今日は、映画ではなく大好きなテレビドラマの話しを少し。以前別コーナーの「本の話」で紹介した大好きなドラマで、かつては何度も繰り返し見ておりました。初めて見たのは80年ごろですから多分再放送か再々放送だと記憶しています。全12話で原作も購入しました。レンタルではなかなか観る機会はないと思うのですが、5月19日と5月26日にBSで放映予定を見て、急きょレビューしました(案内は後記を参照してください)

 

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男たちの旅路(第一部)

/第3話「猟銃」1976年

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「俺は、若い奴が嫌いだ!」警備会社を舞台に、戦中派の中年男と戦後生まれの若者たちの断絶と共感を描いた傑作シリーズ。その中で第一部の最終話となる「猟銃」

 

 

「男たちの旅路」は、1975年から始まったNHKテレビの「土曜ドラマ」で、初めて脚本家の名前を冠した<山田太一シリーズ>として紹介されました。戦後30年、元特攻隊の生き残りと、戦後生まれの若者との世代間の断絶を、ガードマンという仕事を通して一話完結というスタイルで描き、大きな反響を呼びました。この作品は全部で12作つくられており、シルバー世代の寂しさを扱った「シルバー・シート」身体障害者の問題を真正面からとらえた「車輪の一歩」などの話題作も多く、見た人も多いのではないでしょうか。全12作については↑(上)の「本の話」で紹介していますので是非ご覧ください

 

「猟銃」の一場面

 

今回は、12作の中の第一部、第3話目「猟銃」を取り上げていますが、それについては格別意味はありません。どの作品も一話完結で見どころ満載なのですが、この章は、主人公の吉岡晋太郎を理解する上で前半のキーとなる物語だと思います

 

第1話「非常階段」では甘ったれた自殺未遂者の島津悦子(桃井かおり)を叱責し、第2話「路面電車」では万引き犯に肩入れすることがやさしさだと勘違いする悦子(桃井かおり)や陽平(水谷豊)らと意見が対立して退職に追いやります。それを受けてこの「猟銃」は第一部の完結編になります。この回を最後に、主要キャストの森田健作(柴田竜夫)が姿を消し二部からは柴俊夫らが登場します

前回の万引き犯の処遇で、竜夫(森田健作)と悦子(桃井かおり)は吉岡(鶴田浩二)と考え方が合わずに警備の仕事を辞めてしまうと、同調した陽平(水谷豊)も仕事を辞めてしまいます。3人は気が抜けたような毎日を過ごしていましたが、竜夫は母の裕子(久我美子)が吉岡と結婚まで考えた関係であったことを知ります。ある日、3人は連続猟銃乱射事件で警戒警備中の吉岡を訪ねて行って偶然強盗事件に巻き込まれますが、みんなで協力してその強盗を捕まえてしまいます。悦子と陽平は警備の仕事に復帰しますが、竜夫はどこか割り切れず・・・

 

 

 脚本

山田太一

 演出

中村克史 

 音楽

ミッキー吉野

 主要キャスト

鶴田浩二/吉岡晋太郎

 

水谷豊/杉本陽平

森田健作/柴田竜夫

桃井かおり/島津悦子

 

五十嵐淳子/浜宮聖子

中条静夫/斎藤司令補

前田吟/後藤士長

 

久我美子/竜夫の母

 

ゲスト
石田信之/荒木(強盗)
丹古母鬼馬/増田(強盗)

 

▲鶴田浩二/吉岡晋太郎
▲水谷豊/杉本陽平
▲森田健作/柴田竜夫
▲桃井かおり/島津悦子

▲久我美子/竜夫の母(ゲスト出演)

 
猟銃のアップ!そして、ある警備室に向けて火を噴く_
 
そうした出来事が二度、三度。犯人の目的が分からないまま物語は進み、それと交差するように浮かび上がってくる吉岡晋太郎の過去。ミステリアスな緊張の中で物語が平行して進み、あっという間に引き込まれてしまします。この章では猟銃による強盗事件をメインのように見せかけてはいますが(実際にファーストカットが猟銃のアップであり、タイトルが「猟銃」)、実は「人間の尊厳」をテーマにしており、それを語る吉岡晋太郎の過去の恋愛を通して「人間・吉岡晋太郎」を表現した回です。強盗に銃を向けられても「人は金だけでは動かない!」と言ってのける彼の生き方の種明かしをする重要な回です
 
 
中盤に、吉岡晋太郎(鶴田浩二)が三人(森田、水谷、桃井)に向け、竜夫の母(久我美子)との仲について話すシーンが印象的です。10分近くの語りを安っぽい回想シーンなど使わず、語りのみで撮ることで物語に引き込まれます
 
竜夫「九州の都城だそうですね」
吉岡「そうだ、都城の飛行隊だった」
陽平「おうおうカッコいいねえ~」
吉岡「黙って聞け」
三人「・・・」
吉岡「お母さんがどう話したか知らないが、私には同期で入った鹿島という友人がいた。大学も同じで、恋人(苦笑い)も同じだった」
吉岡「仲が良かったが恋人については、お互いゆずる気はなかった。綺麗な人だった・・今だって綺麗だがね」
竜夫「・・(目を伏せる)」
吉岡「初めて会った時は、かすりのモンペに上だけセーラー服の女学生だった。飛行場から20分ほどのお宅で、お父さん(竜夫をみて)君のお祖父さんは、中学校の先生をしておられた」
竜夫「(黙ってうなづく)」
吉岡「私と鹿島は、勤労奉仕で来ていたお母さんにまいっちまってね。家を突き止めて休みのたびに出かけていった。兵隊は当時歓迎されてな、つけ上がってよく行った。土産もよく持って行った。お祖父さんと将棋を打ったりして二人で競争して気に入られようとした。今思えば他愛ないが、奴に内緒でチョコレートを10枚も手に入れ届けたりもした。鹿島も似たようなことをやってた。20年の3月、お母さんは学校を卒業してハッとするほど女らしくなった。同じ月に硫黄島が全滅した・・・。私たちが特攻隊で出撃するのは時間の問題になってきた。そんな時、鹿島が君のお母さんに求婚する、と言った。私も負けずに求婚する、と言った。間もなく死ぬという人間が、無茶な話しだが本気で嫁さんが欲しかった。腕づくで来い!勝った方が求婚しよう、と鹿島が言いだし、殴り合いになった。私が負けた・・鹿島がおそろしいほど本気でなのでひるんだんだ。ところが、いざ求婚となるとガタガタして言い出せないんだな。その時になって”死ぬ人間が嫁さん貰っても仕様がない”などと言った。結局求婚しなかった。前と同じで、二人で訪ねては酒を飲んだりして帰っていった。6月に鹿島は出撃して、それきりになった。出撃するとき”俺は仕方がない、もしお前が生き残ったら裕子さんをきっと貰え!”と鹿島は言った。”生き残る筈がない。俺もすぐあとから行く!”と私は言った。ところが生き残った」
竜夫「・・・」
陽平「・・・」
悦子「・・・」
吉岡「私は東京へ帰った。裕子さんには・・お母さんには会わなかった。仲間が次々と死んでいったのに、自分が生き残ったということに圧倒されていた。とても、求婚などという余裕はなかった。戦争中の親切のお礼を書いた葉書を出しただけだった」
吉岡「敗戦の翌々年、お母さんは突然上京して来た。お父さんの用事で上野の図書館へ来たと言った。私は荒れている時でなあ、帰りに東京駅に送っただけだった。ただ、動き出した汽車の中のお母さんを見て、戦争中の気持ちが溢れるようによみがえった」
吉岡「手紙のやりとりをした。私は生活を立て直す気になった。結婚しようと思った」
吉岡「23年の夏、都城へ行った。・・駄目だった。夏草の茂った飛行場を見るとワーっと死んだ奴を思い出した。鹿島を思い出した。どうしても結婚を言い出せなかった。生き残ったのをいいことに、一人で幸せになっちまうことは、すまない気がして言い出せなかった。25年にあ母さんはお嫁に行かれた」
竜夫「その前に、あなたに会ったそうですね」
吉岡「ああ」
竜夫「結婚話が進んでいる。でも結婚したくない。母はあなたと結婚したいと言ったそうですね」
吉岡「ああ」
竜夫「あなたは、逃げたそうですね」
吉岡「・・・」
竜夫「死んだ鹿島さんの気持ちを思うと結婚は出来ないって、書き置きをしていなくなったそうですね」
吉岡「ああ」
陽平「あんたは相当な嘘つきだね」
吉岡「なんだと?」
陽平「そんな話し、信じられっこないじゃん」
吉岡「どうして?」
陽平「いくら親友だったか知らねえけど、死んだ奴に義理たてて、好きな女と別れるなんて出来すぎててしらけちまうじゃないっすか」
吉岡「しかし事実だ」
陽平「事実のような気がしているだけでしょ。本当は簡単なことで、あんたはもう惚れてなかったっていうことでしょ?」
吉岡「そうじゃない」
陽平「甘い話しをつくりたいっていう気持ちはわかるけどさ、特攻隊で死んだ仲間が忘れられないから結婚しねえなんて、ちょっと作り過ぎでしょうよ」
吉岡「その時の気持ちは、しかし、そうだった。断じて惚れてなかったなんていうことじゃない。お母さんを好きなら好きなほど結婚して幸せになるのが、後ろめたくて仕方なかった」
陽平「綺麗すぎるねえ」
吉岡「お前は、きたなきゃ信じられるのか」
陽平「もうちょっと本当らしけりゃ信じますよ」
吉岡「どんな風なら本当らしいんだ?死んだ奴なんかサッサと忘れたと言えば信じられるのか?」
陽平「人間は忘れるもんでしょ」
吉岡「忘れなきゃ嘘だっていうのか?お前らは、そう言ってタカをくくっているだけだ。恋愛も友情も長続きすれば嘘だと言う。人のためにつくすのは偽善者かバカだという。金のために動いたといえば本当らしいと思い、正義のために動いたと言えば裏に何かあると思うんだ。お前らは、そうやって人間の足を引っ張って大人ぶってるだけだ。しかしな、人間はそんなに簡単なもんじゃないぞ。俺が、いまだに一人でいることを、お前らに言わせれば相手が居ないか面倒くさいとか、そんなことで片づけようとするだろう。でも、そうじゃない、幸せな家庭なんか作りたくなかったんだ。死んだ奴に一人くらい義理を立てて独身で通す奴がいてもいいと言う気持ちだったんだ」
陽平「戦後30年経ってんだよ」
吉岡「甘っちょろいというのは簡単だ。しかし、甘い綺麗ごとでも一生をかけて押し通せば甘くなくなるんだ。俺はそう思ってる」
陽平「・・・」
吉岡「シラけてわけ知りぶるのは勝手だが、人間には綺麗ごとを押し通す力もあるんだという事を忘れるな」
・・・(いきなりという感じで)
竜夫「それじゃあ俺の死んだ親父はどうなるんです?いやいや結婚したお袋はどうなんです?お袋は最後まで親父にやさしくなかった。あんたと結婚してりゃ、親父は、もっとやさしい嫁さんをもらって幸せだったかもしれない」
吉岡「それは別の話しだ」
竜夫「そうですかね。お袋は、いつも心の中であんたと親父を比較していたんだ。そして親父の方が魅力がないとか思ってたんだ」
吉岡「20何年もそんなことを思うはずがない」
竜夫「あんたも、30年以上死んだ人を忘れていなかったんでしょ?」
吉岡「・・・」
竜夫「お袋も、あんたを忘れてないんだ・・」
 
 
 

70年代に起こっていた様々な社会問題に、戦中派と戦争を知らない若い世代がぶつかり合いながらも取り組んでゆく

 

社会の在り方、人間の在り方を深く考えさせられるドラマです。ドラマ自体は一話完結ですが、人と人のかかわりは終わることがありません。そういう意味で、このドラマがその後の日本社会に与えた影響は大きいのではないでしょうか

このドラマを見ると、または本を読むと亡きオヤジを思い出します。過去、ちょこっとだけ親父について書いたことがありますが、この物語に出てくる吉岡晋太郎のような立派な人物ではありません。ごく普通の頑固オヤジでした。ただ、戦争ではかなり辛い目にあったらしく、満州から沖縄へ行き部隊では数少ない生き残りだったそうです。もともとの性格なのかもしれませんが、どこか肝の据わった人で浮き沈みの激しい人生だったはずなのに、物事に慌てている姿を見たことがありません。戦後のどさくさで、大儲けしたらしく毎日映画、演劇三昧だったらしいです。その後、母が病死するとある日突然、会社を放り出して私を連れて上京します。小さいころは腹いっぱい食べた記憶がないほど貧しかったのですが、親父はどこか貧乏暮らしの生活を楽しんでいるように見えました。何かの拍子に何度か戦争のことを尋ねたことがあります。断片的にその悲惨さを話すことはありますが、たいていは固く口を閉ざしてしまいました。しつこく問うと「お前たちは知らなくてもいい・・」そう繰り返すだけでした。こういう話しを最後にしたのは私が20代のころです。その時のオヤジの真意を未だにわからないでいます

 

 

このドラマの舞台になっている70年代の考えを、そのまま現代に当てはめようとはもちろんありません。ただ、そういう人たち(オヤジを含めて)がいてくれたからこそ今がある、という気持ちは強いです。なかなか見る機会(本は比較的簡単に手に入ります)がないと思いますが、見つけたら是非ご覧ください。いつか他の章も紹介したいと思います

ドラマ自体は、強盗に銃でおどされ、警備システムを切る寸前まで行きますが、結局みんなで協力して撃退するという予定調和で終わります。ただ、この章のドラマは吉岡晋太郎の独白をしたところで大方終わっていると言っていいです。古さは否めないですが、当時の生活を見ることが出来懐かしく思います

 

「俺は若いやつが嫌いだ。だがそれは多分若いやつを知らないからだと思う」

 

吉岡晋太郎/第一話「非常階段」より

 

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「男たちの旅路」の2部と3部が来る5.19と5.26にBSプレミアムで放映されます。放映時間以外の詳細は出ておりませんが、おおむね次のような章だと思います

 

<BSプレミアム>

◆5.19(金)20.15~23.50

「男たちの旅路」第2部

1話/廃車置き場

2話/冬の樹

3話/釧路まで

◆5.26(金)20.15~23.50

「男たちの旅路」第3部

1話/シルバー・シート

2話/墓場の島

3話/別離

 

一話がだいたい75分です。一話完結ですからどの章からでも楽しめますが、全体の流れや登場人物の関係などから、初めからみた方が面白いです。6月に第4部もあるのでしょうか?古さは否めませんが生きざまに共感する人も多いのではないでしょうか?是非録画して見てください!