自分の想いを伝える力を育てる支援 | Wonder Forest ブログ

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子どもと家族の支援への想いとノウハウが詰まったブログです。

トータスキッズ指導員の板倉です。

今日は、週1で来所してくれている、5年生のGくんのお話を。

 

Gくんも、自分の思いを伝えるということに取り組んでいる一人です。

 

まず、今日やったことを「◯◯した」と自分で言えるようにしました。そこができるようになると、言葉で表現できないことも、絵やジェスチャーで伝えようとする意欲が湧くようになりました。その頃から、他の課題の取り組み姿勢も良くなり、「めんどくさい」や「もう、それでいい」と言わずに、少し難しい課題も、説明を聞きながらしっかり取り組めるようになりました。

 

次に、頑張った、嬉しかった、残念だった、楽しみ、などの気持ちを伴う出来事も話してもらうよう取り組みました。自分で言葉が出てこない時は、やったことの中から「これ、頑張ったんじゃない?」とか、「これは、面白かったことかな?」など、一緒に見つけるようにしています。

 

作文にもチャレンジしようと思ったのですが、作文に抵抗感があるため、まずGくんに4コマ漫画を書いてもらい、それを私が文章にすることから始めました。慣れてくると「絵本風にしたい」とGくんから発案がありました。自分の話も、絵本の中の『おいら』のことにすると、恥ずかしさが消えるのか、文がスムーズに出てきます。絵本風の文体を私が作文にしていくうちに、作文への苦手意識も下がっていきました。今では『はじめ』の文章は一人で書け、『おわり』の文章も自分で考えられるようになり、文の修正や言いたいことの『中』の文章を膨らませる支援をしています。

 

ある日の作文の題名は、運動会の練習の『ソーラン節』。Gくんは「それは鬼畜だ!」と書きました。「深く屈伸したままの動きが多くて、ハードだからってこと?」と聞いて、同意を得てそう続けてもらいました。

 

そのまま「早く運動会が終わって欲しい」というおわりの文にいくのかと思いきや、「でもね、6年生が教えてくれたんだよ。それも難しいところだけじゃなく、自分で気づいていない、できてないところも指摘してくれたんだよ」 と、とても嬉しそうに言ってきたのです。

 

どうやらそれが、Gくんがこの作文で一番書きたかったことのようで、すぐにそのまま書いてもらいました。Gくんが、好きなキャラクターではなく、実在する人物のことで、こんなに熱く話してくれるのは初めてのことでした。私は感動しつつも、省エネ派のGくんが、難しいところ以外もなおすよう指摘されたのに、「めんどくさい」ではなく「嬉しい」と感じたことを、不思議に思いました。

 

そこでGくんに「嬉しかったんだね。それでどう思った?」と、深掘りすることにしました。するとGくんは「嬉しかったから嬉しかったんだよ。それしかないよ」と、困惑していました。

 

そこで「6年生が優しく教えてくれたことが嬉しかったのかな?それならおわりの文は、『6年生ありがとう』とか、『来年ぼくも5年生に優しく教えてあげよう』とか?それとも、自分の気づいてないところも指摘してくれて、踊りが上手になったことが嬉しかった?だったら『おかげで踊りが上手になった』とか『もっと上手になるように練習頑張る』とかどう?」と聞いてみました。

 

するとGくんは「どれも、ちょっと違う」と言って考えこみました。

 

即答できない時のGくんは、頭を抱えたり顔をしかめたりして『絶賛考え中』の顔をしてみせます。でもその時のGくんは、じっと一点を見つめて静かに考えていました。当時の自分の気持ちを、じっと見つめているかのようでした。

 

しばらくしてGくんは、「うん、それでいい。『もっと練習頑張る』にする」と、穏やかながらきっぱりとした口調で言いました。表情も「もう、めんどくさいからそれでいい」にしたのではなく、よくよく考えた上の決断というような、とても清々しいものでした。

私は、Gくんが感じた思いを大事にしたくて、それ以上言葉をはさみませんでした。

 

Gくんの本当の思いを文章にすることはできませんでしたが、Gくんが6年生への思いを感じてくれ、それを作文に書きたいと思ってくれたこと、その自分の気持ちをじっくり見つめてくれたことは、とても嬉しい出来事でした。