皆さん、こんにちは。
歯科医師の坂上です。
さて今回は「TCH」についてお話したいと思います。
TCHという言葉を聞いたことがありますか?
TCHとは、Tooth Contact Habitの略で、上下歯列接触癖のことです。
TCHは、東京医科歯科大学の木野孔司先生が提唱したもので、ブラキシズム(歯ぎしり・咬みしめ)のクレンチングのように強い力で咬みしめるのではなく、日中に食事などをしていないときでも無意識にずっと弱い力で上下の歯を接触させている状態を指します。
このTCH は顎関節症に深く関わっていることが明らかにされてきています.
実は、上下の歯が触れている時間は1日でたった20分程度といわれていて、その中には、食事や会話、唾を飲む時も含まれています。
通常、咬む筋肉や口を開ける筋肉が活動していない状態であれば、上下の歯の間にわずかなすき間が生じます。
しかし、会話や食事以外の時は歯が触れていないのが正常ですが、無意識に歯を接触させていることがあります。
TCH がある方は常に上下の歯を接触させてしまうため、咬む筋肉が常に緊張した状態となり、長い時間続いた後にはとても疲労してしまいます。
ヒトは何らかの作業をする際、軽い緊張が持続することがとても多いと思います。
TCHが出やすい生活の場面としては、パソコンやスマートフォンの操作、勉強、読書、運転中、下を向いて集中するような作業(料理、裁縫、草取り等)、緊張する場面などがあげられます。
約10年前までは、一般にTCHの認識がありませんでした。
しかし、たとえごく弱い力での接触であっても、TCHがあると歯や歯肉、顎の関節やまわりの筋肉に長時間余分な力を加え続けることになるため、歯も顎も悪くなっていくことが明らかになってきました。
・噛むと痛くなったり、しみたりする。
・お口の回りの筋肉にこわばりがある。顎が痛い。
・歯がすりへる、欠ける。
・歯が割れる。
・歯周病が悪化し、歯がグラグラしてくる。
・詰め物がとれる、割れる。
・頭痛、肩こり
などの様々な要因になっています。
少し意識してみてください。思い当たることがございませんか?
今まで原因不明の痛みだったものが、TCHの考え方によって理解できて対策ができるようになりました。
では、どのように診断・治療するのでしょうか。
まずは当院で診査、診断を行い、その上で治療を行う必要があります。
なぜならTCHと思われる症状があっても、必ずしもTCHとは限らないからです。
無意識で行っているため、本人が気付きにくいTCHの改善方法は、歯科医院で指導を受けながら、上下の歯を接触させない癖をつけていきます。
TCHは、やっているかどうか、はたから見てもわからないので、まわりの人に注意してもらうこともできません。
「歯を接触させないように気をつける」という方法自体はとてもシンプルですが、どうしても癖がやめられないという経験をもつ方はたくさんいるはずです。
ここで、ひとつ手助けになる有効な手段があります。
「貼り紙法」です。
パソコンやテレビなど職場と自宅の目に付くところに、
「唇を閉じて歯を離す」、「力を抜く」、「リラックス」
などと書いた貼り紙(リマインダー)、シールを貼り、それを見たら上下の歯を接触していないかを確認するようにしていくのも一つの方法です。
接触していた場合は、鼻から大きく息を吸い込み、口から息を吐き、体全体の力を抜きます。
睡眠中の歯ぎしりとは異なり、患者さん自身で治していくことが可能です。
単純でばかばかしいと思いがちですが、ずっと常に意識し続けるのは不可能です。
そこで、この「貼り紙法」を繰り返すことによって、TCHを思い出して、少しずつ「歯を離す・リラックス」という行為が習慣づいてきて、貼り紙をみなくても身についてきて、TCHの改善につながります。
外出を控え、ご自宅におられる時間も増えているかと思いますので、ぜひセルフチェックしてみてください。
今後も引き続き患者様に有益な情報を発信して参りたいと思います。