こんにちは。
歯科医師の坂上です。
皆さん、お口の細菌はどのくらい種類があるかご存知でしょうか。
実は口腔中には約700種、100億個の細菌が常在しているとされてます。
この口腔常在菌が体の別の部分にたどり着くと、別の病気を引き起こすことが徐々にわかってきています。
今回は、お口の細菌が大腸がんに関与している可能性がある、と最近報告されましたので、それについてお話したいと思います。
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 顎顔面疾患制御学分野の杉浦 剛教授の研究チームは、鹿児島大学病院消化器外科、大阪大学微生物病研究所との共同研究により、大腸がん患者の口内にある常在菌4種類が、健康な人より多くなっていることを発見しました。
論文は7月2日付の国際学術誌「Cancers」に掲載されております。
つまり、これは口腔から大腸へ細菌が供給され、口腔細菌が大腸がんの発生に関与している可能性があることを示唆しております。
本共同研究では、大腸がん患者52名と健康な人(対照群)51名から唾液と便のサンプルを採取し、遺伝子レベルで細菌叢解析を行いました。
その結果、大腸がん患者の唾液・便サンプルに共通して存在する特異的な口腔常在菌が4種類あることを世界で初めて発見しました。
大腸がん患者と健康な人では、口腔内と大腸内の細菌構成が異なっており、これら4種の常在菌(Peptostreptococcus stomatis、Streptococcus anginosus、Solobacterium moorei 、Streptococcus koreensis )は、これまで大腸がんから検出されてきたFusobacterium属とは異なる菌種であり、また、大腸がん患者に特異的であることから、大腸がんおよび発がんに関わる細菌であることが示唆されます。
中でも、S. moorei は早期がん患者に比べ、進行期がん患者で唾液と便の両検体で検出量が有意に多い結果でした。
主に歯内感染や歯周病に関連する細菌種とされますが、S. moorei は大腸がんの発生だけでなく、がんの進行にも影響を及ぼしている可能性が示唆されます。
教授らは、腸内の細菌は口から運ばれたものであり、直接か間接かは不明ですが、口内の特定の細菌が大腸がんの原因になっているのではないかと考察されております。
研究チームは、大腸がん患者に多い口内細菌発見したことで、唾液に含まれる菌の検査で大腸がんの発生やリスクが分かる方法を研究中であり、唾液を用いた口腔細菌叢解析による大腸がん診断法の確立および大腸がんリスク診断法の開発・実用化を目指しているそうです。
口腔衛生環境についても、残存歯の平均本数は大腸がん群の17.7本に対し、対照群では24.9本でした。虫歯の割合は、それぞれ34.6%、11.8%でした。プラーク(歯垢)が歯の3分の1以上に付着していた割合は、大腸がん患者群の78.8%に対し対照群では35.3%と、大腸がん患者群では口腔内の衛生状態が悪い結果でした。
なお、1日当たりの歯磨き回数が3回以上の割合は、大腸がん患者群の34.6%に対し、対照群では72.5%と顕著な差が見られました。
したがって、歯科治療や口腔ケアなどの歯科的介入や食事による口腔細菌叢の管理により、口腔内から腸内への細菌の移行が減り、大腸細菌叢をコントロールすることで大腸がん予防につながる可能性も示唆されます。
日頃患者さんの口腔内の管理にあたるかかりつけ歯科の役割がより重要になってくると思われます。
歯を守るだけでなく、ご自身の健康を守るために徹底した専門的な歯周病治療・予防を行っていただきたいと思います。
今後も引き続き患者様に有益な情報を発信して参りたいと思います。
【原著論文情報】
<タイトル>
Colorectal Cancer Patients Have Four Specific Bacterial Species in Oral and Gut Microbiota in Common—A Metagenomic Comparison with Healthy Subjects
<著者名>
Yoshinori Uchino, Yuichi Goto, and.et.al
<雑誌> Cancers 2021, 13(13), 3332