今日の映画を初めて見たのは2000年代の前半と記憶しています。レンタルで見ましたが長らく映画館で見たいと思っていた作品で、今年の春ようやく念願が叶いました。エンディングはしばらく顔を上げることができませんでした

 

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ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア

1997年/ドイツ(98分)

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死期が迫った二人の男が、見たことがないという海を目指して走り出すアクション・ロードムービー!

 

 

 監督

トーマス・ヤーン

 脚本

トーマス・ヤーン

ティル・シュヴァイガー

 キャスト

ティル・シュヴァイガー/マーチン

ヤン・ヨーゼフ・リーファース/ルディ

モーリッツ・ブライブトロイ/アブドゥル

フープ・スターペル/フランキー

ルトガー・ハウアー/カーチス

 

主演は「トゥームレイダー2」「アトミック・ブロンド」のティル・シュヴァイガーで、脚本家や映画監督としても活躍しています。もうひとりの主演のヤン・ヨーゼフ・リーファースはドイツの俳優さんで残念ながら本作以外に見たことがありません。重要な役どころのギャングのボス役で出演したのがルドガー・ハウアー。「ブレードランナー」「ナイトホークス」でお馴染みですが、本人が脚本にほれ込みギャラを度外視して出演したという逸話もあります

 

▲ティル・シュヴァイガー/マーチン

▲ヤン・ヨーゼフ・リーファース/ルディ

▲ルトガー・ハウアー/カーチス

▲とぼけたギャングの二人組

死期の迫った2人の男、マーチン(ティル・シュヴァイガー)とルディ(ヤン・ヨーゼフ・リーファース)は、偶然病院で同室になる。死ぬ前に海を見ようと病院を抜け出した彼らは、駐車場のベンツを盗んで人生最後の旅に出る。しかしその車はギャングのもので、中には大金が積まれていた。余命わずかで怖いものなしの彼らは道中で犯罪を繰り返し、ギャングだけでなく警察からも追われる身となってしまうのだが・・・

題名「knockin' On Heaven's door」は「天国の扉」の意味ですが、内容はかなりぶっ飛んだコミカルな映画です

 

▲主人公のマーチンとルディ

  記憶と記録に残る90年代の名作!

 

ボブ・ディランの名曲「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」をタイトルにしたこの作品は1997年の公開当時、ポスト・ニュージャーマン・シネマの決定版と絶賛され、ドイツ本国の記録的な大ヒットだけでなく、日本国内でも単館系劇場興収の記録を叩き出した作品です!

 

オープニングは、誰かが床を掃除していて徐々にカメラが上がり、数人のナイスバディの女性たちが舞台で踊っているところから始まります

「ストップ、ストップ!ここはお嬢さん学校じゃねえんだぞ、おメエらもっとセクシーに踊れねえのかっ!」

店のオーナーらしい男が大声を上げる。ちょっと怪しげな場末のクラブ。そのときかかっていた曲がグロリア・ゲイナーの「I Will Survive」(恋のサバイバル)。この曲はいろんな映画にも使われていて、以前レビューした「プリシラ」でも重要なシーンで使われていました。その他にも、キアヌ・リーブスの「リプレイスメント」「おとなの事情」のリメイク「完璧な他人」の中ではスマホの着信音でも使われています。劇中では、この曲以外でも随所に流れる曲がイカしていて、コミカルな映画なのにオシャレで一本筋を通したような力強さがあります。そして、なんといっても本作のタイトルにもなっているボブ・ディランの名曲「Knockin' on Heaven's Door」にしびれます

 

 

▲正反対の性格ながら意気投合する2人!

  天国ではみんな海の話しをするんだ

 

日本でも「ヘブンズ・ドア」(09年)の題名でリメイクされた本作は、死期が近い2人の男が織り成すロードムービーでありバディムービーでもあります

 

ワイルドで強面のマーティン(ティル・シュヴァイガー)と真面目で内向的なルディ(ヤン・ヨーゼフ・リーファース)。そんな正反対の二人が病院で同室になり、死期を告げられて海を目指すきっかけになるシーンが物語のはじめの方に描かれています。病室で偶然見つけたテキーラを飲もうと二人は厨房に忍び込み、塩とレモンを探し出してテキーラをラッパ飲み。傍らには袋に入った大量の塩と床一杯に転がったレモン。暗がりの中に黄色く浮かび上がるレモンが希望の光のように見えます

「俺は海を見たことがないんだ」

「一度もか・・信じられないな」

「・・・」

「天国の流行りを知ってるか?海だよ!天使が雲に腰かけて、海の美しさを語り合うことなんだ」

「海に沈む夕陽がどんなにきれいだとか、太陽が沈むにつれて海が力強さを増していくとか、そんな海の話しをするんだ」

「でも、俺は海なんか見たことないよ」

「だったらお前は海を知らねえからみんなから仲間外れにされちまうな・・」

「これから抜け出して見にいこうぜ」

ドイツには海がなくてフランスを越えないと海にたどり着けません。性格も風貌も正反対のマーティンとルディが、同じ境遇になった途端、親友のように心を通じ合わせ、この瞬間からノンストップの物語が走りだします

 

 

 

  異端のロードムービー!

 

ロードムービーは旅の途中で起こるさまざまな出来事を描いた映画のことで多くの名作、秀作があります。過去レビューしたものでも「スケアクロウ」「ハリーとトント」「プリシラ」「ペーパー・ムーン」などがあり、さらに「イージーライダー」「テルマ&ルイーズ」「グリーンブック」など挙げていったらキリがありません。そんな秀作の多いロードムービーの中で異彩を放っているのがこの映画です。もちろん、旅先での出来事や友情も描かれていますが全編ボケとツッコミのとぼけたギャグのコメディ映画です

 

初めて見た時の印象が「パルプフィクション」に似てると思ったら、かなりタランティーノ監督に影響を受けているようです。物語の出だしは「最高の人生の見つけ方」に近いですが、もっとくだけて笑いに満ちていて、「トゥルー・ロマンス」のような雰囲気に近いですが、バイオレンス色も強くありません。むしろ印象としては「テルマ&ルイーズ」に近いと思います

 

この映画の主役は、ちょっと強面でいつもタバコをふかしているマーチン(ティル・シュヴァイガー)と真面目な青年ルディ(ヤン・ヨーゼフ・リーファース)で、2人のコミカルなやりとりが面白い。はじめは型破りの行動をするマーチンに引きずられていたルディも、だんだんと大胆不敵になっていきます。そして、大金と車を盗まれたドジな2人のギャング、それを追う警察の上司と部下の2人。まさにボケとツッコミの漫才を見ているような楽しさがあります。その3組を追って物語が進むのですが、その微妙なバカバカしさ加減が日本やアメリカ映画にない新鮮味があります。個人的にはドジな2人のギャングがツボでした。冒頭のピノキオとターミネーターのくだらないギャグから、たぶん一筋縄ではいかないだろう映画になると予感しました。マーティンとルディが車で追われ、前にギャングの軍団、後ろに何十台ものパトカーに挟まれての銃撃戦。そこからトウモロコシ畑に逃げこむシーンは笑えます。随所に楽しいセリフ、シーンがちりばめられた映画でした。余談ですがドイツのパトカーというのがグリーンと白のツートンだというのを初めて知りました

 

 

 

 

 

  終始笑えるドタバタ劇!

 

もちろん主役の2人も最高なのですが、とにかく登場人物のキャラが面白い。間抜けな警察とドジなギャングの主要人物だけでなく、ガソリンスタンドの店主、強盗の被害にあう銀行員、ギャングがはねた少年、看護婦たち、追っ手の警察官、クラブのママなどなど書き出したらキリがありません。それぞれイカしていてそれぞれ馬鹿っぽい。それでもどこかドイツっぽくて真面目な作りです。破天荒なギャグ満載の逃避行なのですが、どこかでマーチンとルディの2人を応援しているようなさわやかさが垣間見えます。これだけのごちゃごちゃした展開をわずか98分にまとめあげた脚本がすばらしいですね

 

一生懸命になればなるほど噛み合わない警察の上司と部下。つまらないジョークを飛ばす男とそれをこれっぽっちも理解しないギャングの2人組。相変わらず怖いもの知らずのマーチンとルディ。彼らがギャングに捕まった時のセリフが笑えます

「金を今すぐ返しな!そうしたら命だけは助けてやる!」

シリアスな状況を描いているにも関わらず、こうした気の利いたセリフと軽快な音楽のせいでなんとも心地よい
 

 

  悪人がひとりもいない映画!

 

道中に出会う登場人物が,みんな味のあるいい奴ばかりで,
それぞれ少しづつボケています。いくつもの犯罪を重ねておいて”悪人”がいないというのも変な話しですが、全体としてはどこか温くて牧歌的。かっぱらいはするけどなぜかみんな協力的。銃を何度もぶっ放すけど人は死なず殺伐としない。エロティックなシーンはあるけど下品にならない、ほとんどがギャグで構成されていると言ってもいいのですが、効果的な音楽とテンポある展開で不思議な面白さがある映画です

 

2人を追うギャングも警察も最後に出て来る大ボスも二人を逃がしてくれます。この大ボスを演じていたのがルトガー・ハウアーで、冒頭のマーチンと同じようなセリフで2人を海に急がせます

「時間がないんだろ。早くいけ」
「天国では誰も話す、海のこと、夕陽のこと。あのバカでかい火の玉になった太陽を眺めてるだけで素晴らしい。それが海と溶け合うんだ、ロウソクの光のように一つだけが残る。心の中にな」

バカ騒ぎで楽しい映画なのですがどこか冷めています。それは、いつかどこかで彼らも燃え尽きてしまうことがわかっているからでしょうね

 

 

  たどり着いた二人が見たものは?

 

ドタバタでエキセントリックな逃避行の果てに二人がたどり着いた海は、荒々しく雄大で大きな白い波を上げて二人を包み込みます。それは最初に話していたような静かな夕陽の海ではなかったことで、今までのファンタジーの世界から現実へと戻されます。不意にマーティンが言います

「ルディ、話があるんだ」
「分かってる。僕が言うよ。何も怖くないさ」

このドタバタでコミカルな物語の98分で言いたかったのはこのラストの瞬間であったと思います。言葉もなく荒れた海を見つめなあらテキーラを回し飲みする二人。静かにマーティンが倒れ、二人の旅い終わりを告げます。海をバックに二人の男のシルエットに被せて、これ以上はないというタイミングで「Knocki'n on heaven's door」が流れます。途中ではあんなに笑ったのにエンディングはこぼれる涙でよく見えませんでした・・

 

コミカルで切なくて、それでいて不思議な爽快感に満たされる、ある意味ファンタジーでした

 

おススメの一本です、是非どうぞ!