病状が急変し、前日の夜に病院で息を引き取った…と、
F先輩からメールが入っていた。
お見舞いに行こうと思っていたのに…とショックを受けながらも、
ボーッとしている時間はなかった。
とっさに、喪服と黒い靴をスーツケースに詰め込んで、北九州空港に向かった

奈美ちゃんは会社員時代の一つ下の後輩。
山形の高校を出てすぐに、東京のリクルートに就職した。
大卒者が多い会社の中で、高卒の子はとても初々しく、
みんなからかわいがられる存在だ。
奈美ちゃんは、とても素直ながんばり屋さんだった。
前向きで嘘やごまかしがなく、誰もが本来持っている
"清く正しい心"を呼び覚ましてくれるような子だった。
営業庶務として、私達わがままな営業マンの尻を叩き、
目標達成を後押ししてくれた。
私が今まで出会った人の中で、「清純」という言葉が
一番似合う女性かもしれない。
健康優良児がそのままスクスクと大人になったような健やかさがあった。
盛岡に着いた翌日、お通夜と告別式の連絡があった。
すぐに新幹線とホテルを予約し、8月13日、子ども達を実家に預けて
東京に向かった。
ただひたすら、奈美ちゃんに会いたかった。
結婚後に会社を退職し、3人の子どもを出産した後、
仕事に復帰した奈美ちゃん。
リクルートで一緒に働いていたF先輩たちが経営する会社で、
ワーキングマザーとしてがんばっていた。
めまいなどの症状が出はじめたのが6月。
不調が続いたためMRIの検査を受け、脳腫瘍が見つかった。
神経膠芽腫(こうがしゅ)という最も悪性度が高い腫瘍だった。
7月13日に手術を受けて以来、一度も意識が戻らず、8月9日に逝去。
奈美ちゃんのブログの最新ページには、手術当日「頑張ってくるぜ」
と書かれている。
享年38歳。
ご主人、小学6年、4年、2年の子ども達、親しい方達に囲まれ、
苦しむことなく、静かに逝ったそうだ。
お通夜と告別式のとき、ご主人が今までの経緯と心情を詳しく語ってくれた。
ひと言ひと言丁寧に、ご自分の言葉でしっかりと伝えたい想いを
表現していた。
誠実なお人柄がにじみでるスピーチだった。
「意識が戻らなかったことは、奈美にとってはよかったのかもしれません」
「この1カ月、みなさんの温かさを感じました。本当にありがとうございました」
「奈美は幸せでした。たくさんの方にお見舞いに来ていただき、
おそらく会いたかった人たちほとんどと会えたのではないかと思います」
「辛いこと、楽しいこと、生きていればいろんなことがありますが、
子ども達には、“生きていく”ということを、しっかり伝えていきたいと思います」
(注:私の記憶なので、正確なご主人の言葉ではないかもしれません)
式の間中、奈美ちゃんが好きだった「桜坂」の歌が流れ、
生前の姿がビデオで映し出されていた。
亡くなったことを嘆くよりも、奈美ちゃんと参列者が喜ぶことを考え、
今と向き合おうとしている家族の姿があった。
お通夜のご焼香は長蛇の列だった。
300人くらいはいただろうか。
祭壇に近づき、奈美ちゃんのビデオと小学生の子ども達をはっきり見た瞬間、
一気に感情が込み上げてきて、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになるほど泣いた

女性も、男性も、ほとんどの人が泣いていた。
家庭で、地域社会で、職場で、あらゆる場所で…、
やっぱりたくさんの人から彼女は愛され続けたんだ。
「さすがは、奈美ちゃん!」と誇らしく思った。
東京に向かう新幹線の中で「今日は、心をみつめる日。」を読んだ。
著者は心理カウンセラーの衛藤信之先生。
「幸福とは、いまを深く生きること」
「毎日が忙しい、慌ただしい方におススメの本」
というフレーズに惹かれ、夏休みに読むつもりで買っておいた本だ。
思いがけず「死」についても触れている内容で、忘れられない一冊となった。
生きている人はさいわいにも、死んだ人があれほど生きたかった日々を
いま生きています。
そうであれば、その一日一日を笑い、楽しみ、感動し、充実させなくては
死んでいった人に申し訳が立たないと思えるのです。
楽しまないとあの世で再会するときに、合わせる顔がないのです。
死を生に生かす…それは前の世代のいのちを見送った者の、
また、次の世代にいのちを見送られる物の大きな役割なのです。
今回、東京で再会したかつての仕事仲間は20人ほど。
メールやFBを通して間接的に繋がった人も合わせると、
100人くらいとご縁が復活したのではないかと思う。
あちこち調べて連絡を回してくれたF先輩のおかげだ。
10年以上会っていないのに、誰と話しても全然違和感はなかった。
リクルートでがんばり続けている同期、起業して会社を営んでいる後輩、
4人の子どもを育てながら司法試験にチャレンジしている先輩など、
みんなそれぞれの場所で自分の人生を歩んでいる。
今の満足度や幸せ感は十人十色ではあったけれど、
私は再会した人全員に対して敬意を感じ、プラスの刺激を受けた。
このご縁は、奈美ちゃんからのプレゼントだと思って大切にしていきたい。
そして、「生かされている」という万物への感謝の気持ちを忘れず、
自分の役割を果たしていきたい。
「あの日を機に、さらに一日一日を大切に過ごせるようになったんだよ。
ありがとう」
というセリフを、奈美ちゃんと再会するときには笑って言いたいから
