写経屋の覚書-フェイト「今回は『私立学校令頒布に関する訓令』の付帯事項の続きだね」

写経屋の覚書-なのは「うん。第5項から第8項までを見ていくね」

 五、従来私立学校より提出する文書は或は地方官を経由するあり或は直に之を本部に致すあり其の取扱区々に渉りしも自今は総て地方官を経由することに定められたり是蓋し地方官の責任を重からしめ又其の監督を有効ならしめんとの趣旨に出たるものとす

 六、地方官に於て経由文書を受理したるときは其の明かに法令に適合せさる文書に就ては訂正又は改作を命すること固より妨けなしと雖地方官限り之を却下し又は処分を施すか如き旧慣は将来断然之を廃すへし而して若し其の事件に関し意見あるときは進達の際之に副申すへし尚学校設立の出願に対しては地方長官は特に其の意見を具陳すへし就中土地家屋の取得又は財源の設定のことの如きは概ね紛糾の事情之に伴ひ其の真相を知り難きものあるを以て是等は特に事実を詳査し且つ之か証憑書類等を提供せしむへし

 七、私立学校の監督に就ては従来地方官の権限明ならさりしか本令は特に明文を以て之を定められたり故に地方官は道府郡の費用を以て設立する公立学校に就ては自ら其の管理者たり私人の費用を以て設立する学校に就ては監督の地位に立つか故に従来の如く地方官として私立学校の設立者となり又は学校長となるか如きは公立学校と私立学校との分界を明ならさらしめ且監督者被監督者の地位を混同して法令の精神を貫徹する能はさるの虞あるに依り自今之を避けんことを要す

 八、我国子弟の教養を目的とする私立学校にして之か設立者を外国人なるときは其の東洋人たると西洋人たるとに論なく私立学校令に依り自ら進んて認可を請ふにあらされは学部は之を監督するの責を負はさると共に保護奨励を与ふるの途も亦求め難し然れとも均しく我国子弟の教育機関にして斯の如きは学校本然の目的を達するに不便尠からさるへきに依り此種の学校に於ては必すや私立学校令に依り認可を希ふに至るへし本大臣亦固より歓んて之を迎ふるに吝かならさるに依り地方官に於ても須らく此旨を体し措置宜を得て遺憾なきを期すへし

写経屋の覚書-はやて「第5項と第6項は、監督官庁についての規定やんな」

写経屋の覚書-なのは「うん。監督権限の所在と、行政上の筋というか系統を明白に規定しているの。これで、地方官は私立学校に対して監督の責務は負うけど、その提出文書の受理や審議の権限はなく学部へ取り次ぐだけ、疑義や意見があれば当該文書を学部へ送る際にそれを添えなさいと規定されたの」

写経屋の覚書-フェイト「第7項はどういうこと?素直に読むと、地方官の官職にありながら私立学校の設立に関与している役人がいるというふうに解釈できるんだけど?」

写経屋の覚書-なのは「そうとしか読めないよね。地方官として公費で公立学校を設立するんじゃなくて私立学校の設立に関与するのは、つまり『公私混同』にあたるので止めなさいと。俵学部次官の訓示演説要領(隆煕3年9月7日)(3)でも触れたように、学校設立を大義名分にして、公有財産を横領するために学校財産を利用しようとする考え方はあったみたいだし、その辺の区別はちゃんとしないといけないんだよね」

写経屋の覚書-はやて「地方官が私立学校をつくったら、転任後はどうするんやろ?やっぱりそのまま設立者とか校長に留まるんかな?」

写経屋の覚書-フェイト「で、その地方の名士として隠然たる影響力を保持し続けるとか?」

写経屋の覚書-はやて「そやそや、在任中には地元の有力者を被官に取り込んだりしといてな、って平安時代中期の受領かーい!」

写経屋の覚書-なのは「第8項は私立学校令の適用についての説明なの。少し回りくどい感じもする文章だけど」

写経屋の覚書-フェイト「えーっと、私立学校の設立について私立学校令による認可を受けない場合は、学部は監督の責任もないけど、同時に保護や援助もできないよ。でもそれじゃ学校設立の目的を達成するのに不便でしょ。だから私立学校令によって認可を申請しましょうね、って意味だよね?」

写経屋の覚書-はやて「んん?認可申請のススメってやつかな?『学部は之を監督するの責を負はさると共に保護奨励を与ふるの途も亦求め難し』やねんけど、もし総督府の法令にこの条項がああったら、飴と鞭を提示して認可申請を強制する脅し文句、っちゅう解釈をする連中がいるかもしれへんで」

写経屋の覚書-フェイト「もし、認可申請をしないで私立学校を設立したら、処罰とかあるの?」

写経屋の覚書-はやて「罰則とかなさそうやねんけど…あ、獄長が、私立学校令等について(一)」で、罰則規程があらへんって書いたはるわ」

写経屋の覚書-フェイト「ほんとだ。『閉鎖命令に対する対する不服申し立て等の条項が無い』ことと合わせて、韓国の実情を考慮したせいじゃないか?としているけど、妥当なのかな?」

写経屋の覚書-なのは「作者もそれが妥当な解釈だと考量しているの。無認可のまま設立した私立学校に対しては、認可申請をするよう行政指導を続けていくんじゃないかな」

写経屋の覚書-はやて「どうせ、統監府が実質的に掌握していた学部を通じるかたちで弾圧とか有形無形の圧力を加えたとか言う連中がおるんやろけど」

写経屋の覚書-なのは「じゃ、今回はここまでにするね」

私立学校令頒布に関する訓令(1)
私立学校令頒布に関する訓令(2)
写経屋の覚書-なのは「今回は『私立学校令頒布に関する訓令』の付帯事項を順番に見ていくね」

 一、私立学校令は私立学校に対する一般法なるを以て特種の私立学校に関し別に法令の規定あるものに就ては各其の法令に依るへきは勿論なりと雖其の法令に規定なき事項に関しては総て私立学校令の支配を受くへきものなりとす例へは私立普通学校又は私立高等学校の如きものに在りては先つ普通学校令又は高等学校令に依るへく而して該令に規定なき事項に就ては私立学校令に依るへきの類なりとす地方官は能く此関係を知悉し執行上遺漏なからんことを期すへし

写経屋の覚書-フェイト「先に『私立普通学校令』や『高等学校令』が存在しているんだね」

 二、私立学校設立の要項は同令第二条に規定せられたり就中其の最も重要なる事項を挙くれは学校の目的、学則及維持方法なりとす而して学校の目的は以て其性質を闡明ならしむへく学則中に規定すへき修業年限、学科目及其の程度並入学資格等は其の学校の種類及程度を識別すへき標準たるへく又維持方法は財源の有無と基礎の確否とを知悉すへき資料たるへきものにして何れも学校設立の要素たるものとす尚学則に就ては別に之か記載例を定めて公示する所あるへし是れ学校をして学則編成上の参考に資せしめんか為にして敢て必すしも之を墨守せしむるの趣旨にあらさるを以て誤解なからんことを要す

「ちょぉ待って!青字部分、修業年限とか学科とかの学則をいちおう規定せなあかんみたいやねんけど、別途記載例を公示するってどういうことなん?」

「様式というかテンプレみたいなものを規定して別の記事で公示するってことなの。これについてはまたあらためて触れるから、ここではパスするね」

 三、私立学校の閉鎖処分は監督の最終手段にして事体甚た重大に属するを以て之か行使は固より望む所にあらす然れとも苟も公安風俗を害するの虞あるものの如き法令若くは命令に違背するものの如き或は永く授業を休止するものの如きは之を看過すへからさるを以て処分の此に出つるは寔に已むを得さるなり地方官は能く其の旨を体し若し是等事項に該当するものあらは其の事実を精査して速に本大臣に報告し以て処分の機宜を謬らさらしめんことを期すへし

 四、私立学校令頒布の後に於ては総て本令に依り設立の認可を受くへきは勿論尚既設の学校も其の嘗て認可を受けたると否とを問はす本令に基き更に認可を請はさるへからさるを以て苟も本令に依り認可を受けたるものにあらされは将来其の存在を認めさるなり随て若し認可を経すして学校と認むへき事業を為すものに対しては其の事業の禁止を命することは法令の規定する所なりと雖かかる場合に於ては一応当事者に通告して本令の規定に依らしむることを戒諭するは行政上の措置として其の当を得たるものなるへし

「事業禁止を言い渡す前に通告するんだ」

「うん。まず改善命令というか『行政指導』、ここでいう『戒諭』を行なうのが当然とは思うよ」

「そのへんは今の日本の行政と変わらへんのかなぁ」

写経屋の覚書-なのは「じゃ、今回はここまでにするね」

私立学校令頒布に関する訓令(1)
写経屋の覚書-なのは「前回の最後で予告したとおり『私立学校令頒布に関する訓令』を見るよ」

写経屋の覚書-フェイト「それってやっぱり大韓帝国の官報が出典なの?」

写経屋の覚書-なのは「うん。これも『私立学校令』と同じで、日本語版が『日本植民地教育政策史料集成(朝鮮編)第64巻』にあるから、原語版と照合したうえでそっちからテキスト起こしして、適宜区切って解説していくね」


写経屋の覚書-私立学校頒布訓令原文1
写経屋の覚書-私立学校頒布訓令原文2
写経屋の覚書-私立学校頒布訓令原文3
写経屋の覚書-私立学校頒布訓令原文4

写経屋の覚書-私立学校頒布訓令訳文1
写経屋の覚書-私立学校頒布訓令訳文2
写経屋の覚書-私立学校頒布訓令訳文3
写経屋の覚書-私立学校頒布訓令訳文4
写経屋の覚書-私立学校頒布訓令訳文5
写経屋の覚書-私立学校頒布訓令訳文6
写経屋の覚書-私立学校頒布訓令訳文7


私立学校令頒布に関する訓令 隆煕二年八月二十六日 学部訓令第二号(九月一日官報掲載)
                         道、府、郡
光武十年学政革新の時に当り私立学校に関し別に法令の頒布なかりし所以のものは蓋し其当時に於ける教育上の状態に鑑み姑く之を自然の発達に委するの可なるを認めたれはなり爾来時運の趨勢は頓に向学心の勃興を促かし至る処学校の新設を競ふて日も惟れ足らさるの観を呈せり是固より奎運隆興の徴象として洵に慶ふへき所なりと雖顧みて之か実況を按すれは其の内容の不備なる其の組織の不完全なる毫も教育機関たるの実質を具へさるものあり甚たしきは基礎鞏固ならさるか為めに朝に興りて夕に廃するもの亦尠からす之をして其の自然の推移に委せしめんか流弊の及ふ所遂に測り知るへからさるに至らん是則ち今の時に於て私立学校令を頒布せられたる所以なり然れとも本令は単に私立学校を検束せんとするものにあらす私立学校にして完きものは益々之を奨励し弊あるものは之を矯正し提撕誘掖以て各其の本然の目的を遂けしめんとするは実に本令の精神なりとす今回別に頒布したる学部令第拾四号私立学校補助規程並学部令第拾五号公立私立学校認定規程の如きも実に此趣旨を表現したるもに外ならさるなり要するに私立学校は教育普及の上に於て将た又世教補益の上に於て資する所尠からさるか故に其存在は之を藐視すへきにあらす況や教育に関する国家の施設猶未た洽からさる今日に於ておや然れとも彼の世の風潮を趁ふて濫りに之か設立を企画し又は外観の粉飾に努めて教育の本旨を没却するものの如きは小にしては人の子を賊ひ大にしては国家の進運を阻碍するの虞ありと認むるを以て本大臣は徒らに学校に多きを致さんよりは寧ろ一般に内容の完備に赴かんことを切望して已まさるなり任に地方官の職に在る者能く此趣旨を体し監督其の方を愆らさらんことを期すへし
本大臣は茲に私立学校令の頒布に際し施行上注意すへき事項の一斑を示すへし

写経屋の覚書-はやて「えーっと、ようはこれまでも見てきたように、私立学校設立ブームとその内実についての説明と、私立学校令の施行上の注意事項ってことやんなぁ」

写経屋の覚書-フェイト「欠陥のある私立学校もそれを改めさせるって書いてあるね。これも今まで見てきたとおりだね」

写経屋の覚書-なのは「うん。とうてい弾圧とはいえないわけだよ。原文と訳文の画像で容量をとったから、今回はここまでにして、附則事項は次回から見ていくね」