東大世界史1986年第3問⑵ 問題・解答・解説[古代・ギリシア・ローマ/論述] | 大学受験の世界史のフォーラム ― 東大・一橋・外語大・早慶など大学入試の世界史のために ―

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東大世界史過去問・論述 表紙

東大世界史の1986年第3問⑵の問題解答解説です。

今回も古代ギリシア・ローマの論述問題で,前回の問題と関連しています。


- 情報・注意 -

東大世界史・体系別過去問についての説明は「東大世界史・体系別過去問について」,論述問題の一覧は「東大世界史・体系別過去問 論述問題 リスト」をご覧ください。


解答が先に目に入らないよう,問題と解答の間に空白を大きくとってあります。自分で解いた後に解答と解説を確認してください。


問題

古代ギリシアでは自由な市民たちから成る都市国家の文明が生まれたが,共和政ローマでも同様の文明が築かれた。

しかし,ローマでは,共和政末期まで貴族による事実上の政治支配がつづき,ギリシアと比べると民主政は不徹底のままに終わった。このような事実を端的に表わすローマの国政運営上の特徴を一つ選び,1行(30字)以内で述べよ。












解答

東大世界史過去問解説 東大世界史1986年第3問⑵

解答例

解答例1

「⑵貴族によって構成される元老院が国政の指導権を維持し続けた。」

解答例2

「⑵貴族と富裕な平民により形成されたノビレスが政権を独占した。」

解答のポイント


共和政ローマにおける,「民主政が徹底せず貴族の事実上の支配が続いた」ことを示す,「国政運営上の」特徴を示すことが求められている。


共和政ローマの国政運営における,民主主義の不徹底さ,貴族の事実上の優位を示すものとしては,元老院の存在ノビレスの形成などが挙げられる。

元老院を取り上げることが,解答として最も適しているのではないかと思う。この場合,元老院が基本的に貴族によって構成されること,その元老院が国政を指導したこと,という両方を指摘することで,貴族が国政を支配していることを示すことができる。

ノビレス(新貴族)について述べることも可能だと思うが,その場合は,ノビレスが形成されたことだけでなく,彼らが政権・公職を独占したことも言っておく必要がある。


なお,「民主政が徹底していない」ということを示す例としては,ディクタトル(独裁官)が存在することも該当するといえるが,しかし「貴族による事実上の支配」とのつながりはわかりにくい(貴族の優位を示すのならば,さらにディクタトルの地位を貴族が掌握していることなども付け加えないと説明にならない)。このことから,今回の問題ではディクタトルは解答で使用しにくいのではないかと思う。

解説

ギリシアの民主政とローマの共和政


ギリシアのポリスと共和政期のローマは,国政や国防に参加する市民たちによって構成される市民共同体であるという点で共通しており,貴族と平民の対立を通じて平民の地位の向上が進められた点など,両者には似た部分が多い。


しかし,アテネに代表されるギリシアでは徹底的な民主政が実現したのと異なり,ローマでは身分闘争を経て法的な平等は達成されたものの,事実上は貴族による支配がつづいた。

アテネと共和政ローマの政治体制の比較

<アテネと共和政ローマの政治体制の比較>

ローマの国政運営上の特徴

ローマの国政における貴族の支配を示す事例としては,まず元老院の存在を挙げることができる。元老院は基本的に貴族によって構成されており,公職者に対する助言を行い,国政において実質的な指導権を持ち続けた。


共和政ローマの政治体制

<共和政ローマの政治体制>


また,ノビレス(新貴族)という階層の形成からも貴族の支配を見ることができる。身分闘争によって平民にも高位の公職が開かれるようになると,高位の公職を経験した一部のプレブス(平民)は伝統的な貴族であるパトリキとともにノビレス(新貴族)と呼ばれる新たな貴族層を形成し,このノビレスが公職と政権を掌握して国政を事実上支配する結果になった。

<ローマの身分の展開>