世界史の新課程の用語集では中国の地方名である「華北・華中・華南・東北」が新たに用語として掲載されましたが,このような地方や省の名称と位置を把握しておくことは中国史を理解するために必要です。
そこで,今回は中国の地方と行政区画を,特に地方の名称に焦点を当てて紹介します。
残念ながら教科書にも資料集にも中国の地方と行政区画をつかむためのよい地図の素材がないため,今回自分でマップを描いて区画と色分けをしたので,その地図も使いながら説明しようと思います。
今回は主に地方名を重視して説明しますが,近いうちに今度は省・自治区・直轄市にフォーカスして,覚えるべき中国の行政区分を紹介しようと思います。
地方区分について
中国は広大なこともあって,省などの行政区画よりもさらに大きな空間的枠組みとして地方を把握することが有効なのですが,区分の仕方にはさまざまなものがあります。
しかし,歴史の学習のうえでは,華北・華中・華南・東北・西北・西南の6つの地方に分けることが特に有益と思われるので,高校生や受験生はこの6分法で理解しておくことをおすすめします。
下の地図にその6つの地方を表しました。
(なお,領土の帰属をめぐって他国との間で係争中であるなど,領有が確定していない地域は地図から除外しています。)
ちなみに,これらの各地方の枠組みは,歴史的・慣用的に形成されてきたものなので,それぞれの地域がどこからどこまでであるというような絶対的な定義や境界はなく,時代によって,あるいは書き手によって,その意味するところは多少異なることがあります。
そのことを踏まえつつ,大まかな位置を把握するために地方の概念を使うのがよいでしょう。
以下,地方ごとに少し説明をします。
華北・華中・華南
華北・華中・華南の地域は,早くから漢民族が支配や抗争を行って「中華」と呼ばれてきた地域で,その名前の通り,中国の歴史において中心的な地域になった。
華北
華北は,主に黄河の中・下流域を指し,一般的には現在の山東省・山西省・河北省・河南省などの地が該当する。なお,河南省の西の陝西省はふつう華北には含めないようだが,古代史や中世史を学ぶ際には陝西省もこの地方に含めて考えるとよい。
この地方は黄河文明が生まれた地であり,古代から中国史の中心になり,そのためこの辺りの地域は中原とも呼ばれ,中国の政治の中心になった。
華中
華中は,主に長江の中・下流域の地で,江南と呼ばれる地域ともかなりの部分重なっている。
ここは長江文明の発祥の地であり,黄河文明と並んで中国の文明の主な源流となった。
古代には,華北と比べると政治的に重要な役割を果たさなかったが,中世以降に農業や商工業が発展すると中国経済の中心になり,それも背景に政治的重要性も高めていった。
華南
華南は,中国の南東の沿岸部を指し,現在の広東省・福建省などの地を指す。
広州や泉州のように海港都市が発達して海外との貿易の拠点となったことで有名で,東アジア・東南アジア・インド・西アジア,さらにはヨーロッパとの貿易・交流の窓口になった。
東北・西北・西南
残る東北・西北・西南の3つの地方は,中国史の中心からはやや離れた周縁的な地域であり,漢民族以外の民族が多く,古い時代には中国の領土にも入っていなかったが,後の時代になるとその支配下に入り,また歴史的な重要性を増していった。
東北
東北地方は,その名の通り,中国の東北部を指し,現在の黒竜江省・吉林省・遼寧省の地域を指す。かつては満洲とも呼ばれた。
この地域は,金や清を建国した女真人(後の満洲人)の故郷として知られる。
清の時代には,ロシア帝国と領土をめぐる対立が起こり,ネルチンスク条約などの国境に関する条約が締結されたことも有名である。
そして,もちろん,満州事変を契機に日本が進出して満州国を建国した地でもある。
西北
西北地方は,中国の西北の内陸に位置する広大な領域で,現在の甘粛省・青海省・内モンゴル自治区・新疆ウイグル自治区などがあり,チベット人・ウイグル人など漢民族以外の民族の人口が比較的多い。
古い時代にはこれらの地域は中国から西域と呼ばれ,オアシスの道(シルクロード)の主要なルートとなり,しばしば中国王朝や遊牧民の争奪の対象にもなった。
そして,清の時代にはその領有下に入り,清が滅亡して中華民国が成立すると,外モンゴルだけは独立したが,内モンゴルや新疆ウイグル自治区は独立が認められず,現在も自治区となっている。
西南
西南地方は,中国西南部の四川省・雲南省・チベット自治区などの地域で,東南アジアやインドに隣接している。
この地域も,チベット系・東南アジア系などの非漢民族の民族が多い。
チベットは清の時代にその支配下に入り,外モンゴルと同じく清の滅亡後に独立運動が起こったが,中華人民共和国の成立後に支配下に入れられて自治区とされた。