インディゴブルー<2>
「わたしが最近思いついたこと、言ってもいい?」
「いいよ。」
「夢の中でもみんなが繋がっていたら素敵だと思わない?」
「どういうこと?」
「寝たら夢を見るでしょ?夢についてみんなあんまり話さないけど。」
「うん。」
「その夢、みんなばらばらに見ているって思っているけど違うの。」
「それはみんなが一つの夢を共有しているってこと?」
「そう。あなたが誰かに追いかけられたあの恐い夢も、わたしがカモメに飛び方を教わって空を飛んだあの夢も一緒の夢の中で起きていたのよ。」
「じゃ、僕が泣きそうになって逃げていたあの道の上を、カスミはカモメと一緒に飛んでいたかもしれないのかい?」
「うん。」
「いいね、それ。素敵だ。それに、もしかしたら夢の中で逢えるかもしれないってことだろ?」
「そう。話しそびれたことは眠っている間に夢の中で話すのよ。なんか素敵だと思わない?」
「うん、素敵だ。」
カスミと僕が仲良くなるのにそれほど時間はいらなかった。僕らは月並みな表現をすれば似たもの同士で、話すことは尽きないほどあった。それはどちらかがお喋りだったわけではもちろんなくて、二人の世界がすごく近いものだったからだ。とりとめのない話をたくさんと、好きな本の話、音楽の話、映画の話、死について生について、それから僕らは時々世界の終わりについて話をした。
世界が終わる日の過ごし方とか、どんな風に世界が終わるかとか、それはいつかとか。下らないことではしゃいだりふざけあったりして、どちらからともなくさよならを言うような、そんな日々が過ぎていった。
カスミと出会ってからの僕の生活は劇的にではないけれど、決して少しという言葉では表現できないくらいに変化した。毎日はカスミの手によって知らなかった色が与えられた。僕にとってカスミの存在はなくてはならない存在になっていたし、カスミにとっての僕もそうであるはずだと、僕はそんなことも考えた。
カスミは時々突拍子もないことを言う。彼女とよく話すようになってから少しずつ慣れていった僕だけど、時にまだ驚かされることがよくある。それはキャンパスが太陽の白い光を反射してきらきらと光る素敵な冬の昼前だった。
「海が見たい。」
まるで子供だと思った。そしてそのいきなり言い出す突拍子もない言葉に対して、いつも何かをしてあげたいと思っている僕がいるのも紛れもなく確かだった。
大学の正門へと続く道を二人で歩く。その日は僕の授業が早めに終わったため、いつもより早くにその時間に授業をとっていないカスミと落ち合うことができた。僕らは図書館の脇に寄り添うようにして立つブナの木を待ち合わせ場所にしていた。いつものように他愛もない話を少しだけして、バイトがある僕に付き合って途中の駅まで一緒に帰るはずだったのに。
「海が見たい。」
僕がなんと答えていいかわからずに困っていると、カスミが前と少しも違わない、本当に行きたいのかと疑ってしまうような努力のないリピートをした。僕はなんだか少しいじわるがしたくなって、いらない沈黙を置いてみる。
道の両脇には綺麗に刈り込まれた植え込みが等間隔で並んでいた。この道はゆるやかなカーブを描いて正門へと続いている。空は生まれたことを少しも不幸だなんて思っちゃいない赤ん坊のようにキラキラ眩しい。本当のところ、僕は今すぐ何もかもを捨ててカスミと海に行くのも素敵だと思った。
「カスミは僕が大学を出て真っ直ぐバイト先に行かなくてはならないって知っているよね。」
仕方がない。どうしようもないことなんて両手を塞いでさらにポケットからもはみ出してしまうくらいこの世界には溢れている。僕はあんまり悲しい顔をしないで欲しいなと願いながら横顔を見る。
「そうだね。きみの言うとおりだね。」
世界中の雨が全部自分に降り注いでいるような顔をしてカスミが答えた。
僕はもう少しだけこのままがいいなと思って、バイトの時間を1時間ばかりでも遅くしなかった自分を適当な言葉で呪った。
「次の晴れた日曜日に海へ行こう。」
少し歩調を早めて前を歩いたカスミの顔はちゃんと見えなかったけど、その横顔は少し笑っているように見えた。