今日の映画を初めて観たのは、バブルがはじけてしばらく経ったころですから94~5年でしょうか。当時勤めていた横浜西口のカジュアルショップにいた頃です。いまでも西口界隈は賑やかですが、当時はもっとすざましく西口から東急ハンズ(当時はあった)までの道は若者で毎日ごった返しておりました。ビブレを中心としたファッションビルがある反面、ゲーセンやパチンコ屋、飲食店がひしめいていてどこか雑多で活気ある街でした。そんな雑居ビルの5階にあった狭いビデオレンタルショップが行きつけで、そこの店長が驚くほど映画に詳しく、たまに会社帰りに立ち寄って映画の話しをしてました。今日の映画は、その店長がススメてくれたのが最初で面白かったですね。あまり期待していなかった分、得した気分でした

 

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ヒーロー/靴をなくした天使

1992年/アメリカ(117分)

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ダスティン・ホフマン主演で、真のヒーローとは何かというテーマを描くヒューマンコメディ!

 

 

 監督

スティーヴン・フリアーズ

 キャスト

ダスティン・ホフマン/バーニー

ジーナ・デイヴィス/ゲイル

アンディ・ガルシア/ジョン・ババ

ジョーン・キューザック/エヴェリン(バーニーの妻)

ケヴィン・J・オコナー/チャッキー

モーリー・チェイキン/ウィンストン

スティーヴン・トボロウスキー

トム・アーノルド/チック

 

監督は「危険な関係」「ハイロー・カントリー」などのスティーヴン・フリアーズ。主演は「卒業」「真夜中のカーボーイ」「パピヨン」「レインマン」「わらの犬」「クレイマー、クレイマー」などアカデミー賞主演男優賞を2度受賞しているダスティン・ホフマン。共演には「アンタッチャブル」「ブラック・レイン」さらに「オーシャンズ」シリーズのアンディ・ガルシア。「ザ・フライ」「偶然の旅行者」「テルマ&ルイーズ」のジーナ・デイヴィス。ほかにも「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」のケヴィン・J・オコナーやジョーン・キューザック、トム・アーノルドなどが出演しています

 

 

 

▲ダスティン・ホフマン/バーニー

▲ジーナ・デイヴィス/ゲイル

▲アンディ・ガルシア/ジョン・ババー

コソ泥のバーニー(ダスティン・ホフマン)は、妻からも愛想を尽かされ、裁判で執行猶予を受け保護観察処分をうけていた。ある夜、彼はくすねた金で新品の靴を買い息子に会いに行く途中で飛行機事故に遭遇する。機内からは助けを呼ぶ声が聞こえ、雨の中イヤイヤながらも仕方なく機内から負傷者を救出する。ついでのように乗客の財布を失敬して姿を消すが、その時足元が悪いため靴を片方なくしてしまう。偶然その飛行機に乗り合わせていた敏腕レポーターのゲイル(ジーナ・デイヴィス)は、現場に残された”靴”を手がかりに、テレビで「54人の乗客を救い無言で立ち去た”謎のヒーロー”(104便の天使)」の公開捜査を開始する。そしてそれに名乗り出たのは、バーニーから飛行機事故の件を聞かされ片方だけの靴をもらった、男前のホームレスのババー(アンディ・ガルシア)だった・・・

公開当時ダスティン・ホフマンは円熟の55才、「ブラック・レイン」「ゴッドファーザーPARTⅢ」などアクション色の強いアンディ・ガルシアは36才で、異色の顔合わせでした

 

 

 

  絶妙なキャスティング!

 

この映画は、冴えない中年のコソ泥(ダスティン・ホフマン)とバリバリの敏腕女性リポーター(ジーナ・デイヴィス)とイケメンで心優しいホームレス(アンディ・ガルシア)の3人を中心に物語が展開していきます

 

何と言っても主要3人のキャスティングが絶妙です。ダスティン・ホフマンの上手さは今さら言うまでもないですが、もともとの器用さに加え、こういう少し情けない役は最高です。名優と言われるロバート・デ・ニーロだと少しキレ過ぎますし、ジャック・ニコルソンだと目力が強すぎます。ショーン・コネリーだと上品すぎるし、ブラッド・ピットだといい男過ぎる。ふつうこういう俳優さんは脇役のタイプなのですが常に主役にいるのがすごい。なんといっても「トッツィー」「レインマン」「真夜中のカーボーイ」「大統領の陰謀」「マラソンマン」など名演の映画が目白押しです。共演のアンディ・ガルシアの浮浪者姿はおどろかせられました。偽りのヒーローから本物のヒーローへ変わっていく様子がいいです。お馴染みのスーツ姿は相変わらずかっこいい。「ゴッドファーザーPARTⅢ」「オーシャンズ」シリーズなどを見ても、これだけスーツの似合う俳優さんも少ないと思います。ジーナ・デイヴィスもガツガツのキャリアウーマンぶりも美しかった。適材適所の3人が際立っています

 

主人公のバーニー(ダスティン・ホフマン)の信条は「目立たないように生きていけ」です。ことある度に息子にもそう教えているのですが、このセリフが深く映画に関わってきます

 

 

 

 

  真のヒーローとは?

 

何をやっても上手くいかず、空回りばかりでおまけに警察にもお世話になって、人生や周りに悪態をつきながらもどこか飄々として憎めないバーニー。そんな彼がつい"魔が差して"、とんでもない人助けをしてしまった

 

「真のヒーローとは何か?」これがこの映画のテーマです。ちょっとしたきっかけさえあえば、ちょっとした勇気があれば、ちょっとした気遣いああれば、誰だってヒーローになれます。たとえそれが嘘から始まったことだとしても。この映画は軽いタッチのラブ・コメディなのですが、実はマスコミの世界を舞台にしたヒーロー狂想曲です。マスコミが作り出した嘘のヒーローに世間の人々が振り回されていく様子をシニカルに描いた風刺コメディです!

 

誠実で男前だけど”嘘のヒーロー”と薄汚ないコソ泥だけど”本当のヒーロー”を比べて人々はどちらがヒーローと思うのでしょう?その男は、華やかな舞台に背を向け、したたかに自分の生き方を貫きます。その様子をユーモアとラブストーリーと父子の愛を交え、軽いタッチながら一級のエンターテインメント作品に仕上げています

「この俺が人を助けたヒーローに見えるか?お前の方がよっぽどヒーローに相応しい」

真実を報道すると言いながら、見た目だけでマスコミは偽の報道をし、人々はそれを真実だと信じている。これは今でも言えることで、SMSで無責任に流された情報に振り回される現代と似ています
 

 

  無印良品映画!

 

リアルを追求したサスペンスの秀作が多かった90年代の中にあって、少し肩の力を抜いて気楽に見られる映画です。「そんなバカな!」と思うシーンもありますが、そもそも半分は大人のファンタジーです。70年代の映画のような自由な雰囲気がいいですね。映画に対して掘り出し物というと失礼な言い方なのですが、なかなか奥の深い映画です。特別に大ヒットしたわけでもないですし、話題をかっさらった映画でもありませんが、もう少し評価されてもいい映画だと思います。かなり前ですが、ミスチルの桜井さんもこの映画を絶賛しておりました

 

高額な懸賞金までつけ、”謎のヒーロー”探しに躍起になるマスコミとヒーローを求める群衆心理。その名誉を横取りしてしまったのが、たまたま知り合った心優しきホームレスのババー。本当の善人であるババーがついた嘘によって物語は大きく展開していきます。つまり、嘘から始まった事が本当になっていきます。善人は嘘をついても信用され、悪人は本当のことを言っても信用されない。こんな二人が出した結論は?そして、真のヒーローとは?

「私たちはみなヒーローなのです。心に気高さを秘めています。でも普段はその存在に気がつかない」

もともと心が優しい”偽のヒーロー”のババー。彼はスラムに毛布を贈って欲しいと人々に訴えたり、難病の少年を救ったりして”真のヒーロー”になっていきます。人々は彼を絶賛し、ヒーローの出現に狂喜乱舞します。そんな彼に感謝のメッセージと共に花束が届くのですが、送り主は「B・ストライサンド」。あのバーバラ・ストライサンドですよね~

 

真実を明かすことが最善とは限らないという普通とは真逆な展開が面白かったですね

 

 

ラスト近くで、みんなを騙していたことから良心の呵責に耐えられず自殺しようとしたババーにバーニーが言い放ちます

「なあ、俺が本物のヒーローと言っていったい誰が喜ぶんだ?」

「世の中は嘘と虚構に満ち溢れている。嘘だらけだ。だから、いいか?お前はお前の好きな嘘を選んで、それを信じていけ」

「お前さんみたいな奴がヒーローに相応しい。やっぱりお前が天使だ」

ヒーローという名誉を得る代償に、ヒーローとしての責任を果たしていけというバーニー。かっこいいセリフなのですが単に面倒くさいだけだった気がします(笑)。それでもラストでバーニーは、息子の前で再び"魔が差して"人助けをしていくところで終わっています。ライオンの檻に落ちた少女を助けるために靴を脱いでひと言

「おい、この靴をなくすなよ」

このラストがまたいいです。真のヒーローは意外に近くにいるかもしれませんね

 

是非ご覧ください!