるかな。


次は幸村明良。