【論点】ローマ帝国とキリスト教（東大2024年第2問⑴⒜・東大 2013年第2問⑴⒜・⒝）

論点・テーマのポイント

キリスト教は，ローマ帝国の支配下で生まれ，ローマ帝国の迫害を受けながら広まり，そしてローマ帝国の保護を受けて発展していった。

このように，キリスト教の成立や発展とローマ帝国とは密接に結びついている。

世界史の論点としては，「ローマ帝国の皇帝を中心とする政治権力がキリスト教に対してどのような姿勢・政策をとったのか」という点が重要で，それと関連して，皇帝の名前，政策の推移・変化，政策の背景・理由などもおさえておきたい。

＜ローマ帝国とキリスト教年表＞

キリスト教の誕生の地となるパレスティナは，共和政末期の前1世紀にローマの支配下に入って属州とされた。

そして，ローマ帝国初期の紀元前後，このローマ支配下のパレスティナにおいてイエスは誕生した。

1世紀前半，イエスはユダヤ教の形式主義などを批判して新たな教えを説いたが，ユダヤ教の祭司らの反発を受け，彼らの訴えを受けた属州の総督ピラト（ピラトゥス）によってイェルサレムで処刑された。

しかし，この後，弟子たちの間で，イエスが復活し，イエスが処刑されたのは人間の罪をあがなうためであるという信仰が生まれ，この信仰を基礎としてキリスト教が形成されることになった。

ローマは伝統的に多神教の信仰をもっていたが，基本的には個人の信仰には寛容で，国家や皇帝に反抗しない限りはあまり干渉しなかった。

このこともあって，2世紀頃までの時期には，帝国によるキリスト教徒への全国的な迫害はなかった。

しかし，奇異な集団であるとの偏見や皇帝崇拝に従わないことなどから，散発的・地域的な迫害が起こることはあった。

1世紀半ばのネロ帝は，64年にローマで起こった大火事の罪を着せてキリスト教徒を処刑するなどキリスト教徒を迫害したことで知られている。ただし，この迫害は，キリスト教の信仰を理由にしたものではなかった。

また，1世紀末の皇帝ドミティアヌスも，自身の神格化をはかって皇帝崇拝を強要し，その過程でキリスト教徒を迫害したと伝えられている。

ローマが軍人皇帝の時代に入った3世紀半ば以降には，皇帝崇拝が強化されるなかで，唯一神信仰のために皇帝崇拝に従おうとしないキリスト教徒に対する迫害は激化し，全国的な迫害が行われるようになった。

まず，3世紀半ば，軍人皇帝のデキウス帝やウァレリアヌス帝は，皇帝崇拝の拒否を理由として，キリスト教徒に対して財産没収や処刑などの大規模な迫害を行った。

そして，4世紀初めには，専制君主政を開始したディオクレティアヌス帝が「大迫害」と呼ばれる徹底したキリスト教の迫害を実施し，教会の破壊・書物の焼却・聖職者の処刑などを行った。

ところが，4世紀には，帝国内におけるキリスト教徒の拡大も背景にローマ帝国の方針は転換し，キリスト教は認められ保護を受けるようになった。

ディオクレティアヌス帝の後に起こった内戦を戦っていたコンスタンティヌス帝は，313年にミラノ勅令を発してキリスト教の信仰を公認した。

こうして国家の公認を受けたキリスト教は，政治権力と結びついて帝国内で発展していくことになった。

なお，4世紀半ばのユリアヌス帝は，伝統的な多神教の信仰の復興をはかり，キリスト教に対する優遇を廃止するなどキリスト教に批判的な立場をとった（そのため，キリスト教徒からは「背教者」と呼ばれる）。

しかし，まもなくササン朝との戦いで死亡したため，その政策は長くは続かなかった。

そして，4世紀末のテオドシウス帝は，380年にキリスト教を信仰することを命じる勅令を発した後，392年には全ての異教を禁止し，これによってキリスト教はローマの国教となった。

こうして，ローマ帝国の属州で生まれ，ローマ帝国の迫害を受けてきたキリスト教は，ついにはローマ帝国の国教にまでなった。