「予告通り三浦理事官の報告書を見る前に、西岡隊長の続編スレが出たから紹介しておくね」ベセル氏出席総合所会議の様子
「進行がゆっくりだね」
「じわじわ絞めていっとるいうことなんやろね」
「そういうこと。作者はその進行の邪魔をしないように調節しながら支援に回ってるの。じゃ、本題に戻って、最初は仏国総領事からの調査報告と23日のマーナム訪問についての機密京第10号「国債報償金費消事件に関する件」(『統監府文書4』p347収録)を見るよ」| 本月二十日附機密第九号を以て及具報置候通り本件に関し英米仏の各領事に発したる照会に対し仏国領事よりは昨二十二日附を以て回答し来れり「マルタン」か同領事に対して陳述したる大要に曰く |
| 昨年九月頃「マルタン」は「ベセル」より報償会の義捐金二万七千五百円を年九朱の利息にて借入れ毎月五百円宛返金して皆済に至る迄借置く旨の書付を「ベセル」に交付せりと云ふ尚「ベセル」は「マルタン」に対し彼は報償会総合所の委任に依り右の貸付を為す旨を明言せり |
| (仏国領事発右回答書は今朝小松書記官に手交し置き尚丸山総監へも通報し置きたり) 依て当方よりは「マルタン」は昨年九月以来約束通り毎月五百円を「ベセル」に返金しつゝありしや否やに付重て同領事に本日照会したり 次に英国領事よりは本日午後二時半別紙写の如き反問的回答に接し候右に依れは本官の証憑を求めんとする目的及証憑の性質か同領事には会得し難きものゝ如く相見候斯る反問に対し眞面目に応答を重ぬることは如何歟と思料致候得共要するに総合所の委員の一人たる梁の陳述と報償金の所在及金額に相符合せさるを以て其の点を正確にしたき目的なることを申送るへく候 之に先ち昨夜「マーナム」より別紙写の通りの書面に接したるに付本日午後三時半迄に理事庁に出頭せられたき旨申入候処午後四時来庁依て早速金庫と帳簿二冊の行衛を問ひたるに右等の品を大韓毎日申報社に置きては何人の為めに取出さるゝ樣の事あるやも知れさるに付封印の儘自分の所に預り在りと云ふ (本年一月以来「マーナム」は「ベセル」と同居すと云ふ) 然らは韓国官憲に於て相当の手続を踏み右は金庫及帳簿を査閲せんとするときは無論異議なかるへしと問ひたるに彼は曰く自分は新聞事業には当り居れとも報償金の事には何等の関係を有せす報償会の委員は三四名ある趣に付委員全体か承諾するか又は英国領事か承諾すれは金庫等を査閲することを得るやも知れされとも其の点に付ても自分には何とも明言し得す云々次に彼より梁起鐸裁判の時日及告発の事実等に就き尋ねたるを以て本官は本件は既に検事の手に移り法部大臣の許可を得て何れ裁判を開くに至るへきも其の日時は今言ふこと能はす又嫌疑の次第は例へは梁は委員の一人にして報償金の所在金高を知り居るへき筈なるに仁川の「ホームリンガー」に三万円預け在ると云ふにも拘はらす実際一文もなきにあらすや又「アストルハウス」の「マルタン」には一万円を貸したりと述ふるに拘はらす事実は二万七千五百円を貸しあるは何故そや「コールブラン」預入の分は幾何なるや未た知れされとも本日米国領事に面会の上は判明すへしと述へ尚本件に付て特に述へ置き度事は既に「コーバン」氏へも再三申送りたる通り本件は梁起鐸の英国裁判所に於ける供述とは何等の関係をも有せさる事是なり尤も「ベセル」氏か裁判の結果有罪となりたる影響なるや否やは知らされとも国債報償金始末如何に関し韓人義捐者の間に疑惑不安を抱き大邱開城辺より右報償金の正確なる計算の公表を内部大臣に願出たる韓人ありて今回の梁の審問を見るに至りたる次第なりと述へたるに「マーナム」は右等の諸点を手帳に止めて謝意を表して辞去せり去るに臨み「ベセル」は昨今如何に為し居るやと問ひたるに少々風邪なれとも明朝小松書記官を訪問の筈なりと答へたり 右及報告候丸山総監の方へは本文の次第貴方より御通達相煩申候也 |
| 明治四十一年七月二十三日 |
| 京城理事庁 理事官 三浦 彌五郞 |
| 統監府総務長官代理 参与官 石塚 英蔵 殿 |
「22日付で送付されてきたのが、往電第14号で言ってた仏国領事館員が公認した口述書なんだね」
「そやけど、英国総領事コバーンは、なんでそんなん要求すんの?それにそれ自体納得いかんわ言うて逆質問してきたんやな。三浦はあほらしい思たけど、梁起鐸の陳述と報償金の所在・金額が符合せえへんからその点を正確にするんが目的なんやって答えたんか」
「んー、三浦のその態度もちょっとどうかと思ったりもするんだけどね。次に23日午後4時にマーナムが京城理事庁にやってきたの」
「帳簿と金庫をどこに持って行ったのかって訊いたら、前回見たように誰かが持ちだすおそれがあるから自宅に持って行ったって答えたんだね」
「ほんで三浦が韓国官憲がちゃんと手続踏んで金庫・帳簿チェックするんやったら問題ないねんなって言うたら、マーナムは、ボクは新聞事業には携わっとるけど報償金には何も関係ないねん。総合所の委員全員が承諾するか、英国総領事が承諾したらチェックすることもできるかもしれへんけど、そのへんはボクよう言わんなぁ…って待て!報償金に関係ないって自任しといて金庫・帳簿持ち出しとるんはどういうことやねん!」
「ほんとよく言うよって感じだねぇw 次は米国総領事サモンスとの会談を機密京第11号「国債報償金費消事件に関し米国総領事と会談の件」(『統監府文書4』p348収録)から見てみるね」| 昨朝(七月二十三日) 米国領事は同舘附巡査を当庁に寄越し本月二十日附を以て国債報償金費消事件に関し本官より同領事に照会したる事柄に付会談したき旨申越したるに依り同日午後往訪すへき旨を答へ置き午後四時過「サモンス」氏を訪問し約三十分間談話致候 同領事の述へたる所を約言すれは若し米国人にして国債報償金に関し何なりとも不法の所為たるに於ては同領事は職権上進んて其の取調に着手すへきも「ゴールブラン,ボストイツク」銀行は自己の営業上梁起鐸なり「ベセル」なりより金子を預りたる次第にて米国銀行法の規定に依れは預主本人より預金の勘定書を要求する場合に於ては銀行は当然之に応すへきも無関係の者に右の如き勘定を漏洩することを得す同領事と雖も亦然りと云ふに在りて本官の照会に回答することを欲せさるの意を示したるに付本官は同領事に向ひ本官に於ても是非共回答を得んことを求むへき条約上の根拠を有するにあらさるも梁起鐸の有罪無罪の岐るゝ所は主として国債報償金の現存するや否やに在ることなれは好意上「コールブラン,ボストスツク」銀行に於ける報償金預り高及条件を聞かんとするに外ならす固より「コールブラン,ボストイツク」に不正の所為ありと云ふ訳にもあらすと述へたるに同領事は本件に関し英国領事より回答を得たるやと問ひたるに付未た回答に接せすと答ふ報償会の委員は何人ありやと問ひたるを以て梁起鐸「ベセル」李容圭等三人にして尹雄烈も委員なりしか辞職したるやに聞及へりと述ふ領事曰く然らは報償金費消の事実挙らは「ベセル」も有罪たるへきか本官曰く果して費消の事実あらは「ベセル」も他の委員も有非罪たらさるを得す領事曰く梁起鐸には如何なる費消の事実ありや本官曰く彼は「ホームリンカー」に三万円預け在りと述へたるも悉く引出されて一文も残り居らす「マルタン」に貸したる金高も彼の言ふ所と事実とは大に異なれり領事曰く「マルタン」は借りたる事実を言ふことを拒まさゝりしか本官曰く彼は拒またれとも他より知ることを得たり領事曰く仏国領事は答へたるや本官は然りと答へたるに領事は稍々意外の感に打たれたる如き顔色を示して曰く「マルタン」は幾何借りたるや本官は事「マルタン」の信用に関するを以て語ることを拒み進んて梁起鐸自身をして「ゴールブラン」に就き預金の状況を問はしめは銀行は答ふへきやと反問したるに領事曰く或は然らん併し同領事は梁をして問はしめよと本官に注意することを得すと附言したるを以て然らは梁をして問はしむることに異議なきやと推問したるに何等関係を有せすと答へたり (此の点は参考迄に昨日丸山氏に話し置きたり) 次て目下懸案中の二三の士地問題に付談話を交へたる後辞去致候 右会談中米国領事の究したる如き模様に依りて考ふるに米国領事と英国とは互に申合の上本件の実相を回答することを努めて避くることに歩調を一にしたるものと認定せられ候就ては此の上本官に於て更に往復を重することは恐らく無用の業なりと思料致候処本件は存外多方面に渉り居るにも拘はらす我に取り名分正しき有理の事件と認められ候間今後執るへき処置に付ては出府の上御指示相度此段具申旁々添申候也 |
| 明治四十一年七月二十四日 |
| 京城理事庁 理事官 三浦 彌五郞 |
| 統監府総務長官代理 参与官 石塚 英蔵 殿 |
追て昨日附機密第十号及本信は特に検事の本件取扱上参考とも相成るへく候間貴府より大要御通達相煩度候也
「預け主が預金の情報提示を要求するならともかく、無関係の他人が要求しても応じられないっていうのは、それ自体は真っ当な話だよね」
「三浦は、回答を要求できる条約上の根拠がないのは承知してるけど、報償金が現存してるかどうかが梁起鐸の有罪無罪の分かれ目になってるから訊きたいだけなの。コールブランの会社に不正があるなんて言ってるわけじゃないしねって言ったの」
「ほんなら米国総領事は、英国総領事はどない対応しとるん?とか報償金費消の事実が出たらベセルも有罪になるん?とか訊いてきたんやな。で、マルタンの話になったとき、え?マルタン金借りたこと言うの拒まへんかったん?って言うたんやな」
「言うはずがないって思ってたのかな?かなり意外な展開だったみたいだね」
「結局、三浦は、預け主である梁起鐸がコールブランに預金状況を問い合わせ回答させることに問題も異議もないよねって言質を取って他の話題に移ったの。さて問題の英国総領事コバーンとの会談を機密京第13号「国債報償金費消事件に付英国総領事に会談の件」(『統監府文書4』p350収録)から見るよ」
| 報償金費消事件に関し本月二十日附を以て英,米,仏各国領事に照会致置きたる処英国領事は同月二十三日附を以て本官の本件に関し証憑を求めんとする目的及証憑の性質に付本月二十三日附機密京第十号を以て及報告置候通り反問致来候に依り昨二十四日為念同領事反問の趣旨問合の為め同領事を訪問したるに折悪しく不在なりしを以て今二十五日午前重ねて同領事を訪問し面会の上本官照会の趣旨は梁起鐸は警察官憲に申立てたる所及大韓毎日申報に広告したる計算と報償金の実際の所在及金高と相一致せす費消の形跡あるを以て報償会委員の一人なる「ベセル」を尋問の上更に証憑を蒐集し尚進んて「ベセル」にも報償金費消事實あらは追て告発に及ふやも知らさる旨を述へ遂に同領事の請求に依り別紙の通りの回答を本日発送致置候尚会見中本官は同領事に向ひ右の回答を得るに於ては同領事は先に本官より発したる照会に回答すへきやと尋ねたるに同領事は不承諾の意を表して曰く梁起鐸に対する今日迄の取扱振りは漠然彼を拘置して圧迫を加へ外部との交通を許さゝる次第にて甚た不規則と評せさるを得す予は梁に対する告発状の謄本を得んと欲す云々依て本官は告発状の写を送付せは「ベセル」尋問に着手せらるゝやと推問したるも明確に即答せす更に本官は梁の被告事件に関し韓国法廷より「ベセル」の出廷を要求せは「ベセル」は出廷すへきや領事曰く或は出廷するならん本官曰く若し出廷せされは当該官憲より貴領事に要求せは貴領事は彼を出頭せしむる様取計はるへきや此の問に対し領事は然りと答へされとも否とも言はす依て本官は一昨日米国領事を訪問したるも銀行法を楯として「コールブラン,ホストイツク」銀行の報償金額高を取調へて本官に回答することを拒みたり裁判上の手続を履むに於ては米国領事も回答すへきや領事曰く米国領事は如何にするやを知らすと本官は更に本件の起源に溯りて述へて曰く韓国刑法の規定に依れは委托金を返済すれは本件は夫にて済むへし曾禰副統監に於ても受取りたる義捐金と預けたる金額と相符合するに於ては其の上追究するに及はすとの意見を有し居らるゝ次第にて実は義捐韓人中報償金の行衛に付疑惑を抱き調査方を内部大臣に申請したる者あり為めに本件の公然たる取調に着手したる次第なれは梁起鐸なり「ベセル」の方なり報償金を出すに於ては夫れにて事は済むへし「ベセル」は右金高及所在を明言することを欲せさるや領事曰く其の後「ベセル」とは面会せさるを以て報償金の事に付ては聞知する処なし云々本官は此種の問題にて彼是面倒なる手数を要するは暑くして耐らすと述へ辞去致候帰庁したる処恰も京城地方裁判所検事長中川一介氏本件に付来訪されたるを以て右の顚末を告け同検事長に於ては梁起鐸の費消事件を速に起訴する見込なるや否やを問ひたるに同検事の言ふ処に依れは同檢事は未た公然斯る職権を有し居る訳にあらすして本件に関する書類は目下法部にて閲覧し居る次第なり何れ協議の上回答すへしとて退出せり是より先き昨日「マーナム」より梁起鐸に本日午後面会したき旨別紙写の通り書面にて願出たるに付中川検事に協議の上別紙の通り「マーナム」に返事致置候 本件に関し米国領事は今朝来庁したるも本官不在の後ち小松書記官の室にて同領事に面会の機を得候処同領事の言ふ所に拠れは同領事は自分より「コールブラン」への報償金額高を通知することを得さるも預け主たる梁起鐸又は「ベセル」より問合はすに於ては銀行は計算を示すならんとの事にて曩日本官往訪の時と同様の話をなし更に報償金の内二万五千円にて金鉱会社株券を買入れたる事を語りたるを以て右二万五千円以外に「コールブラン」の預りたる報償金なきやと問ひたるも同領事は何等答ふる処なかりき 右及報告候也 |
| 明治四十一年七月二十五日 |
| 京城理事庁 理事官 三浦 彌五郞 |
| 統監府総務長官代理 参与官 石塚 英蔵 殿 |
追て本信を書き終りたる処梁起鐸に面会の件に付「マーナム」より別紙の通り申越したるに付更に別紙の通り返答致置候
「最初にコバーンは、梁起鐸を拘置して圧力を加えて外部との交通を遮断するのは不規則だ、と言ったあと、梁の告訴状のコピーを要求したんだね。前回より「不規則」の指す内容が詳しく分かるね」
「で、それを出したらベセルの事情聴取するん?って言うたら確答を避けたんやったな。梁の事件について韓国法廷がベセルの出廷を要求したらベセルは出廷するんか?って訊いたらそうかもしれへんって答えて、その場合官憲から出頭させるように総領事に要求したら出廷させるん?って訊いたらこれも確答を避けた…全部逃げとるやん」
「コバーンからしたら三浦が無理筋を言ってきたって感じたのかもしれないけどね。三浦はここでトーンを変えて、韓国刑法の規定によると金を返済したらそれでおしまいになるし、曾禰副統監も報償金と預金が一致すればそれ以上は追及しないって言う意見なんだけどね、実は韓国人から報償金の行方について疑惑を持ち内部大臣へ調査の請願があったんで、取り調べを始めたんだけど梁にしろベセルにしろ金を返せば済む話だしね。ベセルは報償金の所在と金額について明言したくないのかなぁって攻めるの」
「え、ちょっと待って。横領したお金を返したら罪にならないの?たしかに民事上はセーフかもしれないけど、刑事上は横領が成立してるじゃない!」
「たぶん『刑法大全』の「第7節 銭借有違律」の第643条が根拠だと思うんだよ」
第643条 人の銭財又は物産を受寄して費用し趂不償還の者は第六百三十一条坐賍律に依りて一等を減し毀失したりしと詐称したる者は第六百条竊盗律に依りて一等を減す但毀失したる境遇に水火盗賊又は其他顕跡有る者は論せす
「償還せえへん場合は罪やから、償還したら罪に問われへんいうことなんかな。三浦の方は飴と鞭の飴の方っちゅうかコバーンが話に乗れるような余地を作ったったんやろね。そやけどコバーンはベセルと会ってないから報償金のことは知らんって、完全に拒絶態勢やね」
「取りつくしまもないって感じだねぇ。米国総領事が訪ねてきて、報償金のうち25,000円で金鉱会社の株が購入されたって話をしたけど、じゃその25,000円以外にコールブラン会社銀行部に報償金は預けられているのか?という質問には答えなかったんだね」
「仏国総領事は全面的協力、米国総領事は一応法律に則って拒否してるけど法律上の手続を踏んだらええよいう態度、英国総領事は全面的拒絶、ってとこやな」
「ちょっと先の話になるけど、結局8月1日に米国総領事からコールブラン会社銀行部の預金についての回答が来たんだよね。そういうわけで、英国総領事コバーンの拒絶姿勢が目立っているってことがわかったところで今回はおしまいにするね」
国債報償金費消事件(1) 国債報償金費消事件(2)
