『アトピー発症機序理論9後編』ー続・赤ちゃん・子どもの治療と予防ー | ROSA ー自分で切り裂いた胸の傷跡さえ美麗になるまでー

    『山本ファミリア皮膚科 駒沢公園』の皮膚科医 山本綾子先生による

    解剖学ベースのアトピー発症機序理論、全11回を載せていきます虹







    前回同様、私の画像なし記事になってしまいますショック
    山本先生の想いを伝えきれずで心苦しい・・・ぐすん



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    これで全11回分は終わりです。読んでくださりありがとうございましたほっこり


    必要な方に届くように願っています虹



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    乳児湿疹がひどい+ハイハイ期間が短いと…

     3歳ごろになって湿疹がひどくなり、皮膚科を受診する子どもは多いのですが、そうしたケースでは親御さんが「実はうちの子は、生後3カ月ごろ、顔の湿疹がひどかった」と高い確率で話されます。成長とともに皮膚そのものが丈夫になったためか、顔の湿疹が良くなって安心していたら、3歳ごろにアトピーと診断されるほどの湿疹になってしまったと。こうした子どもの場合、1~2歳ごろは身体の乾燥が強くてもひどい湿疹が出ずにいたりします。

     また、3カ月ごろに乳児湿疹がひどかった子の特徴に、「ハイハイをする期間が短く、歩き出しが1歳前の生後10カ月や11カ月」というものがあります。

    3歳前後でアトピーと診断される子どもに多い特徴
    [1]生後3カ月前後で顔や首の湿疹がひどい(乳児湿疹がひどい)
    [2]ハイハイ(とくにずりバイではなくお尻を上げたハイハイ)の期間が短く、歩き出しが1歳未満
    [3]1~2歳ごろの皮膚の状態は軽症なケースも多い(ただし生まれたころから軽症になることがなく、皮膚の状態が悪いままのケースもある)


     しかも、生後3カ月ごろの顔や首の湿疹がひどかった子どもは、ハイハイの期間が短いだけでなく、お尻を上げて膝をつく、いわゆる四つん這いの一般的なハイハイの形ではなく、片足しか使わないハイハイだったり(片足はしっかり曲げているが、もう片方はまっすぐ伸びたまま使っていない)、お尻でズリズリ進むタイプだったり、背中でズリズリ進むタイプだったりと、皆さんがイメージするハイハイと違うことが多かったのです。

     これは一体何を意味するのでしょうか?

    見た目が似ていればどんな形でもいいというわけではない

     首を詰まらせるような姿勢を生後間もなくから続けてきたといえ、乳児湿疹が3カ月を過ぎたころに自然に治りやすくなるのは、「首がすわる」のがその頃であることが影響していると、私は考えています。「首がすわる」ということは、赤ちゃんに「首を反らせる筋力がついてきた」ということだからです。

     「首がすわる」「寝返りをする」「お座りをする」「歩く」などの赤ちゃんの成長は、実は「身体を保持するための筋力をこの世に生まれ落ちたときから鍛え続けて、ある特定の動きをする筋力がついてきた」ことを意味します。ただこうした動作は、当たり前のようでいて、実は簡単ではないのです。見た目が似ていればどんな形でもいいというわけではなく、しっかりとした筋力をつけるためには、「正しい形」である必要があります。

     ハイハイも、四つん這いに近い形で手足をついて前や後ろに進めばいいと思うかもしれませんが、片足を使わないハイハイと両足をしっかりと使ったハイハイでは、下肢の筋力のつき方がまったく違ってしまいます。

     次の写真を見てください。

    写真16

     右足と左足で立ち方がちょっと違いますが、さらによく見ると足首のシワが違います。左足のほうが少し、潰れたように見えます。この子は、左足だけ使わずにハイハイをしていたそうです。つまり、右下肢は膝を床についていましたが、左下肢はまっすぐ伸ばして、右下肢だけで前に進んでいました。筋力が弱い左下肢のほうが、しっかりまっすぐに立てないため、左足首に負担をかけているのです。

    正しいハイハイのために必要なこと

     生後3カ月ごろに顔や首の湿疹がひどかった赤ちゃんの多くは、普段から首を詰まらせるような姿勢にさせられていて、お腹をしっかりと伸ばすことがあまりできていなかったといえます。ところが正しいハイハイをするためには、まず、アシカのようにしっかりとお腹と下肢を床につけた状態で、背中を反らせる必要があります。

    写真17
    出典:ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons)
    [画像のクリックで拡大表示]

     この姿勢には背筋と腹筋、両方が必要なのですが、これができないとハイハイをしようとしても、足が床から浮き上がってしまい、お腹だけが床についたような状態となり、足で床をけり出したりすることができず、ハイハイになりません。

     また、ハイハイの期間が短く、1歳未満で歩き出した赤ちゃんの多くは腹筋が弱く、腰(あるいは背筋といってもいいかもしれません)を伸ばした座り方ができないことが非常に多いのです(写真10や11のような座り方が多い)。腰が伸びないと、お腹は常に潰されているため、腹筋は常にたるんでしまうことになり、いつまでも腹筋がつかず、悪循環を生みます。

     育児書などに「ハイハイにはいろんな型があり、自分のやりやすいようにするので個性と思って気にせずに」とか「ハイハイをしないまま歩き出す子もいます」……などと解説されていることも増えましたが、一般的ではないハイハイをする子どもの中には、必要な筋肉がないからというケースが多いと思います。

    子どもでも大人でも、アトピーは予防できるもの

     成長とともに良くなると言われる「生後3カ月頃の乳児湿疹」ですが、腹筋を鍛えるために必要な「ハイハイ」が足りず、将来のアトピー性皮膚炎の始まりになる恐れがあると考えると、正しいハイハイは重要ではないでしょうか? もちろん、四六時中考えなければならない問題ではありませんが、生後間もなくから姿勢を意識し、赤ちゃんが健やかに育つための軌道修正をしていくことは、薬で湿疹を治すこと以上に大切なのではないかと思います。

     こうした修正は生後、早ければ早いほど、わずかな努力で改善します。すでに歩き出した赤ちゃんよりも、まだ歩き出していない赤ちゃんのほうが圧倒的に治しやすく、将来のアトピー発症を防ぎやすくなります。なぜなら、多くの筋肉が未発達なので、難しいストレッチやトレーニングではなく、成長の発達を促すように、赤ちゃんとの遊びの中で工夫していけばいいからです。

     とはいえ1歳を過ぎてからでも、幼稚園に入ってからでも、あるいは「赤ちゃんのころからずっとアトピー」という大人の方でも、いずれにしても0歳児より、年齢の分だけ努力を要しますが、過去に鍛えずにきてしまった筋肉を使うように促せば、ステロイドの効きはグッと良くなり、湿疹は減らしていけます。

     もちろん、生後3カ月ごろに湿疹がひどくなり、「首が埋もれるように肩が上がっていないかどうか?」に注意していられれば、2~3歳ごろにひどい猫背になる危険性は激減し、子どものアトピーも予防できる可能性が高まります。何十年もアトピーで悩まされているという患者さんもなくしていけるかもしれません。

     重要なのは「なってしまったアトピーの撲滅」だけでなく、「将来のアトピー発症の芽」を摘むことではないかと私は考えています。


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