写経屋の覚書-フェイト「前回の最後で、今回は少し珍しいかもしれない史料を取り扱うって言ってたよね?」

写経屋の覚書-なのは「うん。『儒学経緯』って書籍なんだよ。獄長日記でも取り上げられているんだけどね。参考エントリーはこれだよ」

俄館播遷のその後(二十二)

さて、前回学部大臣申箕善の辞職にまで発展した『儒學經緯』ですが、流石に原本を読む事は田舎にいては不可能。
しかしながら、イザベラおばさんの『朝鮮紀行』にその内容が一部記載されていますので、折角ですから日本語版547頁末から引用してみましょう。

  朝鮮における教育に関連して特記しておかなければならないのは、ごく最近の1896年末、『儒学経緯』という本が発刊されたことである。
  この本は学務大臣申箕善が編集し、2名の学務顧問が序文を書いていて、費用は政府持ちで刊行された。
  『儒学経緯』にはつぎのような記述がある。

  52ぺ-ジ
  「ヨーロッパは文明の中心すなわち中国からあまりに遠く離れている。
  ゆえにロシア人、トルコ人、イギリス人、フランス人、ドイツ人、ベルギー人は人間よりも鳥獣に似ており、その言語は鶏が鳴いているように聞こえる」

  同じく52ぺ-ジ
  「近代人の見解によれば、西洋人がキリスト教と呼ぶところのものは俗悪浅薄で正道をはずれており、野卑な習俗の例証で、まじめに語るに値しない。

  (中略)

  彼らは天の神を拝みはするものの、親を奉らず、ことあるごとに天を侮辱し、社会的な関係をくつがえす。
  これはまさしく野蛮な低俗さのあらわれであり、われわれが外国の慣習を論評して遇するには値しない。
  くだんの宗教が衰退している現在ではなおさらである。
  西洋人は清をのぞきあらゆる国に腹子をまいた。
  彼らはそのすべてがこの宗教を奉っている(!)が、驚くべきことに清の知識人と庶民はそれによる汚染を免れたのである」

  42ぺージ
  「最近いわゆる耶蘇教が野蛮な教えで世の中を汚そうとしている。
  この宗教は天国と地獄のつくり話で大衆をあざむき、先祖崇拝の祭祀にくちばしをはさんだり、天地の神々にぬかずく慣習を禁じたりしている。
  これらは知性の曇った者のたわ言であり、論ずるに足りない」

  50ぺージ
  「世界の中央たる清帝国のいかに偉大で栄えあることか!
  清帝国は世界で最も大きく最もゆたかな国である。
  世の偉人はすべて中国の生んだものである」

  公職にある者の手によるこの弾劾文は、諸外国公使から抗議に値すると見なされた。

(´Д`;;)

江華島条約から20年。
米朝通商条約から14年たった時代に、学部大臣が書いた教科書の内容がこんな感じ。(笑)
申箕善が、事大主義というか華夷秩序の中に生きてるっつうのは分かりますがね。
ウェベルもこんなの調整しなきゃならないなんて、そりゃ5月9日のエントリーのように嫌気もさしてくるよねぇ・・・。

つうか、「近代人の見解」がキリスト教は俗悪浅薄で正道をはずれており、野卑な習俗の例証で、まじめに語るに値しないって、どこの近代人だよ。(笑)

写経屋の覚書-フェイト「グーグル先生に訊いたんだけど、これまでこの史料を原文で取り上げているところってなさそうなんだね。ほとんど『朝鮮紀行』の日本語版を引用紹介してるよ」

写経屋の覚書-はやて「ほんまや。ほんでこれまでの例に照らしたら、作者はこの『儒学経緯』の複写を入手したいう流れになるんやな?」

写経屋の覚書-なのは「正解。2011年の夏に複写したんだよ。イザベラバードが書いていることが妥当かどうかを確認するためには原文が不可欠だからね」


写経屋の覚書-儒学経緯_表紙
写経屋の覚書-儒学経緯01

写経屋の覚書-フェイト「じゃぁ、イザベラ・バードの『朝鮮紀行』と照合しながら見ていけばいいんだね」

写経屋の覚書-なのは「そういうことだよ。まず『朝鮮紀行』p547を見るね」

朝鮮における教育に関連して特記しておかなければならないのは、ごく最近の1896年末、『儒学経緯』という本が発刊されたことである。
この本は学務大臣申箕善が編集し、2名の学務顧問が序文を書いていて、費用は政府持ちで刊行された。

写経屋の覚書-はやて「申箕善が編集したんはわかるけど、序文を書いた『2名の学務顧問』って誰なん?」

写経屋の覚書-なのは「学部編輯局長兼参書官の李康稙と中枢院参書官の金沢栄って人なの。序文はこんなのだけど別に変なことは書いてなかったよ」


写経屋の覚書-儒学経緯序文0001
写経屋の覚書-儒学経緯序文0102
写経屋の覚書-儒学経緯序文0203
写経屋の覚書-儒学経緯序文0304

写経屋の覚書-なのは「ま、問題は本文だからね。まず『朝鮮紀行』の方を見るよ」

  52ぺ-ジ
  「ヨーロッパは文明の中心すなわち中国からあまりに遠く離れている。
  ゆえにロシア人、トルコ人、イギリス人、フランス人、ドイツ人、ベルギー人は人間よりも鳥獣に似ており、その言語は鶏が鳴いているように聞こえる」

写経屋の覚書-フェイト「鳥獣に似ているとか、言語は鶏の鳴き声みたいって人間扱いしてないように見えるよね」

写経屋の覚書-なのは「たしかに52ページを見るとこんな記述があるの」


写経屋の覚書-儒学経緯5253

惟俄惟土英法義徳是曰泰西欧邏之域即俗所称西洋国之地
 欧邏巴洲在亜細亜之西北方可万余里人皆長大深目高準緑睛巻毛語音啁啾若禽鳥其文如科斗

写経屋の覚書-フェイト「えーっと…『惟』は強調の『これ』で、『俄』はロシア、『土』はトルコ、『英』はイギリス、『法』はフランス、『義』はイタリア、『徳』はドイツ、『欧邏巴』はヨーロッパだよね」

写経屋の覚書-はやて「ロシア・トルコ・イギリス・フランス・イタリア・ドイツを泰西欧邏之域つまり西ヨーロッパ地域という。いわゆる西洋やと。ほんでヨーロッパはアジアの北西1万里にあって、住人は背が高くてほりが深くて鼻筋が高く瞳は緑で、毛は巻いとる。しゃべる言葉は啁啾若禽鳥其文如科斗…わからへん」

写経屋の覚書-なのは「『啁啾』は鳥の鳴く様子を表す言葉なの。鳥の声みたいだってのは、しゃべってる言葉がわからない時に使われる慣用句的表現なの。孟子も楚の許行を批判する時に『南蛮鴃舌』なんて言ってるんだよ」

写経屋の覚書-フェイト「いくら、楚の言葉が聞き取りにくいものだったとしても、言説の批判じゃなくて人そのものを謗るなんて嫌なやり方だね…」

写経屋の覚書-なのは「作者が孟子を好きでない理由の一つなんだよね…『科斗』はオタマジャクシのことなの。木や竹の棒に墨をつけて字を書くと、書き始めが太くて終わりが細くなるでしょ。その様子がオタマジャクシっぽいからなんだよ。本来は筆のなかった時代の古代中国の文字に対して使われることが多い表現なんだけどね」

写経屋の覚書-フェイト「言われてみると、アルファベットってたしかに書き始めが太くて終りが細い感じのものが多いよね。漢字に比べて単純で曲線的な感じだし、eとかqはオタマジャクシっぽいかも」

写経屋の覚書-はやて「ちゅうことは鳥の声にしてもオタマジャクシ文字にしても、本来は中国の言語文字体系とは異なるものを表現する漢文的テンプレいうことやねんな。そやけど漢文世界以外の人にしたらそんなん知らんもんなぁ」

写経屋の覚書-フェイト「素直に、比喩じゃなくて直訳のまま受け取るだろうね…」

写経屋の覚書-なのは「いくら漢文テンプレであっても、さすがに『江華島条約から20年。米朝通商条約から14年たった時代』に堂々と使用するっていうのは痛いんじゃないかな?『ヨーロッパは文明の中心すなわち中国からあまりに遠く離れている』については49・50ページにこんな文章があったよ」


写経屋の覚書-儒学経緯4950

地球茫茫厥有五洲惟亜細亜文明之区
 地球五洲一曰亜細亜洲二曰欧邏巴洲三曰利未亜洲四曰北亜墨利加州五曰南亜墨利加洲○亜細亜洲在赤道之北朝鮮中国以下諸国是也方可数万里以直線計下同

写経屋の覚書-はやて「地球は広く五州あるがアジアが文明の区域である、やね。『惟』でアジアこそが文明の区域やって強調しとるんやね」

写経屋の覚書-フェイト「儒学体系に基いたものだけを『文明』と考えるならそれでいいんだろうけど、そういうのが通じる時代じゃないもんね…」

同じく52ぺ-ジ
「近代人の見解によれば、西洋人がキリスト教と呼ぶところのものは俗悪浅薄で正道をはずれており、野卑な習俗の例証で、まじめに語るに値しない。

(中略)

  彼らは天の神を拝みはするものの、親を奉らず、ことあるごとに天を侮辱し、社会的な関係をくつがえす。
これはまさしく野蛮な低俗さのあらわれであり、われわれが外国の慣習を論評して遇するには値しない。
くだんの宗教が衰退している現在ではなおさらである。
西洋人は清をのぞきあらゆる国に腹子をまいた。
彼らはそのすべてがこの宗教を奉っている(!)が、驚くべきことに清の知識人と庶民はそれによる汚染を免れたのである」

写経屋の覚書-なのは「これはね、52ページじゃなくて41・42ページに該当記述があるんだよ」


写経屋の覚書-儒学経緯4142

若近世西人之所謂耶蘇教者鄙俚浅妄乃夷俗之陋者耳不足与弁也
 耶蘇之教其所謂天堂禍福之説近於仏氏之支流而所以勧善而教人者不過閭巷浅俗之談耳礼拝天神不祀父母種種誣天乱倫之風自是夷狄之陋俗耳本不足以処異端之目而近日則其教亦少衰矣中州諸国之外凡地球上欧邏種子尚皆尊尚其教而中国士民或有染之者亦独何哉

写経屋の覚書-フェイト「近世の西洋人がキリスト教を『鄙俚浅妄乃夷俗之陋』と批判してるって言ってるね」

写経屋の覚書-はやて「獄長はどこの近代人やねんwって(わろ)とるね。『近日則其教亦少衰矣』ちゅうのは、ルネサンスとかフランス革命以降、現世権力としての教会勢力が衰えたってことを指しとるんかな?」

写経屋の覚書-なのは「どうなんだろうね?『中国士民或有染之者亦独何哉』ってのは結構ドヤ顔っぽいねw」

写経屋の覚書-はやて「ってことは反語表現やな。染まったやつがおる?それがどないしたっちゅーねん。なーんも影響無いで!どや!ちゅう感じやね」

   42ぺージ
  「最近いわゆる耶蘇教が野蛮な教えで世の中を汚そうとしている。
  この宗教は天国と地獄のつくり話で大衆をあざむき、先祖崇拝の祭祀にくちばしをはさんだり、天地の神々にぬかずく慣習を禁じたりしている。
  これらは知性の曇った者のたわ言であり、論ずるに足りない」

写経屋の覚書-なのは「これについては、42ページにも他のページにも該当箇所が無いの」

写経屋の覚書-フェイト「さっき見た41・42ページと内容がかぶってる感じもするけど、ちょっと違うよね…」

  50ぺージ
  「世界の中央たる清帝国のいかに偉大で栄えあることか!
  清帝国は世界で最も大きく最もゆたかな国である。
  世の偉人はすべて中国の生んだものである」

写経屋の覚書-はやて「んー、文字通りの中華主義やねぇ…あれ?朝鮮って本心では清を蔑んでへんかった?」

写経屋の覚書-なのは「北の蛮族の清が中国に侵入して中華文明の灯火である明を亡ぼしたから、中国にはもう中華文明は存在しない。我ら朝鮮こそが中華文明の灯火を継ぐ唯一の文明国っていう小中華主義はあったね」

写経屋の覚書-フェイト「以前作者が劇形式コンテンツでちょっと触れてたね」

写経屋の覚書-なのは「そうだったね。で、該当記述は50・51ページのこれだよ」


写経屋の覚書-儒学経緯5051

皇矣中土聖賢攸宅物衆地大万方是極
 (中略)蓋九州之地山河之勝民物之殷財穀之産皆甲於天下非徒声教文物為万方所宗而已也人物秀俊闊大泱泱乎大国之風也

写経屋の覚書-はやて「これもテンプレいうたらテンプレやけど、西洋人はまともに受け取るやんなぁ…そら批判もされるで」

写経屋の覚書-フェイト「西洋人には漢文特有の誇張とか表現だっていうのは理解しにくいだろうし…」

写経屋の覚書-なのは「それについては情状酌量の余地があるとしても、文明国はアジアだけだとか、キリスト教をむやみに非難したりしてるんだから、獄長も書いてるように外国の大使たちから批判されても仕方ないよね。しかも『俄館播遷のその後(七)』にあるように、申箕善って本当に痛い人だったみたいだし」

写経屋の覚書-はやて「ほんまや。断髪の批判、太陰暦の復活、ハングルの廃止と漢文使用、内閣大臣の国政参加は君権侵害、官立学校の制服は朝鮮服にして洋服を着るなって時代に逆行しまくっとるやん。素でほんまに痛い人やで」

写経屋の覚書-フェイト「なぜか高宗が『懇懇なる諭旨を下し』して学部大臣にしちゃったんだね…獄長は、内閣大臣の国政参加は君権侵害ってあたりを高宗は気にいったんじゃないかって書いてるよ」

写経屋の覚書-なのは「高宗からしたらいちばん言ってほしいことだろうしねw じゃ今回はここまでにして、次回も『儒学経緯』を見てみるね」

写経屋の覚書-なのは「前回まで収養子について見てたんで思い出したけど、今回は獄長日記がらみで史料を1点だけ見るね」

写経屋の覚書-フェイト「ってことは、今回は短いんだね。それで何を見るの?」

写経屋の覚書-なのは「じゃぁ早速獄長日記の『朝鮮人ノ氏ノ設定ニ伴フ戸籍事務取扱方ニ関スル件』を見て」

日清戦争開戦までの話が飽きてきてるので、もう少し別の話を。
今回取り上げるのは1939年(昭和14年)『訓令第七十七号 朝鮮人ノ氏ノ設定ニ伴フ戸籍事務取扱方ニ関スル件』について。
一昨年の9月26日のエントリーで出てきた「宿題」です。(笑)

つうか、2年も経つのか・・・。_| ̄|○
そのうち半分くらいが東学党の乱~日清戦争開戦までで消えてんのかな?
んー・・・。(笑)

で、丁度xiaoke氏が別件で総督府官報の調べ物があったそうなんで、ちょっと乗っかって調べて来てもらいました。

▲獄長いらっしゃいますか?

んでは早速カピペ。(笑)
1939年(昭和14年)12月26日付官報号外より、『朝鮮総督府訓令第77号 朝鮮人の氏の設定に伴ふ戸籍事務取扱方に関する件』について。

(中略)

そういえば、昭和14年朝鮮総督府令第221号についても宿題だった・・・。
つうか、もしかして同じ号外に載ってるんじゃなかろうか・・・。
xiaoke氏に確認頼めば良かった。
_| ̄|○

写経屋の覚書-はやて「作者は、獄長の依頼で『朝鮮総督府訓令第77号 朝鮮人の氏の設定に伴ふ戸籍事務取扱方に関する件』を確認してエンコリに掲示スレ『▲獄長いらっしゃいますか?』を立てたんやけど、獄長の方で依頼漏れがあったんやな」

写経屋の覚書-フェイト「それで、その依頼漏れのフォローになる『朝鮮総督府令第221号』の紹介はどうしたの?」

写経屋の覚書-なのは「そっちはKJCLUBの『丸投!史料塾―リリカル大史料峠マジカルて?ふもっふ 幕間2』ってスレで掲示したんだよ」

写経屋の覚書-フェイト「丸投げ史料塾って、このブログの原作というか元ネタになっているシリーズだよね。でもなぜかシリーズどころか伝統板の投稿スレ全部とIDを削除されたんだよね」

写経屋の覚書-なのは「そうなんだよねぇ。どんな理由経緯があったのか未だに不可解なんだけど…ともかく、昭和14(1939)年12月26日付官報号外に掲載されている『朝鮮総督府令第221号 朝鮮人の氏を設定に伴ふ届出及戸籍の記載手続に関する件』の画像とテキストをここであらためて紹介するね」


写経屋の覚書-19391226府令第221号

昭和14(1939)年12月26日付官報号外

◎朝鮮総督府令第二百二十一号
朝鮮人の氏を設定に伴ふ届出及戸籍の記載手続に関する件左の通定む
  昭和十四年十二月二十六日    朝鮮総督 南 次郎
第一条 氏の設定に伴ふ届出及戸籍の記載手続に付ては本令に定むるものの外朝鮮戸籍令の規定に依る
第二条 氏の届出は書面を以て之を為すべし
 届書には左の事項を記載すべし
 一 戸主の姓名、出生の年月日、本籍及職業
 二 氏
第三条 昭和十四年制令第十九号附則第三項の規定に依り戸主又は前男戸主の姓を以て氏としたるときは戸籍の記載は訂正せられたるものと看做す但し更正することを妨げず
 戸籍の記載事項中家を異にする者の氏名ま(ママ)りたるとき亦前項に同じ
   附則
本令は昭和十四年制令第十九号施行の日より之を施行す

写経屋の覚書-はやて「…こんだけ?」

写経屋の覚書-なのは「うん、これだけ。どうせ朝鮮戸籍令改正に関する史料をきちんと読み込まないと、これ以上のツッコミもできないしー」

写経屋の覚書-フェイト「って、なのはちゃん、投げやりすぎるよ…」

写経屋の覚書-はやて「まぁ、史料1個のフォローやし、膨らませようもないんやろけどな。

写経屋の覚書-なのは「正直、創氏改名ネタって現時点では優先順位が低いし、下手に広げられないんだよねぇ。埋め合わせと言ってはなんだけど、来週からはちょっと珍しいかもって史料を見ていくよ」

写経屋の覚書-なのは「さて、前回に続いて『朝鮮祭祀相続法論 序説』を見るね」

写経屋の覚書-朝鮮祭祀相続法論序説32
写経屋の覚書-朝鮮祭祀相続法論序説33

三 養子女
 養子女には収養子(ヽヽヽ()侍養子女(ヽヽヽヽ)の別がある。養子女と云へば此の両者を指すのであつて、継後子を合まない。三歳前に収養して子女となすものを収養子女と云ふ。収養父の姓を称し子女に準ぜられる。収養子女に非ざるものを侍養子女と云ふ(二三一頁参照)。経国大典刑典私賤条に、
  嫡有子女養父母奴婢、養子女(ヽヽヽ)十分之一、三歳前(ヽヽヽ)即七分之一、
と云へる三歳前は、収養子女を指すのである。故に養子女十分之一は侍養子女の相続分に当る。養子女は継後子と異り、異姓たるを妨げない。故に祭祀を承継する資格はない。財産相続に在りては、右の比率を以て子女と共に之に与るのである。同じく私賤条に、
  無子女養父母奴婢、養子女七分之一、
其の註に、
  三歳前則全給
故に本文は侍養子女に関するものである。其の分数率は前と異り、子女なきが故に、本族が相続すべき場合であつて、七分之一は本族を基準に六対一の割合を以て、本族と共同して相続に与るのである。即ち収養子女は、本族に先つて相続順位を有する点に於ては、嫡子女に準ずべき地位に在り、侍養子女は嫡子女なきときは本族と共に相続に与るのであつて、寧ろ義子女に近い。

写経屋の覚書-はやて「へぇー、養子いうても継後子・収養子・侍養子の3種類があるんか。これが前々回・前回で言うてた養子の種類と血縁関係のない養子の話になるんやね」

写経屋の覚書-なのは「やっと説明できたよ。日本でいう養子の定義は継後子・収養子・侍養子を全部含むんだけど、朝鮮で養子という場合は収養子・侍養子だけを指すんだよ」

写経屋の覚書-フェイト「じゃぁ、私はリンディ提督(母さん)の侍養子ということになるんだね」

写経屋の覚書-なのは「そうだね。っと、本文にいく前に養子の各種類についてまとめておくね」

朝鮮に於ける「養子」慣行制度

名称説明養親との一族関係
継後子宗族の祭祀を継ぐためのものであり嫡出の長子として扱われる。別名「後」。養父の父系血族のうち、甥(つまり養父の従兄弟世代の子息)に当たる者から迎える養父の姓を名乗る当然ながら養親の血族と親族関係を有する
収養子三歳以前に拾われ養われる者。養親の血族かどうかは問われない。祭祀継承資格はない養父の姓を名乗る養親の血族と親族関係を有しない
侍養子収養子以外で養われる者。養親の血族かどうかは問われない。祭祀継承資格はない養父の姓を名乗らず本来の姓を名乗る養親の血族と親族関係を有しない

写経屋の覚書-フェイト「本文の赤字部分に『即ち収養子女は、本族に先つて相続順位を有する点に於ては、嫡子女に準ずべき地位に在り、侍養子女は嫡子女なきときは本族と共に相続に与るのであつて、寧ろ義子女に近い』ってあるけど、収養子は相続権があって、順位は嫡出子の次、他の親族より上で、侍養子は嫡出子がない場合には相続権があるってことね」

写経屋の覚書-はやて「ちょぉ待って。財産相続について『慣習調査報告書 韓国最近事情一覧』(統監府)にはこう書いとるで」

写経屋の覚書-慣習調査報告書274
写経屋の覚書-慣習調査報告書275

第百七 養子と養親及其血族との間には如何なる親族関係を生ずるか
  養子は之を認むるか若し之を認むるとせは養子と養親及其血族との間に於ては真の血族と全く同一の関係を生するか将た多少異なりたる関係を生するか

朝鮮に於ては既婚の男子に実子孫(男)なきときは必す男系の血族中より男子を養子と為す慣例にして其目的一に祭祀者たらしむるに在り而して養子は養子縁組の日より養親の嫡子たる身分を取得し養親及其血族との間に実子と同一の親族関係を生す
養子の外収養子なるものあり三歳以下の棄児は之を収養して子と為すことを許し収養者の姓を冒さしむることを得るも之を相続人と為すことを得す又収養者と血族との間に親族関係を生ずることなし(刑法大全第六十二条一、第五百八十二条五「(前略)但遺棄写経屋の覚書-han17三歳以下小児는異ママ이라도収養写経屋の覚書-ha17야其ママ에従케写経屋の覚書-han17写経屋の覚書-thai17立嗣写経屋の覚書-ham17은不得写経屋の覚書-ham17이라」(隆煕二年法律第十九号を以て削除)参照)此他侍養子なるものと雖も養子と為すことを得さる他人の子を養ふ場合の称にして其姓は本姓を称し又之を相続人と為すことを得す侍養子と之を養ふ者其血族との間に親族関係を生することなし

写経屋の覚書-フェイト「赤字部分、収養子・侍養子ともに相続権がないってあるね。しかも収養子が相続人になれないっていうところは『刑法大全』を論拠にしているよ」

写経屋の覚書-なのは「うん。だけど、その規定は『隆煕二年法律第十九号』によって削除された、とも書いてるよね。ここで一旦『韓国社会略説』・『朝鮮祭祀相続法論 序説』・『慣習調査報告書 韓国最近事情一覧』の記述等について整理してみるね」

史料名出版年収養子の相続権侍養子の相続権
慣習調査報告書
 韓国最近事情一覧
明治41年(1908)無し無し
韓国社会略説明治43年(1910)有ったり
無かったり
記述なし
朝鮮祭祀相続法論序説昭和14年(1939)有り条件付きで有り


写経屋の覚書-フェイト「時代が下るにつれて収養子の相続権の存在が明記されるようになっていってるんだね」

写経屋の覚書-なのは「うん。相続権無しという刑法大全の規定が廃止されたのが隆煕2年(明治41年・1908)だから、それ以前かその前後の慣習を収録した『慣習調査報告書 韓国最近事情一覧』ではまだ相続権無しというのが社会常識のままで、それ以降時代が下るにつれて収養子に相続権が存在するという観念が徐々に普及していったんじゃないかな」

写経屋の覚書-はやて「なるほどー。史料3点ともその当時での社会常識・慣習を収録しているわけで、結局はどれも正解っちゅー解釈するんやな」

写経屋の覚書-なのは「そうだねー。その時点での状況を記録していると考えるのが無難というか妥当な線じゃないかな」

写経屋の覚書-フェイト「あと、獄長の『恐らくは「棄子」を始めとした養子の姓を養家の姓にした結果として同本同姓となっても、これを男系血族とは視ない慣習がある、と』については『朝鮮祭祀相続法論 序説』の『又収養者と血族との間に親族関係を生ずることなし』、『慣習調査報告書 韓国最近事情一覧』の『養子女は継後子と異り、異姓たるを妨げない。故に祭祀を承継する資格はない』が担保になるよね」

写経屋の覚書-なのは「そういうわけで、獄長の解釈は間違っていないということがわかったね」

写経屋の覚書-はやて「『まぁ、そうでなければ両親等を亡くした子供とか、現実問題として困るんでしょうけど』についてはどうなん?」

写経屋の覚書-なのは「収養子制度が捨子や孤児などの救済という社会的役目ももっていたという解釈については、東京都立大学の社会福祉学博士学位論文『韓国の養子制度に関する考察―家族規範の歴史的展開との関連を通して―(姜恩和)』 でふれられているはずなの。但し作者は複写を未入手だから踏み込んでは書けないみたい」

写経屋の覚書-フェイト「本筋にはあまり影響もないだろうし、いいんじゃないかな」

写経屋の覚書-なのは「ということで、収養子についてはこれでおしまいにするの。追加調査等でまたおもしろいことが何か分かったら続けてみるね」

収養子(1)
収養子(2)