【小説】スター・ゲートの向こうへ・5 | 沈黙こそロゴスなり

沈黙こそロゴスなり

The Message from the stars that illuminate your life.

実用化計画は比較的スムーズに進んで行った。
転送システムの大型化も行われ、ある程度の量の物資の転送もほぼ問題なくできるようになった。
しかし相変わらず、転送精度を上げることは困難を極めた。
なんどか小動物での実験も行われたが、この哀れな小動物たちは、ほぼ確実に転送先で肉塊として出現した。

「これなら最初から羊とか牛とか転送すればよかったなあ。料理の手間が省ける。そうだ、この装置を使った牛の丸焼きの宅配サービスってどうだい?」
ザヒの悪い冗談に顔を曇らせながらも、サラは何とかして転送精度を上げるための方法を探っていた。しかし何度実験しても結果は変わらなかった。

「ここまで来たのに、やっぱりこの方法では、これ以上は無理なのかしら」
サラは日に日に元気を無くし、ため息ばかりつくようになっていた。

「サラ、あまり根詰めないで、少し休んだらいいよ。そうだ、今度の休みにファラッカ島へ行かないか? 少し休養しよう、二人だけで」
「ありがとうラハブ。でも私もう少し頑張ってみたいの。まだ何か見過ごしているものがあるんじゃないかと思って」
「そうだね、君の言うことももっともだ。だからこそここはリフレッシュしたほうがいいと思うんだ。疲れた頭では見えなくなっているものもあるかも知れないからね」
「そうね...」

ラハブはサラをなんとか説得し、ファラッカ島へ旅行にいくことにした。
ザヒはそんな二人の様子を見ながらあることを考えていた。


ペルシア湾に浮かぶファラッカ島は、とても美しい島だった。島は巨大なシダやヤシ類の緑で覆われ、色とりどりの小鳥たちの楽園でもあった。また、島の周囲は珊瑚礁で囲まれ、色とりどりの魚が泳いでいた。
その海の上に突き出したようにつくられたコテージのバルコニーで、二人は互いの愛を確かめあっていた。
ラハブはサラを優しく抱き寄せると、そっとほほにキスをした。唇はそのままうなじを這い肩へと移っていく。
サラの体を覆っていた上品なシルクのドレスがはだけていく。
「ラハブ...、恥ずかしいわ。あまり見ないで...」
「どうしたんだい、急に」
「あなたは今だに若々しいのに、私はもうおばあさんみたいだわ」
「サラ、君は十分に美しいよ」
「でも...」
「人間の輝きは、外見ではないさ。君は本当に美しい。愛しているよ」
「私もよ」
「それに、年齢から言えば、僕のほうが100歳も年上だ。僕からすれば君はどう見ても娘にしか見えないよ」
「バカ」

二人は愛し合った。まるで最後の時を惜しむかのように、時間を忘れ、熱く、深く、慈しむように...

「ラハブ、愛しているわ、ずっとずっと...、永遠に...」


      ◆


「君たちが留守の間に、僕が何をしていたか想像がつくかい?」
研究室に入ると、ザヒがニコニコしながら話しかけて来た。
「どうしたんだ?」
「転送装置について、何かヒントになるものがないかどうか、ヒビルの古いデータベースを調べていたんだ」
「その様子じゃ、何か見つけたのね」
「ピンポン!」
「ほう」
「俺だって、やるときゃやるぜ。ま、これを見てくれ」

ザヒはシリコンでできた記憶チップを情報端末に差し込んだ。
データが研究室の壁面に投影される。
「これは?」
「アトランティス時代の"浮き船"の資料だ」
「アトランティスの浮き船?」
「そう。驚いたね、こいつはヒビルの浮き船よりずっと進んでいるんだ。たぶんシリウスの技術が使われているからだと思うんだけどね」
「これが転送装置とどう関係するの?」
「驚くなよ、こいつは瞬間移動ができるんだ。どんな遠くの目的地にも一瞬で移動できる。しかも受信機なんか使わずにだ」
「.....」
「そいつはすごい」
「この資料によれば、瞬間移動には周波数変調を使うと書かれてある」
「周波数変調?」
「そうだ。僕らの考えたマイクロ波による転送方法とは全く違う」
「具体的にはどういうこと?」
「この資料によれば、物体の振動周波数を上げた後に、目的地の波動に調和させるらしい」
「らしいって...」
「アトランティスの資料はほとんど残っていないんだ。マカバフィールド実験の大事故でほとんど消失したみたいだからね」
「じゃあ、こいつを再現するのはむりなんじゃないか?」
「いや、そうでもないぜ。今まで僕らが積み上げて来た技術が応用できるんだ。要するに転送先の波動がわかればいいってことでしょ」

ザヒの話をじっと聞いていたサラの目が爛々と輝きだした。

「ほら、サラは気づいたみたいだぜ」
「ザヒ、お手柄よ! あなた天才だわ」
「それほどでも」
「何にせよ、ヒントが見つかったってことだ。"カー"に報告して、プロジェクトの修正を申請しないとな」
「ラハブ、頼んだわよ。ザヒ、目的地の波動検出についてもう少し調べてもらえる?」
「ラジャ!」

ザヒの発見により、プロジェクトはその後大きく進展することとなる。
そして3人の運命の歯車も勢いを増して回りだした。


つづく