写経屋の覚書-なのは「今年最後のエントリーだよ。年末で忙しいから手抜きするね」

写経屋の覚書-はやて「いきなり身も蓋もないこと言うたで!w」

写経屋の覚書-フェイト「それで何を見るの?」

写経屋の覚書-なのは「東学党の乱に際しての日清の対応について、原田敬一『日清・日露戦争』(シリーズ日本近現代史3 岩波新書 2007)をちょっと見るんだ」

写経屋の覚書-はやて「原田敬一?……嫌本やな」

写経屋の覚書-なのは「うん、嫌本♪ まず該当部分の画像をあげるよ」


$写経屋の覚書-原田56

写経屋の覚書-なのは「右側のページを読むだけでかなりアレなんだよねぇ」

写経屋の覚書-フェイト「どうして?全州和約のとこかな?」

写経屋の覚書-なのは「そうじゃないの。東学党の動きに関する記述は全部旧暦で書いているって点なの。他の個所については新暦で書いているんだから、それに合わせるか、但し書きをつけなきゃダメだよ」

写経屋の覚書-はやて「あー、自分で一次史料見たんと(ちご)て、他の論文等の丸写しとかしたん(ちゃ)うん?ってことやんな」

写経屋の覚書-なのは「そういうこと。じゃ、本文を見るよ」

 五月三一日、自体は急激に動いた。朝鮮政府は清国援兵要請を決議し、翌日領議政の名で袁世凱に援兵請求の公文を伝達しようとしたが、延着する。
 日本公使館の動きはいっそう素早かった。同日午後、杉村は「全州は昨日賊軍[東学農民軍]の占有に帰したり 袁世凱曰く朝鮮政府は清国の援兵を請いたりと」と打電した。二日にこれを受け取った伊藤内閣は、外国への軍隊派遣というハードルを軽々と越えた。三日前に届いていた杉村電報は、全羅道の騒動は収まりつつある、と述べていたのに、それとの矛盾を確認することもなく、この日閣議が召集され、衆議院の解散と朝鮮派兵を決議する。


写経屋の覚書-なのは「まず、「同日午後、杉村は「全州は昨日賊軍[東学農民軍]の占有に帰したり 袁世凱曰く朝鮮政府は清国の援兵を請いたりと」と打電した」ってあるのは、6月1日に駐朝鮮臨時代理公使杉村濬が発した電文のことだろうね。『日本外交文書』第27巻2冊のp155からテキストと画像を見るよ」


写経屋の覚書-日本外交文書27_155

  朝鮮国政府清国政府に援兵請求したる旨の袁世凱談話報告の件
電信訳文 六月一日京城発
東京       京城
 陸奥       杉村
全州は昨日賊軍の占有に帰したり袁世凱曰く朝鮮政府は清国の援兵を請ひたりと五月二十二日附第六十三号本官の機密信を参看ありたし

写経屋の覚書-はやて「発信日がずれとるけど、内容から見たらそうやろね」

写経屋の覚書-フェイト「「五月二十二日附第六十三号本官の機密信」っていうのは何なのかな?」

写経屋の覚書-なのは「それはp152に載ってる杉村から陸奥外相宛の電文なんだよ。長いけど全文引用するね」


写経屋の覚書-日本外交文書27_152

五月二十二日 朝鮮国駐剳杉村臨時代理公使より陸奥外務大臣宛
  全羅忠清両道の民乱に付鄙見上申の件
機密第六十三号本四二
                  五月二十八日接受
全羅忠清両道内に乱民蜂起し官吏を逐ひ城邑を屠り其勢猖獗を極むる事は追々の報告書に拠て御承知相成候義と存ず今日迄の報告に拠るに乱民の占拠若くは横行したる市邑は全羅道に在りては古阜、泰仁、扶安、金溝、井邑、高敞、茂長、羅州、咸平、務安、霊光等の各邑忠清道に在りては懐徳、鎮岑、青山、報恩、沃川、文義等の各邑に有之候へば全忠両道の凡三分一に相跨り候に付当国に取りては実に容易ならざる変乱に有之候加之近年其他の各道とも所在地方官の虐政に苦み政府を怨み動もすれば民擾を発せんとする折柄なれば全忠両道乱党の勢力如何に因ては彼等起て之に応ずるも難計左候時は京城は全く孤立の姿に陥り可申と被存候抑も当京城には新式(洋式)常備兵五千と称すれども其実数は是より減少すべく而して此等の兵卒は平生歩趨運動の訓練に止り護国の精神に至ては尋常市民に異ならず加之之を指揮する大小の隊長は大抵門地ある人々なれば唯其員に備はるのみにて平生の調練と雖も総て下士に任じ彼等自身に兵隊を指揮する例に無之由に候斯る有様なれば嚮きに派遣せられたる壮衛営の兵丁は各営中精練と称せらるゝにも拘らず彼地に至るや逃亡者日々不絶之が為めに士気沮喪し進んで乱民の鋭鋒に当ること能はず終に再び新兵を派遣する詮議に至りたるものと被推察候故に官民勝敗の境は新送兵到着の後に定まる事なれば今後三四週日内には略相決し可申万一不幸にして官軍敗続し民軍勝に乗じて北上する如きことあらば当政府には如何に処置するが予め之を今日に研究するは頗る必要と被考候鄙考には

第一策 政府は民願を容れ民望に応ぜんとの目的を以て咄嗟に内政の改革を行ひ国民が最も悪む所の弊害を除去し以て乱党を懐柔し徐々に鎮定の方法を執ること
第二策 兵を支那に借り以て乱党を勘定すること

第一策は諸大臣中二三の人是議を持するも公言を憚り上奏中陰に之を言ふものゝ如く第二策は閔泳駿主として之を唱ふるも異議多く未だ行れざるやに致漏聞候要するに第一策は目下権勢共に盛なる閔氏に不利益なれば国王の英断と雖も容易に行はるべしと思はれず之を行はんとするに閔氏を振離して之を政府外に逐出さゞる限りは其目的を達し難かるべく而して斯る大事業は韓廷諸臣の微力にて成功し能ふべしと思はれざれば今後乱民の勢力益々相募りたる暁には是非なく第二策の姑息手段を執るに立至り可申と被推察候扨支那兵が万一入韓(公然通知の手続を践み)するに至らば朝鮮将来の形勢に向て或は変化を来すも難計に付我に於ても差当り我官民保護の為め又日清両国の権衡を保つが為め民乱鎮定清兵引揚迄公使館護衛の名義に依り旧約に照し出兵可相成や又は清兵入韓候ども我政府は別に派兵の御沙汰に及ばれざるや右は大早計に似たりと雖も予て御詮議相成候様致度候尚又前陳の如く当国の形勢に異変を来したる場合に当り拙官の心得べき要項は兼て御訓示相成候様致度候
右全忠両道の民乱に付鄙見及上陳候也
 明治二十七年五月二十二日
           臨時代理公使 杉村濬
 外務大臣 陸奥宗光殿

写経屋の覚書-なのは「赤字部分が重要なの。清の派兵が朝鮮情勢に変化を及ぼすかもしれないから、日本も派兵するのかしないのかを検討しておいてほしいってことなんだよ」

写経屋の覚書-はやて「あー、そう言うたら、そもそも官民保護・公使館護衛のための派兵は済物浦条約によって規定されとるんやから、派兵自体に問題はあらへんかったわけやしな」

写経屋の覚書-フェイト「ってことは、原田の「二日にこれを受け取った伊藤内閣は、外国への軍隊派遣というハードルを軽々と越えた」っていうのは主観的な感想でしかないよね」

写経屋の覚書-なのは「そういうこと。次に「三日前に届いていた杉村電報は、全羅道の騒動は収まりつつある、と述べていたのに」というくだりなんだけどね。「三日前」というのは、6月2日の3日前ってことだろうから5月30日に収受された電報のことだと考えるんだけど…」

写経屋の覚書-はやて「よっしゃ、『日本外交文書』と『日韓外交史料』を探してみるで!……あれ?30日収受と明記されたもんで全羅道の状況について触れた電文は見当たらへんやん!どないなってんの?」

写経屋の覚書-なのは「そうなんだよねぇ。ただ『日本外交文書』第27巻2冊のp154に、収受日は書いてないけど、5月29日に駐朝鮮臨時代理公使杉村濬が発した電文があるの。発信日と内容から判断して、原田の言っている杉村電報はおそらくこれを指していると考えるよ」


写経屋の覚書-日本外交文書27_154

  清国援兵を望むに就いては反対意見多き旨報告の件
電信訳文 五月廿九日発
東京       京城
 陸奥       杉村
閔泳駿は清国援兵を望むの傾きあれとも朝鮮政府は閣臣多数の意見を容れて閔泳駿に反対の方針を執りたり全羅道の騒動は初めの如く重大ならす

写経屋の覚書-フェイト「…え?「全羅道の騒動は収まりつつある」じゃなくて「初めの如く重大ならず」だよ?「初めの如く重大ならず」つまり「最初のように重大なものではない」と「収まりつつある」とでは意味が全くの別物だよね」

写経屋の覚書-はやて「せやせや。全然(ちゃ)うで。それにもしこれとは別に「全羅道の騒動は収まりつつある」という電報があったとしてもやな、それは忠清道の民乱の収束まで示すもんとは(ちゃ)うやん。東学党の乱が起こっとるんは全羅道だけ(ちゃ)うんやし」

写経屋の覚書-なのは「そうなの。「全羅道の騒動が収まりつつある」とは解釈できないし、もしそうであったとしても、居留民保護と公使館護衛のための出兵そのものを止めるだけの価値を持った情報とはならないんだよねぇ」

写経屋の覚書-はやて「原田ってなんだかすごく頭の悪い人みたいに見えるよね…」

写経屋の覚書-なのは「正直、こういうひとがこういうこと言ってるのを見ると、頭が痛くなるよ」

植民地台湾と朝鮮の政策は、「進んだ日本」の、技術や資本を「遅れた地域」に移しただけで、欧米のような「極悪な植民地支配」をしたわけではない、という言い訳が二〇世紀末以来この日本に広がりつつある。これまでの詳細な研究によれば、そんな「言い訳」は一笑に付される低い水準のものでしかない。(p238)

書くのは苦しかったが、その間にこの二〇年間の日本近代史研究が相当進んだ、という思いが強くなっていった。しかもいつの時代でも破壊の旗手として現れる若手研究者だけでなく、成熟した研究者も含め、鋭い問題意識と確かな実証を通じて、深く新しい認識が示されている。そうした大きな成果を吸収し、貴重な到達点と、私自身のささやかな試みとを合作させたものが本書である。(p241・242)

写経屋の覚書-はやて「…破壊せなあかんのはこういう人の頭やいう気がする…」

写経屋の覚書-フェイト「この人もやっぱり結論に史料解釈を合わせるタイプなんだろうねぇ…」

写経屋の覚書-なのは「今年最後のエントリーがこんなものって言うのはちょっと心苦しいけど、ここまでにするね。ではよいお年を」

写経屋の覚書-フェイト「今回も渡航制限の話を見るの?」

写経屋の覚書-なのは「うん。今回はちょっと時代が下って1941年(昭和16年)の状況を見るの。史料は『朝鮮総督府帝国議会説明資料』第6巻(不二出版 1994)なの」

写経屋の覚書-はやて「帝国議会説明資料?国会で総督府の施政について質問を受けた時の説明用資料やな」

写経屋の覚書-フェイト「そうだよ。第6巻は1941年(昭和16年)12月の第79回帝国議会用の説明資料が収録されているんだけど、その中から警務局の説明資料を見るよ」


写経屋の覚書-16年12月議会説明資料168
写経屋の覚書-16年12月議会説明資料169
写経屋の覚書-16年12月議会説明資料170

 6 渡航制限制度
 朝鮮人の内地渡航は原則として之を自由と為し、唯従来より労働者に在りては内地に於ける種々なる実情より之が慢然渡航を諭止し来りたるも、渡航者は年々増加して遂には内地に於ける労働者に不安を与へ、殊に欧州戦後の内地経済界の不況は一層深刻の度を加へたると、此間一部不逞者の潜入等もありたるにより、大正十四年八月内務省の要望に依りて之が渡航に制限的取締を加へ、更に昭和九年十月閣議決定事項の趣旨に基き、内地渡航労働者を一層減少せしむる為之が保護指導を強化し来たれる処なるが、本渡航制限は一部に於ては一般朝鮮人の渡航制限と誤解し、或は非労働者の渡航に際しても誤れる措置を為す等の実情よりして朝鮮人に対する差別的取扱なりとの不平不満著しく、延いては民族的反感をも醸成するに至る等朝鮮統治に及ぼす影響尠なからざるものあるのみならず支那事変以来朝鮮人の愛国心の発露と目さるべき美談佳話澎湃として起り朝鮮人の皇国臣民化は一段と促進せられたる実情に鑑み、朝鮮人に対する施策の中内鮮差別待遇なりとの非難を受け居りたる本制度の全面的撤廃をも必要とする情勢に立ち至りたるも内地に於ける諸種の実情よりして之が実現を見ざりしが、昭和十三年三月朝鮮人内地渡航取締に関して内地当局に対する要望事項(別紙甲)を提出せるに対し、内務省より適切なる回答(別紙乙)を得て、爾来内地渡航朝鮮人の取締は一段と改善せられ、朝鮮人間に於ても好感を持する等内鮮一体の具現化に寄与する処大なるものありたり

写経屋の覚書-なのは「昭和9年の閣議決定事項は、朝鮮人移住対策の件(一)朝鮮人移住対策の件(二)で紹介されていた1934年(昭和9年)10月30日の閣議決定『朝鮮人移住対策ノ件』のことなの」

写経屋の覚書-フェイト「それでもやっぱり不満は出てたんだね」

写経屋の覚書-なのは「徐々に段階的に内地人並みの待遇をしていく中での話なんだよね。そういうわけで1938年(昭和13年)3月に総督府が内務省に対して取締の改善要望を出したんだけどね…あ、要望と回答はあとで見るよ」

 然し乍ら朝鮮人労働者の内地渡航制限制度の存する限り、之に随伴して行はるる内地側の取締実情は朝鮮人に対して差別的取扱を為すとの観念を払拭するに至らず、朝鮮統治上の大なる障碍となりつつあるを以て、昭和十四年以来内地労務者の不足に鑑み送出し居れる多数朝鮮人労務者との関係を考慮し、本制限を全面的に撤廃して新に労務調整の見地より必要なる統制を加へ、以て多年の懸案たりし渡航制限に関する内鮮差別感を一掃し、明朗なる統治の下に忠良なる皇国臣民を練成し、内鮮一体の境地に到達せしめんと努めつつあり

写経屋の覚書-はやて「結局、1939年(昭和14年)に制限自体を撤廃したんやな」

写経屋の覚書-なのは「ま、この時期から官斡旋による労働者移入も始まってるし、戦時の労働者動員体制に対応した措置なんだろうとは思うんだけどね。で、さっき言った1938年3月の内務省への要望と回答を区切って見ていくよ」

     朝鮮人の内地渡航取締に関する朝鮮総督府の要望事項及内務省の回答

甲 朝鮮総督府要望事項乙 同上に対する内務省の回答
一、渡航取締の趣旨に就て

朝鮮人の内地渡航取締は内地に渡航し労働に従事する者に対してのみ実施せらるるものにして労働者以外の一般渡航者は自由に往来し得るものなることの趣旨を取締警察官に徹底せしめられたきこと


従来に於ても労働者以外の一般朝鮮人の渡航の自由なることに関しては其の趣旨の徹底に努めつつある所なるが今後一層之が徹底に努め度
不逞分子の潜入防止並検挙の立場上渡航朝鮮人に対し連絡船又は列車中に於て一応之が取締を為すは止むを得ざるべし然れ共実際の処遇に当りては朝鮮当局の発給に係る諸証明書を尊重し努めて二重取締の弊を避け度

二、内地在留朝鮮人の取扱に就て

1.内地に在住する朝鮮人に対する警察官の処遇上の言語態度等に注意せしめ朝鮮人なるが故に差別取締をなすが如き態度に依り不平反感を誘発せざる様留意せしめられ度く特に内地に於ける船舶列車中の朝鮮人に対する移動警察官の処遇に留意せしめられたきこと


1.朝鮮人の処遇に関しては貴意に副ふべく一般警察官特に平素最も多く朝鮮人に接触する内鮮係員又は移動警察官に対し指導教養に努め度



写経屋の覚書-フェイト「警察官の対応や態度についてはどうしても不満や問題が出てくるよねぇ…「特に内地に於ける船舶列車中の朝鮮人に対する移動警察官の処遇に留意せしめられたきこと」って、場所柄どうしても密航者の疑いを持って接するからだろうし」

写経屋の覚書-なのは「そうだねぇ。警戒して疑うのが仕事のうちではあるんだけど、疑われる方はいい気分はしないよね」

2.一時帰鮮証明書の発給を内地在留朝鮮人工場労働者等特定の者に限定せず労働者全部の一時帰鮮に付簡易なる取扱に依り之を発給することとし其の有効期間を二ヶ月(現在一ヶ月)に延長し又必要に応じ臨時之が延長を認められたきこと

2.一時帰鮮証明書の発(ママ)は工場鉱山等に稼労する労働者のみに止らず其の他の労働者一般使用人にして再渡来後就職先確実なる者及有識職業に従事する者並に独立営業者にして特に希望ある者に対しても貴意に副ふべく又其の有効期間の延長に関しても貴意の通り規定の改正を行ひたり

3.扶養義務者が既に内地に在る場合其の扶養家族が義務者の許に渡航する場合は行先地所轄署に対する渡航照会を省略し自由に渡航を認むること

3.扶養義務者が既に内地に在る場合被扶養者の渡航に関しては扶養義務者が単独にて扶養し得ることを前提とし妻の渡航に就ては取扱上特に考慮致度
尚父母及子に就ては本人が鮮内に於て稼働能力なき場合に限り妻に準じ考慮致度
孰れにするも扶養義務者の居住地所轄警察署に対し事前照会の手続相煩度

4.内地在留中の所謂不良朝鮮人の朝鮮送還を差控え内地在留者は内地当局に於て之が教化指導に努めらること

4.内地に於ては近年特に協和事業の普及及充実を図り在住朝鮮人の教化指導の完璧を期しつつあるも同事業遂行を甚しく阻害し一般朝鮮人の善導を不可能ならしむるが如き者に限り送還を必要とす然し乍ら右の如き送還者は将来協和事業の徹底に依り漸減するものと認めらる



写経屋の覚書-なのは「あ、一時帰鮮証明書は、1929年(昭和4年)から始まったもので、内地在住者が一時的に朝鮮に帰郷する時に発行されたの」

写経屋の覚書-はやて「それを持っとったら密航者やなくて内地に戻る朝鮮人やいう証明になるいうわけやな。ほんでそれの発行対象者を工場鉱山労働者だけやなくて内地在住朝鮮人全員に拡大して、有効期間も1ヶ月から2ヶ月に延長してほしいと」

写経屋の覚書-フェイト「対象拡大と期間延長はかなえられたみたいだね。「内地在留中の所謂不良朝鮮人の朝鮮送還を差控え内地在留者は内地当局に於て之が教化指導に努めらること」って強制送還はんたーい!ってことだよね?」

写経屋の覚書-なのは「協和事業の遂行を阻害して一般朝鮮人の善導を不可能にするような人は送還するよ。だけど、そういう人も協和事業の徹底で減っていくだろうねっていうのが回答なんだけど、テロリスト所謂独立闘士とかで内地在住朝鮮人に悪影響を与えたりするような人やよほど凶悪な犯罪者でもない限りは送還しないってことだろうね」

三、渡航照会に就て

朝鮮側警察官憲より内地渡航希望者に関する照会ありたる時は内地警察官憲は速かに調査回報するは勿論渡航不可なるものに付ては其の事由を渡航希望者に納得せしめ得るに足る様詳細朝鮮側警察官憲に回報せられたきこと
従来往往渡航を諭止すべきものなることの事由を一律に不動文字にて印刷したるものを以て回答せらるる向あり


貴意に副ふべく努力致度


写経屋の覚書-はやて「「従来往往渡航を諭止すべきものなることの事由を一律に不動文字にて印刷したるものを以て回答せらるる向あり」って、渡航諭止者へ諭止事由テンプレを印刷した書類を一律に送って回答にしとったいうことやな。悪い意味でのお役所仕事、機械的作業やねぇ。そら、そんなんもらってもなかなか納得できへんやろね」

写経屋の覚書-フェイト「そうだよね。テンプレ対応しないとさばき切れないほど申請者が多かったというのはあるとは思うんだけど、個々の渡航申請内容を検討したうえで諭止するっていうのが本来の形なんだしねぇ」

四、労働者募集に就て

1.内地に於ける雇傭主にして鮮内より労働者を募集せむとするものに対しては内地在留の失業朝鮮人中より雇用することを勧告し朝鮮内より新規の労働者を不正の方法に依り誘引せざる様取締られたきこと若し鮮内に於て朝鮮人労働者を募集する場合は労働者募集取締規則(総督府令)に依り許可を要するものなることを一般に周知せられたきこと


1.貴意に副ふ様取締るべし

2.内地方面より鮮内の朝鮮人労働者募集に就ては所轄府県知事の募集の正当なることの証明書を添附出願せしむることとし其の実情に依りては許可の方針を採りたし

2.本件に就ては許可相成らざる様致され度

本項に関しては支那事変の進展に伴ひ各種産業の統制強化せらるるに従ひ内地在住朝鮮人の離職する者相当多数に上る見込に有之之が対策に関しては尠からざる困難を予想せらるる次第なるを以て今後一層取締を強化致度



写経屋の覚書-なのは「「内地に於ける雇傭主にして鮮内より労働者を募集せむとするものに対しては内地在留の失業朝鮮人中より雇用することを勧告し朝鮮内より新規の労働者を不正の方法に依り誘引せざる様取締られたきこと」っていうのは、渡航熱を煽らないように内地在留朝鮮人の失業者から募集してほしいってことと、悪徳業者の取締に関する話だろうね」

写経屋の覚書-フェイト「人狩りのように労働力を根こそぎ持っていくんじゃなくて統制するってことだよね。次の「内地方面より鮮内の朝鮮人労働者募集に就ては所轄府県知事の募集の正当なることの証明書を添附出願せしむることとし其の実情に依りては許可の方針を採りたし」については「本件に就ては許可相成らざる様致され度」って回答されてるけど、どういう意味なのかな?」

写経屋の覚書-はやて「朝鮮人労働者募集が正当やいう府県知事の証明書を持っていったかって、総督府で許可せんといてくれ?朝鮮での朝鮮人労働者募集は不許可なん?これ、どっちか言うたら内務省の方やなくて総督府の方から言うような内容やで?」

写経屋の覚書-なのは「これはね、「本項に関しては支那事変の進展に伴ひ各種産業の統制強化せらるるに従ひ内地在住朝鮮人の離職する者相当多数に上る見込に有之之が対策に関しては尠からざる困難を予想せらるる次第なるを以て今後一層取締を強化致度」に関係してると思うんだよ。産業統制で離職する内地在住朝鮮人を労働者募集の方に誘導、吸い上げるために、朝鮮からの新規労働者流入を防ぐって狙いがあるのかなって」

写経屋の覚書-フェイト「内地在住の離職者用の枠を確保するってことなのかな?」

五、私立学校の生徒の渡航に就て

1.私立学校在籍の朝鮮人学生の携帯する在学証明書中往々写真の貼付なきものあるを以て必ず写真を貼付する様学校当局へ徹底方取計らはれたきこと


1.在学証明書に写真のなき貼付事実発見の都度各府県に於て当該学校に対し励行方厳達しつつあり

2.私立学校にして真に入学修業する意思なき者に対しても在学証明書を発給する向ありて本証明書を不正渡航に使用せんとする者尠からざるに付取締上留意せられたきこと

2.入学前の在学証明書発給に関しては各府県に於て学校当局に厳重注意を促しつつある処なるが将来之が絶無を期し度



写経屋の覚書-フェイト「在学証明書に写真貼らなきゃ意味がないよ。偽造とかなり済ましし放題になるよ…」

写経屋の覚書-なのは「学生のうちはなかなか気付かないんだろうけど、あれも身分証明に使用できる大事なものだからねぇ。ま、学校を通じて注意してもらうしかできないよ」

写経屋の覚書-はやて「「私立学校にして真に入学修業する意思なき者に対しても在学証明書を発給する向ありて本証明書を不正渡航に使用せんとする者尠からざる」って、正規の渡航証明を得るために入学するってことやんな。つか私立学校のほうもグルなん(ちゃ)うん?」

写経屋の覚書-フェイト「生徒数の水増しで実績誇張とか、偽装入学者から手数料代わりの「入学金」を取ってるのかもしれないね」

写経屋の覚書-なのは「ちょっと前、青森大学等で、就労目的の中国人が留学生を偽装して入学しする問題が話題になったよね。それと同じことをやってるんだよねぇ」

六、密航者取締に就て

密航者(不正渡航者以下同じ)と雖発見当時相当の年月を経過し業務に就職(就労)しある者に対しては朝鮮送還を差控えられたきこと尚之れが送還の取扱に付ても一般犯罪人と同一視し過酷に亘るが如きこと無き様取計はれたきこと


密航者の取締に就ては現在に於ても貴意の如き取扱を為しつつあり尚送還者の取扱に関しても貴意の如く将来共適切なる取扱致度


写経屋の覚書-フェイト「え?「発見当時相当の年月を経過し業務に就職(就労)しある者に対しては朝鮮送還を差控えられたきこと」と「密航者の取締に就ては現在に於ても貴意の如き取扱を為しつつあり」って、就労と定着の既成事実があれば不問に処すの?」

写経屋の覚書-はやて「これ、「在日特権」とか言うやつ出てきよるでw」

写経屋の覚書-なのは「前回も見たように、渡航の制限や不正渡航所謂密航への取締と処罰って厳重なものだったとは言えそうにないかな?っていうのが今回の結論かな。じゃ、ちょっと早いけど今回はこれでおしまいにするね」

内地渡航制限(1)
写経屋の覚書-なのは「今回は朝鮮人の渡航について、久々に獄長日記に頼って見ていくよ。最初の参考エントリーは朝鮮人移住対策の件(八)、ここで紹介されている警務局長、学務局長連名による各道知事宛の1934年(昭和9年)3月5日『朝保秘第101号 内地渡航朝鮮人取締ニ関スル件』を読んでね」

写経屋の覚書-フェイト「えっと、漫然渡航の諭止の話だね」

写経屋の覚書-なのは「うん。この時期より少し前、それも地方の史料になるんだけど、『暴徒史編輯資料/高等警察要史』(以下『編輯資料』)っていうのがあるの」

写経屋の覚書-はやて「編輯資料?」

写経屋の覚書-なのは「著者は朴重陽、1970年の出版で、国会図書館等の書誌情報では出版地不明・出版者不明になってるんだけど、本来は慶尚北道警察部が編集したものなの。本文中に「昨昭和三年」という記述があって、渡航阻止表が昭和4年5月までになっているから、昭和4年(1929年)6月以降、少なくとも4年度中の編集出版だと見ているんだけどね」

写経屋の覚書-はやて「慶尚北道の統計なんかが載っとるわけやな」

写経屋の覚書-なのは「不逞鮮人の活動や満洲等の外地での状況なんかが載ってるんだけど、p147~150に内地への朝鮮人渡航についての記述があるんだよ。さっそく見ていくね」

写経屋の覚書-暴徒史編輯資料147
写経屋の覚書-暴徒史編輯資料148
写経屋の覚書-暴徒史編輯資料149
写経屋の覚書-暴徒史編輯資料150

     第三節 朝鮮人労働者の内地渡航取締
      一、現行渡航阻止の由来
 前叙の如く渡航者年々に著しき増加を来し而も其の大部は無学者にして国語、内地の風俗習慣を解せす一旦渡航するも就職口の如きも意の如くならす内地在住不良輩にに乗せられて旅費さへも詐取せらるるもの亦不尠、之か保護の趣旨より大正七年一月府令第六号を以て朝鮮外に於ける事業に従事する労働者の募集取締規則施行せられ次て大正八年三月騒擾後主として警察取締の見地より警務総監部令を以て朝鮮人の旅行取締に関する件を制定し朝鮮人旅行者に対し証明書を携帯せしむる事とせる結果同年は渡航者二、〇〇〇名に止りたり
 然るに如斯取扱は自由拘束の著しきと鮮内の民心漸次静穏に向へるを以て其後一、二年間は此の制限に多少緩和手心を加へ大正十一年に於て遂に此の証明書制度を廃せり

写経屋の覚書-フェイト「大正7年1月府令第6号って労働者募集取締規則(二)労働者募集取締規則(三)労働者募集取締規則(四)で出てたよね?」

写経屋の覚書-はやて「せやな。「之か保護の趣旨より」ってことは、獄長の言うように「単なる悪質な募集者の取締り」いうことが追認できたってことやね」

写経屋の覚書-フェイト「大正8年の警務総監部令っていうのは、朝鮮人ノ旅行取締ニ関スル件に出ている『警務統監部令第3号 朝鮮人ノ旅行取締ニ関スル件』のことだね?」

写経屋の覚書-なのは「そうだよ。そこを読むと「寧ろ間島なんかの中国北東部への警戒、所謂「不逞鮮人」への警戒を主眼とした規則であり、「内地への渡航制限」とか、その廃止を以て「自由渡航制」なんてのは、ちょっと大袈裟に過ぎるんじゃないかと思うわけですが、如何でしょうか」ってあるんだけど、これは編輯資料の「警察取締の見地より」と「鮮内の民心漸次静穏に向へるを以て其後一、二年間は此の制限に多少緩和手心を加へ」と対応してるんだよね」

写経屋の覚書-はやて「警察取締の見地いうんは不逞鮮人への警戒を指すいうんはわかるけど、後者の方はなんでなん?」

写経屋の覚書-なのは「「此の制限に多少緩和手心を加へ」なんて言っている時点で、厳密厳重な渡航制限じゃなくて一時的時限的な取締だってことだし、それを廃止したところで「自由渡航制」とまではちょっと言いにくいんだよね。だって関東大震災直後にも渡航証明制度を復活させてるんだし」

写経屋の覚書-フェイト「渡航証明制度はあくまでも非常時に対応した制限措置だってことだね。だから民心が落ち着くにつれて徐々に緩める、「手心を加へ」るってことなんだね。自由渡航制っていうのも少し大げさなんだね」

 一度此の制度を撤廃するや時恰も内地は経済界の反動に席巻され居たるにも不拘恰も決河の如き勢を以て内地渡航増加し大正十一年に於て一躍八、二二二名に騰れり、同十二年に於ても亦同様増加の趨勢にありしか偶々同年九月関東大震火災の為め一時同地方のへの渡航を阻止するの止むなきに至り大正十三年五月震災地方の秩序恢復に至る迄再ひ前記の証明制度を復活したる結果渡航者数は大体前年に多少増加せるの程度に止れるも帰還者か一躍八、五六五人に達せるは震災の避難帰還と当時の流言蜚語に原因せるものなるへし

写経屋の覚書-はやて「ああ、これがさっきなのはちゃんが()うとった渡航証明制度の復活やね」

写経屋の覚書-なのは「うん。非常事態だし混乱を防ぐため一時的に渡航を阻止するのが目的だったの。関東大震災関係史料(四)に出てくる1923年(大正12年)9月4日付の閣議決定『閣甲第143号』の「下関に於て朝鮮人入国を拒絶すること。朝鮮総督に此迄通報のこと」に対応した措置だったんだろうね」

 然るに大正十三年五月右制度撤廃するや被阻止の反動と震災復興事業に依る労働者の需要予想とは遂に同年の渡航者一二、〇〇〇人を突破せしむるに至れり仰々内地渡航制度の如きは前述の如き必要事情の存する場合は兎も角其他の場合に於ては穏当ならさるは勿論なるも之を大勢の趨く儘に委せんか内地主要都市に於ける労働者の需給に甚大なる関係ありて可否の理論は兎に角も実際問題として需給調節の必要切迫により大正十四年十月以降主として慶南道に於て再ひ渡航者の保護阻止を実施し現在に至れり然るに如斯して釜山に於て所謂漫然渡航者の阻止に努むるに時既に彼等は郷里出発後なる為め船車賃の割戻等によりて郷里に帰還せしむる等の方法に依りしも斯くては徒に手数のみ煩瑣にして加ふるに被阻止者に不平を買ひ或は内鮮差別云々の口実を設くるの虞あり更に一歩を進めて地元阻止によりて保護阻止の効果を得へく昭和三年七月以降出郷前に於て可成阻止の方法を講し
 一、就職口確実なる者
 二、必要旅費を除き尚十円以上の余裕を有するもの
 三、モルヒネ中毒者にあらさること
 四、ブローカー募集に応したるものにあらさること
等の各項条件を具備し渡航止むを得さるものに限り署所に於て釜山署宛渡航紹介状(可成戸籍謄本に奥書)を交付連絡を保持し以て渡航者か釜山迄赴きて阻止せられ帰郷するか如き無用の失費を防止すると共に所謂不正渡航等の少からしむる様努めつつあり

写経屋の覚書-フェイト「所謂復興特需での労働力需要増加をあてこんでの渡航だね」

写経屋の覚書-なのは「それで、内地に行けばどうにかなる、何か仕事にありつけるって感じの漫然渡航も増加しちゃうわけで、それを阻止するよう措置を取るわけなんだよ。朝鮮人移住対策の件(三)にもこの紹介状制度が載ってたよね。ただ獄長と同じで根拠法規を捜したけどよく分からないの…」

写経屋の覚書-はやて「出港地の釜山で阻止して船賃・鉄道乗車賃を払い戻して郷里に帰らすんやな。せやけど手続も煩瑣やし「差別ニダ!」とされる根拠になるおそれもあるから、地元での阻止措置を考えたいう話やね」

写経屋の覚書-フェイト「就職口確実なる者と旅費以外に十円以上の余裕ある者っていうのは、あてもないけどとにかく行ってしまえというのと浮浪者化するのを防ぐためだよね?」

写経屋の覚書-はやて「モルヒネ中毒者があかんのは治安・衛生面の話やな。ブローカーは最初に見た「悪質な募集者」のことやろしな」

写経屋の覚書-なのは「ま、こういう条件を設定して、渡航者には釜山署宛の紹介状を交付するの。漫然渡航者が釜山まで行ったところで阻止されて引き返さなくてもいいようにってことだけど、実際問題として、釜山に来たら、各地から渡航者が集まってくるから取締も難しくなるだろうし、何らかの不正渡航手段にたどりつく可能性も高くなるだろうしね」

      二、阻止の状況
 前項の如く紹介状制度実施により同八月より十一月迄の間渡航者は減少し之に反し被阻止者は相当増加を示せり之か原因は反面に於ては御大典特別警戒に依る渡航阻止も一原因たるへきも紹介状制度の効果に因る処少しとせす
 然れ共本道は昨年度稀有の旱害に見舞はれ極度の生活難を訴ふる者続出し其の結果内地渡航を志すもの夥しき数に達し十一月御大典特別警戒の終了するを待ちて他の被阻止者中の者と合して恰も雪崩の如く流出し十二月中の渡航者一、六五八名阻止者(地元)三、二八四人に達したり今紹介状制度実施の昨昭和三年八月より同四年五月に至る間の渡航並に阻止の状況を表示せは別表の如し

写経屋の覚書-フェイト「最初に言ってた、編輯史料の作成年を1929年と判断する根拠の「昨昭和三年」が出てくるのはここのことだったんだね」

写経屋の覚書-なのは「うん。渡航・阻止の状況表はp340・341に載ってるの」

写経屋の覚書-暴徒史編輯資料340
写経屋の覚書-暴徒史編輯資料341

一七、朝鮮人内地渡航又阻止状況表

区分

(年)月別

渡航者阻止者
戸籍謄本に
裏書交付
せるもの
紹介状を
発給した
るもの
阻止に応せ
ず渡航せり
と思はるもの
地元阻止駅停留所等
にて阻止
せるもの
昭 和 二 年---14,688---
---14,688---
昭和三年自一〇
至七月
---19,035---
同  八月2172282847298886171,505
同  九月5101592749431,2324731,705
同  十月560501887981,2992291,528
昭和三年十一月431931006241,7673412,108
同 十二月1,2872051681,6582,7375473,284
昭和四年 一月1,5841203382,0423,8012394,040
同  二月1,9221342892,3454,770324,802
同  三月3,2891252523,6666,7503647,114
同  四月2,968953453,4085,7692946,063
同  五月1,973881692,2304,1513024,453


写経屋の覚書-フェイト「阻止に応じず渡航したと思われる者が、渡航者のだいたい10%もあるってどういうことなの?阻止に法的な拘束力はなかったのかな?」

写経屋の覚書-なのは「朝保秘第101号にあったように、阻止じゃなくて諭止ってことだしねぇ…紹介状偽造などの不正手段を取らない限り逮捕できないしね」

写経屋の覚書-はやて「不正手段による渡航、つまり密航やね」

写経屋の覚書-なのは「うん。次はその取締についてなんだよ」

      三、所謂密航者の取締
 前叙の如く渡航阻止実施の結果殊に昭和三年七月紹介状に依る取扱開始以来紹介状を得られさるの徒輩は初志の目的達成の為め或は取締官憲の監視の視線圏外より密に内地渡航を企て或は取締警察官の面前に於て公々然不正手段を弄し発見さるるもの続出し最近の如きは公文書偽造の犯罪著しく増加し内地渡航に関する特種犯罪現象を顕出せり以下是等所謂密航の状況及之に因由する犯罪の概況に付て記述すへし
1.所謂密航の状況
 大正十四年十月渡航阻止開始以来阻止者は何等かの方法に依りて初志を達せんとして当初は連絡船以外の会社船乃至は発動機船等内地往復船によりて渡航の方法を構しつつありしも内地沿岸府県の取締は漸次巧妙厳重となり渡航先に於て発見さるるもの不尠、而して此等密航鮮人に対しては内地官憲に於ても相当保護の方法を講し多くは目的地に向はしめ或は就職の斡旋を為し特に就職の可能なきものに対しては便船等により本籍地に送還する等の方法を講しつつあり然るに次項記載の如く此等密航者は最近に於ては釜山其他鮮内沿岸に潜在する所謂密航フローカー巧なる魔手に乗せられたるもの大部にして元より密航者の取締に徹底を期すへきは勿論なるも現下の対策としては此の密航フローカーの徹底的検挙を以て最も緊要事なりと認む今試みに昭和三年八月以降同四年五月迄内地官憲によりて発見せられたる道内よりの密航鮮人の状況を示せは別表の通りなるか巧妙なる方法に依れるものは多くは発見せられす其数も判明せすと雖も別表渡航阻止表中密航せる者と認めらるる者欄記載数字に依れは略々推察に難からさるへし

写経屋の覚書-フェイト「え?「密航鮮人に対しては内地官憲に於ても相当保護の方法を講し多くは目的地に向はしめ或は就職の斡旋を為し」って、全部送還しないの?」

写経屋の覚書-はやて「厳しい取締とか無慈悲な差別弾圧とは程遠いやんなぁw」

写経屋の覚書-なのは「その密航に関係する犯罪の内容については以下の通りだよ」

2.内地渡航に因由する犯罪
 叙上の通り渡航阻止は自然の勢として密航者を続出せしめ多くは此の方法に依らむとせるか昭和四年七月紹介状制度の実施と内地官憲の取締厳重なるにより其方法も勢ひ第二段に出て其の方法の性質より当然の帰結として次記の如き特種犯罪を生むに至れり
(イ)渡航者の犯罪
 紹介状制度の周知は既に僻地にも及へる結果渡航希望者の多くは所轄署所に紹介状の交付を願出するも自ら省して下付の見込なきもの一旦願出たるも阻止せられたるもの、或は紹介状交付を容易ならしむめむとするもの等は紹介状受給の手段として

一、他人の戸籍謄本、氏名を冒用するもの

二、内地在住知己より死亡又は危篤の偽電を発せしめ之を提示するもの

三、同上内地在住者を通して内地工場主其他の雇傭証明書を郵送せしめ之を提示紹介を願出するもの

四、留学生の在学証明書を冒用するもの

五、在内地知己の貯金通張(ママ)の郵送借受け再渡航を装ひ紹介を受けむとするもの

六、在内地知己と通謀し郷里家族を連行の為め一時渡航と称するもの


 等多種多様殆んと想像外の方法を講しつつあるか此の方法さへ自然陳腐とされ最近は駐在所首席巡査の私印甚しきは警察署印を偽造して紹介状を偽造して其目的を達せんとするものさへ出するに至れるか此等事案に対しては徒に内地渡航者に模倣せしむるの虞あり殊に公文書官印の偽造の如きは刑事犯として重要事案なるを以て之か検挙は仮籍なきを期し居れるも其の犯行の動機目的たるや多くは単なる内地渡航熱に刺戟せられたるものに過きさるを以て之か処分に就ては多くは起訴猶予意見訓戒放免、等の方針を採り其他のものは多は説諭に止めつつあり

写経屋の覚書-フェイト「警察から紹介状の交付を受けるためにいろんな不正手段を考えるんだねぇ」

写経屋の覚書-はやて「1の他人の氏名を騙ったり、他人の戸籍謄本を使うとか、4の他人の在学証明使用なんていうんはひどい話やねぇ。4の他人の通帳使用もせやけど、いうたらなり済ましやし。2の内地在住者から危篤を偽った呼び寄せ電報くらいならまだ笑えるんやけど」

写経屋の覚書-なのは「3の偽の雇傭証明発行はよくある手だね。内地在住の知り合いが工場主にちょっとした謝礼を包めば可能だし。ま、それでもほとんど起訴猶予で訓戒か説諭止まりなんだよね」

(ロ)密航フローカー犯罪
 地元にて阻止を受けたるもの或は漫然渡航の目的にて釜山其他海港に彷徨徘徊するもの増加に伴ひ之等の心裡を巧に利用して内地渡航を斡旋すと称し手数料として六円乃至二十円を徴し十頓乃至二十頓内外の小発動機船にて対馬又は福岡、山口、長崎県下等に密航せしめ居たるか客年八月以降に於ては更に犯罪方法を更改し偽造紹介状の販売詐欺事犯著しく増加せり
 而して其の販売たるや一件三円乃至一四、五円を徴し其の目的の如きも単に販売援与による金銭詐取に止まり何等渡航に関する責任を負担することなきを以て第一方法に依るもの以上に辛辣なるものあり其の行為たるや最も情の悪きものありと雖も其の犯行たるや多くは不知の者相互間而も夜間路上にて行はるるを常とするか故に其の検挙は困難なる関係ありて従来道内に於ける被害者多きも犯人の検挙(主として釜山地方に行はるる為)なし
 以上の犯罪にして昭和三年八月以降同四年五月末迄の状況別表の如くなるか其の何れの事犯たるを不問犯罪動機目的自ら差ありと雖も等しく渡航阻止の産める犯罪にして本件渡航阻止に対する鮮人一般有職者(左傾者輩は勿論)の感想か「穏当を欠けるに非さるか」との語に一致せる等の事実と対比し何等かの社会的政策に於て両者の間の緩和等相当考究せらるへき問題たり

写経屋の覚書-フェイト「こっちは密航仲介業者の話だね。渡航阻止に対して誰もが「穏当を欠いているんじゃない?」って言ってるってことだよね?」

写経屋の覚書-なのは「うん。左翼的傾向のある人どころか有識者一般がそう言っているんだってことで、渡航阻止措置に対する批判は幅広いものだって言いたいんだろうね。で、「別表渡航阻止表」はさっきの渡航・阻止状況表と同じp341に載ってるの」

一八、不正手段に依る内地渡航者処分調(自昭和三年七月至昭和四年五月)

処分別

不正方法

検事送致罰金科料拘留訓戒説諭備考
紹介状偽造9-23-16△は偽造の事実判明するも関係者所在不明の為取調不能
△68
不実申告-1129350381 
印章偽造2----2 
雇傭証明書偽造1--18789 
詐欺的手段密行悪ブローカー2----2 
偽造証明--313337 
留学詐称----1010 
他人の証明書使用--3-3- 
他人の戸籍謄本使用--3-3- 
141642480543 
△68

写経屋の覚書-はやて「ブローカー検挙は全部送致なんは当然として、紹介状や印章、雇傭証明の偽造っちゅう公文書偽造ですらほとんど送致やなくて重くても拘留止まりなんやな。あ、不実申告で罰金科料が1例あるけど、これはよっぽど悪質なやつやったんやろなぁ」

写経屋の覚書-フェイト「さっきなのはちゃんが言ったように、88%が起訴猶予で説諭なんだね。慶尚北道だけの統計だから他の地方はどうなのかわからないけど」

写経屋の覚書-なのは「まぁそんなに差はないだろうとは思うんだけど、断言は避けておくよ。獄長の言うように、警務統監部令第3号は「寧ろ間島なんかの中国北東部への警戒、所謂「不逞鮮人」への警戒を主眼とした規則であり、「内地への渡航制限」とか、その廃止を以て「自由渡航制」なんてのは、ちょっと大袈裟に過ぎるんじゃないかと思うわけですが」が追認できて、渡航制限・取締も厳しく運用はしてなかったことが確認できたところで、今回はおしまいにするね」