宋の神宋帝のころ、蔡君謨(さいくんぼ)という非常に髯の長い人がいました。
あるとき神宋帝から、
「おまえの髯は非常にりっぱなものだが、寝るときには、蒲団の中に入れて寝るのか、それとも出して寝るのか」
と問われました。
毎晩やっていることですが、さてそう問われてみると返答ができません。
その晩、どうして寝ていたのだろうかと思って、まず蒲団の中に入れてみました。
しかしどうも寝ぐるしい。
やはり出して寝ていたにちがいないと、こんどは出してみたところ、アゴをつり上げられるようで、なお寝ぐるしい。
出したり入れたり、とうとう一晩中眠られなかった‥‥という話があります。
このように、平生なんとも思わなかったことでも、他からヒョイと言われて、それにとらわれると、迷いを生じ、自由を失ってしまいます。
(つづく)
(※)
「茶席の禅語」(西部文浄著) から引用させて
いただきました。
こういうことはよくありますね。
何気なくやっていることでも、あらためて考えてみたり、人から聞かれたりすると、分からなくなります。
その後、それを忘れていると、フッと思い出したりします。
おもしろいものです。