『嗤う伊右衛門』 | OYJ Dimension

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単なる備忘録として。

『嗤う伊右衛門』 

京極 夏彦 

中央公論社 

1997年6月20日 初版発行 

Book Off OnLine \110- 

 

 先ず江戸時代の行政組織(メモ)

 旗本御家人は、徳川将軍家直属の家臣で、直参(じきさん)とよばれる。石高(こくだか)が1万石未満で、将軍が参列する儀式などに同席できる御目見(おめみえ)以上の者を旗本 と呼び、同席できない御目見以下を御家人と呼ぶ。旗本は馬に乗れる「騎兵」で、御家人は馬に乗れない「歩兵」。

 

 御家人の中には、奉行が居て、その補佐役として町の治安を守るさまざまな仕事をこなしていた役割の人が与力(よりき)、その下が同心(どうしん)で、主に与力の補佐役です。与力は馬に乗れ、同心は乗れないなど上下関係があった。 

  小説の中で与力同心が出てくる。主人公の伊右衛門は最下級の武士で、剣の腕はたつ。同心民谷 又左衛門(たみや またえもん)には 民谷 岩 という娘が居た。かつては美人と言われていたが、疱瘡によって顔の見た目がかなり悪くなっていた。伊右衛門は岩と結婚して、民谷家を引き継ぐこととなる。伊右衛門は岩を愛そうとするのだが、岩はそれを受け入れず、最終的には離縁する。

 

 物語に登場する重要な悪役は、金で与力の地位を獲得した、伊藤 喜兵衛(いとう きへい)である。この男は、町人の娘を手込めにしたり、伊右衛門や岩に嫌がらせをしたり、妾を複数囲ったり、公的地位を悪用して特に女性関係でだらしのないことを繰り返していた。主人公の伊右衛門は喜兵衛にもてあそばれた町人の娘、と二度目の結婚をする。梅との間に娘が出来るが、それは実は喜兵衛の子であった。

 

 物語は、伊右衛門の知人や友人の事故、事件、死など、ドロドロした話に展開して、最後には娘も殺され、岩は亡霊となって再登場する。結末は、伊右衛門が悪党喜兵衛を切り捨てて一件落着となるが、最後の最後に、本当の嗤う伊右衛門が登場して、物語の幕が閉じる。 

 

  文章がとっても幽玄な感じで、怪談話ぽい。落語を聞いているような読み応えだ。話と登場人物の関係性がやや複雑で、細かいところを読み飛ばすと理解が薄くなってしまう。ゆっくり味わいながら読むと良い感じ。私はスペイン旅行中の飛行機の中で少し読み飛ばしてしまったので、後にもう一回味わいたいと思う文章(小説)となった。