2018/07/04  41  乙川優三郎「逍遥の季節」新潮社  2009年9月20日発行 | 虚弱爺の俗物的日録

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「一身にして二生を経(ふ)る」の二生目を生きるにあたって、サンデー毎日の日常を記録したい。なるがままに。

2018/07/04  41  乙川優三郎「逍遥の季節」新潮社  2009年9月20日発行

「自撰短編集 市井篇 時雨の岡」に続いて乙川優三郎を読んでみたかった。前作同様、やはり時代小説短編集。

竹夫人
秋野
三冬三春
夏草雨
秋草風
細小群竹
逍遥の季節

いずれも底辺に生きる名もなき人たちの切ない物語。といえば好きな筋立てなのだが……。

前作でも僅かに感じていたことではあるが、上記の作品は時代小説の形をとった現代小説ではないかという気がする。というのは時代小説に特有な貧困や封建社会といった時代背景描写というものは、どちらかというと実は希薄でないか。男と女の遣り取りでは、江戸時代にはないような二人だけの葛藤ともいうべきかなり現代的で複雑な心理の往復が語られる。もちろん時代小説と雖も現代を投影するのは当然のことであるにしても、ストーリーの建て付けと複雑な心理描写との間の落差に少し違和感を持ってしまった。心理描写が複雑であるだけに分かりにくさがあるのもつっかえつっかえ読む仕儀となった次第。