の続きです
# 神殺し ―覚醒の序章―
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## 第七章 ―孤狼と神殺し―
### 一 ―集まる者たち―
トノパ第三警察署の訓練場は、署の地下一階にあった。
天井は高く、床は硬質の木材が敷かれており、
四方の壁には打ち込み用の的と、
各種の訓練器具が並んでいた。
普段は朝の訓練と
週一回の実技審査にしか使われないその空間が、
この夜は異様な熱気に包まれていた。
人が集まっていた。
非番の警官。
当直明けの署員。
たまたま署内にいた関係者。
気がつけば三十人近くが、
訓練場の壁際に張り付いていた。
端から見れば奇妙な光景だった。
深夜の警察署の地下に、
制服姿と私服姿が入り混じった人間たちが、
息を潜めて中央を見つめている。
しかし集まった者たちの間には、
奇妙な連帯感があった。
それはほぼ全員が、
今年の近衛部隊選抜試験に関わる
非公式の賭けに参加していたからだった。
名目上は賭けとは言えない。
金銭の授受は建前上は存在しない。
しかし実態として、誰が合格するかを予想し合い、
外れた者が当たった者に何かを奢るという慣習が、
軍人や元軍人の間で長年続いていた。
賭けと呼べばそうなるし、
余興と呼べばそうでもある。
お上からは見て見ぬふりをされ、
息抜きとして半ば黙認されている、
そういう文化だった。
今年の有力候補として名が挙がっていたのが、
ドルガとブレイズだった。
その二人が、今夜、
名も知れぬ若者によって数秒で沈められた。
つまり、今夜の賭けの勝ち負けは
相当数が引っくり返る可能性が出てきたわけで、
集まった者たちの関心はひとつに収束していた。
その若者は、いったい何者なのか。
孤狼ミレーヌに対して、どこまでやれるのか。
答えを見たかった。それだけだった。
壁際に並んだ人間たちの表情には、
興味と好奇心と少しの興奮があった。
しかし若者がミレーヌに勝つと考えている者は、
誰一人いなかった。
それは侮りではなかった。
ミレーヌの実力を知っているから出てくる、
当然の判断だった。
ドルガとブレイズがいくら強くても、
孤狼の実力はその上にある。
大方の見立ては、
若者がどれだけ持ちこたえられるか、
という一点だった。
一分か。五分か。
あるいは孤狼が本気を出せば三十秒で終わるか。
そういう空気が、訓練場の壁際に充満していた。
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ガルドだけは、壁に背を預けながら、
少し違うことを考えていた。
あの若者が勝つかもしれない。
その考えが、頭の中に居座っていた。
根拠は二つあった。
ひとつは、今夜の出来事だった。
ガルドは「赤熊亭」の外から、
若者がドルガとブレイズを外に放り出す瞬間を見ていた。
しかし見ていた、というのは正確ではないかもしれない。
気がついたら終わっていた、というのが実態だった。
何が起きたのかを目が処理する前に、
すでに二人は宙を舞っていた。
長年軍にいたガルドは、
速い動きを見ることには慣れていた。
しかしあれは速いという次元の話ではなかった。
まるで因果が逆になったような、
そういう奇妙な感覚があった。
ふたつめは、もっと曖昧で、
しかしガルドには確信に近いものだった。
若者の目だった。
廊下で少し言葉を交わしたときに見た、
あの薄い琥珀色の目。
若い顔に収まっているのに、その目だけが違った。
何十年も、
もしかすると何百年も戦い続けてきた古兵が持つ、
あの底の見えない静けさ。
ガルドは軍人として長く生きてきた。
人の目を見れば、
その人間がどれほどのものかの輪郭は掴めた。
しかしあの若者の目からは、輪郭すら見えなかった。
そしてもうひとつ。
ガルドは自分の本能が、あの若者に対して
「対峙してはいけない」と反応したことを、
よく覚えていた。
恐怖ではなかった。
これまで強敵と対峙してきたときの、
あの恐怖の感覚とは違った。
敗北感でもなかった。
ただ、本能の深いところが静かに警告を鳴らしていた。
この存在とは、争う土俵に立つべきではない、と。
猛獣と対峙したときの感覚に近かった。
いや、それでも違った。
猛獣はまだ、同じ世界の生き物だ。
あの若者から感じたものは、
もっと別の何かだった。
ガルドはその「何か」を見極めたかった。
だから今夜、ここにいた。
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### 二 ―十メートルの静寂―
訓練場の中央で、二人が向かい合っていた。
距離は約十メートル。
ミレーヌは自然体で立っていた。
重心はわずかに低く、
両足の間隔は肩幅よりほんの少し広い。
一見すると普通に立っているだけに見えるが、
その体勢からはあらゆる動きへの移行が可能だった。
近衛部隊での訓練の中で磨き上げた、
無駄を極限まで削り落とした構えだった。
対してフレデリックは、本当にただ立っていた。
両腕は自然に下げたまま。
足は揃えに近い。
肩の力は抜けていた。
訓練場に集まった者の中で
戦闘の心得がある者なら全員が思ったはずだった。
あの立ち方は隙だらけだ、と。
壁際からひそひそとした声が漏れた。
「あれ、構える気ないのか」
「なめてんのかミレーヌさんを」
「逆に度胸があるな」
「ただの無知じゃないか」
そういう声を、フレデリックの耳は拾っていたが、
特に気にしなかった。
ミレーヌの目だけを見ていた。
ミレーヌもまた、フレデリックだけを見ていた。
観客の声も、訓練場の熱気も、
意識の外に追いやっていた。
今この瞬間、
この十メートルの間にあるものだけが世界だった。
向かい合った瞬間から、
ミレーヌはすでに多くのことを読み取っていた。
相手の重心の位置。
呼吸のリズム。
目の動き。
筋肉の緊張と弛緩のバランス。
これだけの情報があれば、
次の動きの予測はある程度できる。そのはずだった。
しかしフレデリックからは、それらが読めなかった。
重心はどこにあるのか分からない。
呼吸のリズムは、
してい るのかしていないのかさえ曖昧だった。
筋肉の緊張は、全くない。
まるで、戦いの場に立っているという認識が、
この男にはないかのような。
ミレーヌの中で、かすかな警戒が灯った。
油断しているのか。
それとも、そう見せているのか。
それとも――。
試合開始のホイッスルが鳴った。
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それと同時に、訓練場が揺れた。
三十人近い人間が一斉に声を上げた。
怒号とも歓声ともつかない、
重低音の波が空気を揺らした。
床の木材が、かすかに振動するほどの声量だった。
ミレーヌは一瞬だけ思った。
静かにしてほしい。
瞬きをした。
ほんの一瞬、両目を閉じて、開いた。
それだけの時間。コンマ数秒にも満たない。
目を開けた瞬間、フレデリックが目の前にいた。
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ミレーヌの体が動いたのは、思考よりも先だった。
長年の訓練が刻み込んだ反射が、
意識を介さずに体を動かした。
重心を右に逃がしながら後方に距離を取る。
相手の攻撃の軌道から体を外す動き。
何が来るかも分からないまま、
来るものすべてから遠ざかろうとする、
本能に近い動作。
体が壁際まで下がった。
距離が開いた。
ミレーヌは息を整えながら、フレデリックを見た。
フレデリックは追ってきていなかった。
ミレーヌが距離を取った分だけ止まっており、
また自然体で立っていた。
表情は変わっていなかった。
訓練場が静まり返っていた。
先ほどまで怒号を上げていた三十人が、
全員黙っていた。
壁際のどこかで、誰かが小声で言った。
「……今、何が起きた」
誰も答えなかった。
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ミレーヌの背中に、
じっとりとした冷や汗が滲んでいた。
頭の中で、今起きたことを整理しようとした。
しかし整理できなかった。
データが足りなかった。
いや、データがそもそも存在しなかった。
ホイッスルが鳴った瞬間から、
ミレーヌはフレデリックを見ていた。
視線を外していない。
瞬きをした時間を除いて。
その瞬きの間に、十メートルの距離が消えていた。
走った形跡がなかった。
踏み込んだ音がなかった。
風圧もなかった。
予備動作もなかった。
ホイッスルの直前まで、
フレデリックは確かに十メートル先に立っていた。
それが次の瞬間には、腕が届く距離にいた。
身体的な技術か。
ミレーヌは考えた。
これほどの速度で移動する技術が、人間に存在するのか。
どれほどの訓練を積めば、
瞬きの間に十メートルを埋められるのか。
魔法か。
空間を操る魔法の使い手か。
しかしフレデリックから魔力の気配は感じなかった。
魔法を使う者が持つ、あの独特の空気の歪みがなかった。
ミレーヌには答えが出なかった。
ただひとつ分かったことがあった。
これまで対峙してきたどんな猛者よりも、
やっかいな相手だ。
軍での三年間で、様々な強者と戦ってきた。
近衛部隊でも、歴戦の古参たちと訓練を重ねてきた。
その中で培ってきた「強敵を前にしたときの感覚」
というものが、ミレーヌにはあった。
それが今、完全に通用しない相手が目の前にいた。
ミレーヌは瞬きをした。意識的に。
フレデリックは動かなかった。
今度は大丈夫だった。
ミレーヌは頭を切り替えた。
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### 三 ―組み立て直す―
これまでの戦い方を、全て捨てる。
ミレーヌはそう決めた。
これまでのミレーヌの戦い方は、
相手を読むことを起点にしていた。
体の動きを観察し、重心を読み、
次の動作を予測して、一手先に動く。
父から受け継いだ獣を読む技術と、
軍での訓練で培った人を読む技術を組み合わせた、
ミレーヌ独自のスタイルだった。
しかしフレデリックに対してそれは機能しない。
読めない相手に対して、
読もうとし続けることは悪手だ。
空白を埋めようとして生まれる判断の遅れが、
命取りになる。
ならば逆にする。
自分が動く。
自分が仕掛ける。
相手の反応を見る。
その反応から、相手の限界を探る。
ミレーヌは静かに息を吐いた。
体の余計な緊張を、意識的に手放した。
父がよく言っていた。
怖いと思う気持ちを呼吸に変えて、体の奥に沈めること。
ミレーヌはそれをやった。
背筋の悪寒は消えなかった。
しかし体は動ける状態になった。
ミレーヌは踏み込んだ。
最初の一歩は、フェイントだった。
右に重心を乗せながら左足で踏み込み、
相手の反応を誘う。
相手が動けば、その方向に合わせて次の動きを選ぶ。
相手が動かなければ、そのまま実際の攻撃に移行する。
フレデリックは動かなかった。
ミレーヌは実際に踏み込んだ。
右の掌底を、フレデリックの胸に向けて打ち込んだ。
速度は十分だった。
角度も悪くなかった。
これまで相当数の相手を、この一撃で崩してきた。
フレデリックの体が、ほんのわずかに傾いた。
ミレーヌの掌底は、空を切った。
傾いた、ではなかった。
ずれた、というのが正確だった。
ミレーヌの攻撃の軌道上から、
フレデリックの体がほんのわずか外れていた。
大きく動いたわけではなかった。
しかし確実に、当たらない位置に収まっていた。
ミレーヌは即座に次の手を出した。
外れた右腕の反動を利用して左の肘打ち。
続けて右の膝。さらに足払い。
全て、当たらなかった。
正確には、触れた。
触れたのに、力が伝わらなかった。
まるで相手の体が空気のように、
力を吸い込んでしまうような感覚。
壁際で、誰かが息を呑む音がした。
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フレデリックは反撃していなかった。
それがまた、ミレーヌを困惑させた。
防いでいるのでも、躱しているのでもなかった。
ただ、そこにいた。
ミレーヌの攻撃が当たらない場所に、
自然に存在していた。
波に逆らわず、しかし流されもしない水のような、
そういう動きだった。
ミレーヌは五手、七手、十手と攻め続けた。
全て届かなかった。
息が上がり始めた。
これほど手数を出して、
これほど手応えがないのは初めてだった。
怒りではなく、純粋な驚きが胸の中にあった。
ミレーヌは一度距離を取った。
深く息を吐いて、フレデリックを見た。
フレデリックは相変わらず自然体で立っていた。
呼吸の乱れは見えなかった。
「……強い」
ミレーヌは気がつくと、口に出していた。
独り言のようにそれを言っていた。
訓練場の壁際が、また静まり返った。
孤狼が、強いと言った。
それが何を意味するかを、
この場にいる全員が理解していた。
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フレデリックは少しだけ、目を細めた。
ミレーヌの攻撃を受けながら、彼は確かめていた。
この女性は本物だ、と思った。
速い。
読みが深い。
手数が多い。
何より、不測の事態に対する頭の切り替えが
異様に速かった。
最初の一手で完全に想定外の事態が起きたにも関わらず、
次の瞬間には体の動きと思考を組み立て直していた。
これほどの使い手が、
この時代にまだいるのか、と思った。
数千年という時間は、多くのものを消していった。
かつて神々と戦い、共に戦った人々の末裔たちは、
世代を重ねるごとに少しずつ変わっていった。
強さを求める者は今も絶えなかったが、
本当の意味での使い手は、
時代が下るほど少なくなっていた気がしていた。
しかしこの女性は違った。
磨かれていた。
技術として磨かれているだけでなく、
その根底にあるものが磨かれていた。
恐怖を飼い慣らし、不測に対応し、諦めない。
それは才能ではなく、積み上げたものの重さだった。
フレデリックは、
この手合わせを少しだけ、楽しんでいた。
楽しむなどという感覚は、久しく忘れていた。
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ミレーヌは次の手を考えた。
正面からの攻撃が通らないなら、別の次元で仕掛ける。
ミレーヌは低く踏み込みながら、
今度は攻撃ではなく組み付きを狙った。
相手の腕を掴み、関節を取る。
柔術に近い動き。
速度で勝てないなら、体の構造で対応する。
フレデリックの右腕に手がかかった。
掴んだ。
ミレーヌは関節を極めようとした。
しかし極まらなかった。
掴んでいる。
確かに掴んでいる。
しかし関節が動かなかった。
まるで鉄の棒を掴んでいるような、そういう感覚だった。
力で押しているのではなく、
ただそこにある、という感じだった。
ミレーヌは掴んだまま別の角度から崩しを入れた。
足を刈った。
フレデリックは動かなかった。
山のように、動かなかった。
ミレーヌは舌打ちをしそうになって、やめた。
代わりに掴んだ腕を支点に、自分の体を使って跳んだ。
フレデリックの背後を取る動き。
着地した瞬間、フレデリックが振り返っていた。
やはり間に合っていた。
ミレーヌは距離を取り、構え直した。
二人の周囲を、重い沈黙が包んでいた。
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### 四 ―ガルドの目―
壁際でガルドは腕を組んだまま、
一言も発していなかった。
隣にいた警官が、小声で囁いた。
「……ガルドさん、あれ、どう思いますか」
ガルドは答えなかった。
目は訓練場の中央から離れていなかった。
見ていた。ただ見ていた。
ミレーヌの動きは、
ガルドの教えたものを土台にしながら、
はるかに高いところへ行っていた。
それは分かった。
誇らしかった。
しかし今ガルドが見ているのはミレーヌではなかった。
フレデリックだった。
あの若者は何もしていない、とガルドには見えた。
攻撃していない。
防いでもいない。
ただ、そこにいるだけだった。
ミレーヌの全ての動きが届かない場所に、
自然に存在していた。
これは技術か、とガルドは思った。
どんな技術も、修練の果てには自然に見えるものだ。
ガルドも長い訓練の末に、
多くの動きを無意識のものにしてきた。
しかしあれは、その延長線上にない。
技術を超えたところにあるものが、
あの若者にはあった。
ガルドはふと、神殺しの伝説を思った。
子供の頃に聞いた話。
神々を打ち倒した男の話。
今も語り継がれる、おとぎ話。
馬鹿なことを考えている、とガルドは思った。
思いながら、
しかしその考えを頭の中から追い出せなかった。
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### 五 ―差―
ミレーヌは今度は言葉を使った。
「聞いていいか」
「どうぞ」
レデリックは答えた。
訓練場の喧騒の中でも、その声は静かに届いた。
「お前は今まで、一度も本気を出していないか」
少しの間があった。
「出していない」
訓練場の空気が変わった。
壁際の人間たちが、息を飲む音が重なった。
ミレーヌは目を細めた。
「では今から少しだけ本気を出してくれ」
「怪我をしてもいいのか」
とフレデリックは言った。
「構わない」ミレーヌは言った。
「それが私の申し出た条件だ」
フレデリックはしばらく黙っていた。
それからかすかに、眉を上げた。
「分かった。少しだけ」
次の瞬間、ミレーヌの体が浮いていた。
何が起きたか分からなかった。
気がつけば体が宙にあり、
背中から訓練場の床に落ちていた。
痛みが背筋に走った。
受け身は取れていた。
しかし取れていなければ、
相当に痛いことになっていただろう衝撃だった。
天井が見えた。
魔力灯の青白い光が、静かに揺れていた。
ミレーヌは寝転がったまま、しばらく天井を見ていた。
立ち上がろうとした。
立ち上がれた。
体のどこかが壊れているわけではなかった。
しかし、もし本気で壊しに来ていたなら、
という考えが頭をよぎった。
フレデリックは少し離れたところで、
またいつもの自然体で立っていた。
「続けるか」
ミレーヌは床を踏んで立ち、フレデリックを見た。
続けるか、という問いに対する答えは、
頭ではすでに出ていた。
続けても、届かない。
それが答えだった。
これほど明確に「届かない」と感じたことは、
ガルドに初めて挑んだあの路地裏の夕暮れ以来だった。
あの時は三回挑んで三回転がされた。
そして追い求めるものを見つけた。
今は違った。
あの時のガルドは、強い人間だった。
今のフレデリックは、強いという言葉の外側にいた。
ミレーヌは深く息を吐いた。
「……降参する」
訓練場が、しんとした。
孤狼が、降参した。
その言葉の意味を、
壁際の全員が処理しきれずにいた。
誰も声を出せなかった。
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フレデリックは何も言わなかった。
ミレーヌが近づいてきて、まっすぐに目を見て言った。
「一つだけ教えてくれ。お前は何者だ」
フレデリックは答えた。
「旅をしている人間だ。それだけだ」
「それだけのはずがない」
「それだけだ」フレデリックは繰り返した。
「今は、それだけだ」
今は、という言葉の意味を、
ミレーヌは問い返せなかった。
その言葉の奥に何かがある気がした。
しかしそれが何かを、
問うべき言葉がミレーヌには見つからなかった。
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壁際で、ガルドが静かに腕を解いた。
見極めた、とは言えなかった。
しかしひとつだけ分かったことがあった。
あの若者が何者であれ、
ガルドの本能が発した警告は正しかった。
そしてそれは、恐怖ではなかった。
もっと根源的な何かだった。
言葉にするなら、こういうことだろうか。
人間が、人間の外側にあるものと
向かい合ったときに感じる、あの感覚。
ガルドは視線を上げて、天井を仰いだ。
神殺し、という言葉が、また頭をかすめた。
今度は、それを馬鹿なことだと思えなかった。
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**(第七章・了)**