「前置きなしで、国会の会議録から見ていくよ。最初はエントリーでも出てた1951(昭和26)年5月26日の衆議院行政監察特別委員会での質疑だけど、国会会議録検索システムで発言4、齋藤昇国家地方警察本部長官の発言を見てね」
密入国者の未検挙者の数は、これをつかみますことがきわめて困難でございまするが、すでに検挙をいたしました者の供述、あるいは逮捕せんとして逃走せられた者の数から判断することしか、ただいま資料がないのであります。それによりますると、昭和二十一年度、四月から十二月までの統計でありますが、三千六百八十二名、昭和二十二年度――以後一月から十二月まででありますが千四百六十七名、二十三年度におきましては二千四十六名、二十四年度におきましては二千七百十名、二十五年度におきましては千七十名、二十六年度に入りまして四月までの計が三百十四名、計一万三百八十九名と相なつております。このほか全然わからない未検挙者がどれくらいあるかは、これは他に的確な資料がないのでありまして、われわれといたしましては、この倍あるか、あるいは三倍あるか、はつきりしたことは申し上げられません。
「いきなり『はつきりしたことは申し上げられません』かいな。警察の偉いさんでも見当ついてへんねんなぁ」
「んー、戦後の不法入国者(3)でもこの衆議院行政監察特別委員会を見たんだけど、鈴木一出入国管理庁長官のほうは『これはいかんとも把握できない数字でありまして、単なる想像にすぎないのですが、国警方面では大体五万前後ということを申されております』って言ってるんだけどねぇ」
「あ、そうだったね。それと『ただ十万というようなことをいう人もありますが、これは何を中心に、何を根拠にはじき出すかということはわからないことで、単に想像にすぎない』とも言ってたね」
「その鈴木さんは1952(昭和27)年3月27日の衆議院外務委員会でこんなこと言うとるで」
予算委員会においてお尋ねがありました点について、昨日さらにお尋ねがございましたが、その点につきましてあらためて御説明を申し上げます。一万三千人の送還ということを予算上計上いたしておりますが、新しい役所で新しい業務であるという関係で、強制退去の対象を拾いますれば、密入国と思われる数は、御承知のように、確たる数字はわかりませんが、五万以上はあるわけでありまして、それを全部本年度にやれるかどうかということは、いろいろの関係で、とてもむずかしいわけでございますが、一応われわれの方として計数的に目安をつけてみたのを御説明いたしたいと思います。それは過去の実績によりまして、密入国者として検挙されました人数が、過去五箇年間にわたりまして四万三千ほどございますが、これを年に平均しますと、八千六百人ほどになります。これは検挙されました人数でありますが、そのほかに、確かに密入国をして来たことを目撃し、確認をした、しかし検挙はできなかつたという数字が、やはり五年間にわたりまして一万一千ほどございます。これを年間に平均をいたしますれば、二千二百ほどになるわけであります。 それから登録令違反ということで、たとえば登録証明書を偽造いたしまして、それを悪質に活用しておつたという、特に悪質の人たちを登録令違反として強制退去の対象にいたしますが、そういう数字を拾つてみますと、これまた年間としましては四百人ほどになるかと思います。これは昭和二十五年の実績から割出した数字でございます。それからもう一つは、船に乗つて参りまして、いわゆる脱船と申しますか、ミス・シップとわれわれは言つておりますが、船からおりてそのまま船に帰らないという人たち、これもやはり収容所に入れまして、次の船が来るまで収容しておるというようなことで、やはり対象になるわけでありまして、これらの数字は、さきの二十五年の実績によりますと、六百名ほどでございます。これらの今まで申し上げました数字を集めますと、一万二千人にちよつと足りないのでありますが、これを基礎にいたしまして、今後新しい法律によつて、どの程度の送還の対象となるべき人が現われますか全然わかりませんので、これに一割を加えまして、大体一万三千という数字が出て参ります。以上でございます。
「どうやら出入国管理庁の方では5万、警察では正確な数字は出せないけど少なくとも5万以上でいっぱいいる、って考えてるみたいだね」
「そうだねぇ。次は1954(昭和29)年4月7日の衆議院外務委員会、入国管理局次長の宮下明義検事の発言だよ。番号は84」
日本の国が朝鮮及び中国と地理的に非常に近い関係にございますので、佐々木委員が仰せのように、現在日本に密入国をして参ります数は、朝鮮からが圧倒的に多数でございます。それに次いで中国本土からの密入国が多いのであります。朝鮮からの密入国者はごく最近の実情を申し上げますと、大体毎月二百人から多い月で四百人くらいの密入国者を、こちらの送還船で南鮮に帰しております。私どもの考えといたしましては、現在韓国及び朝鮮の国籍でこちらに外国人登録をしております者が五十五万人おりますが、表面に現われません密入国者は多くてもその一割、五万人くらいという見当をつけておりますが、遺憾なことにその全部が全部検挙できる態勢までは至つておりません。中国本土からの不法入国は、本体香港から商船あるいは軍艦等の大きな船の船員になつて日本の港に参りまして、寄港地上陸許可証で上陸いたしまして、そのまま日本にもぐつてしまうというケースが多いのでありますが、現在表面に現われまして私どもの手で退去強制令書を発付いたしておりますものが約四、五百人ございます。現在中国が台湾政府と二つにわかれております特殊な事情にございますので、これらのものを送還するについて非常に悩みを持つておるわけでございます。日本政府といたしましては、正式の中国政府と交渉をいたしまして、この者を引取るようにいろいろ折衝いたしておるのでありますが、彼らは大部分が中国本土から来ておりますために、中国政府の方でもそうたやすくは引取れないというような実情で、今鋭意その折衝をいたしておりますが、早晩これらの者も全部帰したい。それならばその背後にはどれくらい密入国者がおるだろうかという見当といたしましては、私どもは大体二、三千人くらいの中国本土からの不法入国者が、国内に潜在しておるだろうという予想をつけております。これももちろん予想でございまして、正確な資料があるわけではございませんが、この者につきましても鋭意摘発をいたしまして、管理令によつて退去強制をして参りたいというふうに考えております。
「ここでも5万やねぇ」
「次も入国管理局の人の発言だよ。1955(昭和30)年6月15日、衆議院法務委員会で入国管理局長の内田藤雄法務事務官の発言41」
実は先ほど古屋委員の御質問でもその点触れたのでございますが、御説のように、登録をはっきり受けておりますのは五十六万余りでございます。それで、そのほかに登録されない者が相当あるということは、公安調査庁にいたしましても警察にいたしましても、いろいろこれに関心を持っておる者の一致しておる見解でありますが、その数字につきましては、実は従来非常に膨大な推定数がいわれておったのでございますが、しかしこの登録が数回行われて、だんだんこれが周知徹底していった結果、実は非常におもしろいことには、この数字がだんだんしぼられてきておるのでございます。それは、従来これが非常にルーズに行われました結果、しかも登録証というものがいろいろに利用できるものでありますから、一人の人間が数個の登録を行なったのではないかと思われるような場合も相当ございまして、結局かなり数字がしぼられて参るにつけまして、現在のところこれは非常に困難な問題なんでございますが、未登録の者の数は従来考えておったほど多いことはないのではないか、大体俗には一割くらいの者が未登録でおるのではないか。従いまして全体の数字といたしまして六十万少し越したくらいではないかというのが今日の一般的な推定でございます。しかしこれの根拠と言われましても、その根拠を出すのは非常にむずかしいのでございますが、韓国人の密入国者で逃亡しているとはっきり確認されている者が二十七年以降一万三千五百何がしであります。それから新しく生まれた子供で登録してこない、あるいは申告してこない者も相当あるでありましょうし、それから潜在の密入国というものもありましょうし、また知能程度などが非常に低くて、あるいはいなかの山奥などに住んでおるために登録しないという者も相当ありましょうし、かれこれみな合せまして、われわれのごくラフな推定では、そういう者が五、六万あるのではないか、こういうふうに考えておる次第でございます。
「前回、フェイトちゃんが『たぶん、国勢調査と外国人登録の数の間に正解が存在するんだろうけど、知る術はないんだね…ともかく、登録証の切り替えを繰り返すことで『虚無人登録、二重登録、死亡未処理等』の数が炙り出されて減っていき、実数に近くなっていったって考えたらいいのかな?』って言うてたけど、そのとおりやったちゅうわけやね」
「ほんとだ。どんどん絞られていって実数の輪郭が見えるようになっていったんだね」
「そういうわけで、警察側も5万くらいが妥当じゃないかなって考え始めたと推察できるのが、1958(昭和33)年2月18日、衆議院法務委員会での刑事局長の竹内壽平検事の発言なの。発言番号は54」
潜在密入国者は正確にはつかめておりませんが、大体五万くらいあるのではなかろうかということに推定されておるのでございます。その中には、もちろんきわめて悪質な者も含まれておると思うのでございます。その種の事件が二、三にとどまらずに検挙されておるのでございますが、概括的に申しますと、日本に両親がいるとか、あるいは親戚があるとか、日本語だけしか話せないとかいったような、日本との特殊な関係に基きまして、日本にあこがれて入ってくる者も、これまた相当数あるのでございます。全体的に申しますと、むしろそういう種類の者が多いのではなかろうかというふうに考えております。
「『日本に両親がいるとか、あるいは親戚があるとか、日本語だけしか話せないとかいったような、日本との特殊な関係に基きまして、日本にあこがれて入ってくる者も、これまた相当数あるのでございます。全体的に申しますと、むしろそういう種類の者が多いのではなかろうかというふうに考えております』っていうのも興味深い話だね」
「終戦直後に朝鮮へ引揚げたもんや、親戚等の伝手があるもんが多いってことやね」
「うん、そう考えるのが妥当だよね。あとはおまけになるけど、1964(昭和39)年3月25日の衆議院社会労働委員会、入国管理局次長の富田正典検事が、潜在してる不法入国者の数はわからないって言っているね。発言番号は68」
毎年密入国で検挙される者の数は、年によって変動はございますが、千五百名ないし二千名の線を上下しております。これらの者も、特に在留を許可すべき事情がある者については、法務大臣の裁量権で在留を許可いたします。その場合には正式に在留することと相なって、登録証明書も持っておるということになるわけです。いままでに正式に在留資格を取った者あるいは過去強制になった者、そういう者も含めて、一体どのくらい密入国者があったかという累計は、残念ながらただいま手元に数字は持っておりませんが、現在登録証明書を持たずに潜在しておる者が相当数あるのではないかというぐあいにも考えておりますが、その数は正確にはつかんでおりません。
「ん?『毎年密入国で検挙される者の数は、年によって変動はございますが、千五百名ないし二千名の線を上下しております。これらの者も、特に在留を許可すべき事情がある者については、法務大臣の裁量権で在留を許可いたします。その場合には正式に在留することと相なって、登録証明書も持っておるということになるわけです』って、不法入国で逮捕されても在留を許可されるケースがあったってことなん?」
「正式な在留者として扱われて外国人登録書も持てるようになるんだ…」
「『特に在留を許可すべき事情』があればの話なんだけどね。あと、1969(昭和44)年4月24日、衆議院内閣委員会で中川進法務省入国管理局長がこんな発言をしてるの。発言番号は89」
私どもの仕事の運用で一番困りますこと、ないし大事にしなければいかぬことは、義理人情ということと法律のたてまえとどういうふうに調和さしていくかという点でございます。その法律の解釈、運用の結果、いま御指摘のような点がたまにはあったかもわかりません。しかし、何しろ人間のやることでございますので、全く完璧を期するということは不可能であると思います。ただ、私どもといたしましては、できるだけそういうような人間の本性に反することがないように努力しておるのでございまして、現に、いわゆる密入国者であって日本に特別在留を与えた者もいままでに二万七、八千人おるわけでございます。何が何でも片っ端から追い帰すというわけでは決してないのでございます。ただ、いろいろな観点から、どうしてもこれはお帰りを願わなければいかぬという方が相当おることも事実でございまして、もしも不法入国であっても、たとえば親子であれば、こちらに親戚があれば必ず置いておくということになりますと、いまの出入国管理法のたてまえが根本からくずれることになるわけでありまして、やはり結果的にある程度御本人の意図に反するというような取り扱いが出る場合があること、それはやむを得ない、御承認を願うよりしかたがない、かように考えております。
「1969年までに不法入国だけど事情を斟酌して2万7千、8千人に在留許可を与えていたってことなの?」
「『もしも不法入国であっても、たとえば親子であれば、こちらに親戚があれば必ず置いておくということになりますと、いまの出入国管理法のたてまえが根本からくずれることになるわけでありまして、やはり結果的にある程度御本人の意図に反するというような取り扱いが出る場合があること』って言うとるから、終戦直後の送還で家族を置いて引揚げたもんが再渡航してきたからいうて、無条件で在留許可を与えるわけでもないんやろけどなぁ」
「そうだね。全部強制退去させるわけでもないし、逆に全部在留を許可するわけでもないということだね。これで、不法入国に成功して逮捕されてない潜在的不法入国者数についての国会議事録は全部見終わったよ」
「戦後の1950年代、日本に潜在する不法入国者は約5万人程度だったと見るのが妥当っていうのが結論かな?」
「10万までならあり得るって感じもするけど、20万、40万っちゅうんはさすがに盛り過ぎやんねぇ。警察側としては取締対象を過小に見積もるより過大に見ておく方が無難ちゅうか常道なんやろけど。軍事でも、敵を軽う見て舐めたり侮ったりするよりは恐れて慎重に準備する方がええんやし」
「ま、悪意を以て『官憲は朝鮮人圧迫のために不法入国者数を過大に言い立て朝鮮人の犯罪性の宣伝に努めた』とか『権限拡張・予算獲得のために不法入国者数を過大に見積もり報告した』とか解釈する手もあるんだろうけどネェ」
「ほんとに言いだす人がいそうだねw」
「ずっと見てきた『在日朝鮮人処遇の推移と現状』でも「不法入国または登録をせずに潜在する朝鮮人は、四、五万と推定され」って書いてるんだけど、やっぱりそのへんの数字に落ち着くよねってことでこのシリーズはお終いにするよ」
戦後の不法入国者(1)
戦後の不法入国者(2)
戦後の不法入国者(3)
戦後の不法入国者(4)
戦後の不法入国者(5)
戦後の不法入国者(6)
戦後の不法入国者(7)









