「さて、前回に続いて『朝鮮祭祀相続法論 序説』を見るね」三 養子女
養子女には
嫡有子女養父母奴婢、
と云へる三歳前は、収養子女を指すのである。故に養子女十分之一は侍養子女の相続分に当る。養子女は継後子と異り、異姓たるを妨げない。故に祭祀を承継する資格はない。財産相続に在りては、右の比率を以て子女と共に之に与るのである。同じく私賤条に、
無子女養父母奴婢、養子女七分之一、
其の註に、
三歳前則全給
故に本文は侍養子女に関するものである。其の分数率は前と異り、子女なきが故に、本族が相続すべき場合であつて、七分之一は本族を基準に六対一の割合を以て、本族と共同して相続に与るのである。即ち収養子女は、本族に先つて相続順位を有する点に於ては、嫡子女に準ずべき地位に在り、侍養子女は嫡子女なきときは本族と共に相続に与るのであつて、寧ろ義子女に近い。
「へぇー、養子いうても継後子・収養子・侍養子の3種類があるんか。これが前々回・前回で言うてた養子の種類と血縁関係のない養子の話になるんやね」
「やっと説明できたよ。日本でいう養子の定義は継後子・収養子・侍養子を全部含むんだけど、朝鮮で養子という場合は収養子・侍養子だけを指すんだよ」
「じゃぁ、私は
「そうだね。っと、本文にいく前に養子の各種類についてまとめておくね」
朝鮮に於ける「養子」慣行制度
| 名称 | 説明 | 姓 | 養親との一族関係 |
| 継後子 | 宗族の祭祀を継ぐためのものであり嫡出の長子として扱われる。別名「後」。養父の父系血族のうち、甥(つまり養父の従兄弟世代の子息)に当たる者から迎える | 養父の姓を名乗る | 当然ながら養親の血族と親族関係を有する |
| 収養子 | 三歳以前に拾われ養われる者。養親の血族かどうかは問われない。祭祀継承資格はない | 養父の姓を名乗る | 養親の血族と親族関係を有しない |
| 侍養子 | 収養子以外で養われる者。養親の血族かどうかは問われない。祭祀継承資格はない | 養父の姓を名乗らず本来の姓を名乗る | 養親の血族と親族関係を有しない |
「本文の赤字部分に『即ち収養子女は、本族に先つて相続順位を有する点に於ては、嫡子女に準ずべき地位に在り、侍養子女は嫡子女なきときは本族と共に相続に与るのであつて、寧ろ義子女に近い』ってあるけど、収養子は相続権があって、順位は嫡出子の次、他の親族より上で、侍養子は嫡出子がない場合には相続権があるってことね」
「ちょぉ待って。財産相続について『慣習調査報告書 韓国最近事情一覧』(統監府)にはこう書いとるで」第百七 養子と養親及其血族との間には如何なる親族関係を生ずるか
養子は之を認むるか若し之を認むるとせは養子と養親及其血族との間に於ては真の血族と全く同一の関係を生するか将た多少異なりたる関係を生するか
朝鮮に於ては既婚の男子に実子孫(男)なきときは必す男系の血族中より男子を養子と為す慣例にして其目的一に祭祀者たらしむるに在り而して養子は養子縁組の日より養親の嫡子たる身分を取得し養親及其血族との間に実子と同一の親族関係を生す
養子の外収養子なるものあり三歳以下の棄児は之を収養して子と為すことを許し収養者の姓を冒さしむることを得るも之を相続人と為すことを得す又収養者と血族との間に親族関係を生ずることなし(刑法大全第六十二条一、第五百八十二条五「(前略)但遺棄
三歳以下小児는異
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立嗣
은不得
이라」(隆煕二年法律第十九号を以て削除)参照)此他侍養子なるものと雖も養子と為すことを得さる他人の子を養ふ場合の称にして其姓は本姓を称し又之を相続人と為すことを得す侍養子と之を養ふ者其血族との間に親族関係を生することなし
「赤字部分、収養子・侍養子ともに相続権がないってあるね。しかも収養子が相続人になれないっていうところは『刑法大全』を論拠にしているよ」
「うん。だけど、その規定は『隆煕二年法律第十九号』によって削除された、とも書いてるよね。ここで一旦『韓国社会略説』・『朝鮮祭祀相続法論 序説』・『慣習調査報告書 韓国最近事情一覧』の記述等について整理してみるね」
| 史料名 | 出版年 | 収養子の相続権 | 侍養子の相続権 |
| 慣習調査報告書 韓国最近事情一覧 | 明治41年(1908) | 無し | 無し |
| 韓国社会略説 | 明治43年(1910) | 有ったり 無かったり | 記述なし |
| 朝鮮祭祀相続法論序説 | 昭和14年(1939) | 有り | 条件付きで有り |
「時代が下るにつれて収養子の相続権の存在が明記されるようになっていってるんだね」
「うん。相続権無しという刑法大全の規定が廃止されたのが隆煕2年(明治41年・1908)だから、それ以前かその前後の慣習を収録した『慣習調査報告書 韓国最近事情一覧』ではまだ相続権無しというのが社会常識のままで、それ以降時代が下るにつれて収養子に相続権が存在するという観念が徐々に普及していったんじゃないかな」
「なるほどー。史料3点ともその当時での社会常識・慣習を収録しているわけで、結局はどれも正解っちゅー解釈するんやな」
「そうだねー。その時点での状況を記録していると考えるのが無難というか妥当な線じゃないかな」
「あと、獄長の『恐らくは「棄子」を始めとした養子の姓を養家の姓にした結果として同本同姓となっても、これを男系血族とは視ない慣習がある、と』については『朝鮮祭祀相続法論 序説』の『又収養者と血族との間に親族関係を生ずることなし』、『慣習調査報告書 韓国最近事情一覧』の『養子女は継後子と異り、異姓たるを妨げない。故に祭祀を承継する資格はない』が担保になるよね」
「そういうわけで、獄長の解釈は間違っていないということがわかったね」
「『まぁ、そうでなければ両親等を亡くした子供とか、現実問題として困るんでしょうけど』についてはどうなん?」
「収養子制度が捨子や孤児などの救済という社会的役目ももっていたという解釈については、東京都立大学の社会福祉学博士学位論文『韓国の養子制度に関する考察―家族規範の歴史的展開との関連を通して―(姜恩和)』 でふれられているはずなの。但し作者は複写を未入手だから踏み込んでは書けないみたい」
「本筋にはあまり影響もないだろうし、いいんじゃないかな」
「ということで、収養子についてはこれでおしまいにするの。追加調査等でまたおもしろいことが何か分かったら続けてみるね」収養子(1)
収養子(2)



