昨年からYoutubeなどの動画投稿サイトにCMを投稿して、口コミで認知を広げるバイラルCMが話題になっているのは、すでに皆さんもご存知のはず。ダイエットコークにメントスを入れて、コーラの噴水を作り出した「Extream Diet Coke & Mentos Experiments」が、もっとも有名なところだ。

  バイラルCMは、テレビのような規制がないぶん、自由で過激な内容のものが多く、よりブラックに、よりセクシャルに、日本人的感覚では、一線越えてるんじゃないの?と思えるようなものも多い。大量の映像が投稿される動画共有サイトの中で目立つためには、ありきたりのものではダメで、"より過激に"という志向が働くのだろう。

 日本にも、この動向はやってきて、昨年、秋葉原を舞台に変身ヒーローが駆け巡るNIKEiDの「NikeCosplay」が、YouTubeに投稿され、こちらも徐々に大きな話題になった。これは、僕も何度も見てしまった。



 このところ、こうしたバイラルCMのビジネス環境が活性化しつつある。ひとつは、DAC が発表した「kuchi-coma」。これは、Askビデオやフォト蔵など4つの動画投稿サイトと提携して、バイラルCMを配信し、その効果を高めるとともに、PV数など広告効果を測定しようというもの。

 また、エニグモの「filmo 」とジョーカーピースの「Awalk 」は、ユーザーにCM制作、配信に関わってもらうもので、"ソーシャルコマーシャルネットワーク"?とも言われている。サイトの登録ユーザーが、企業からの依頼でCMを制作し、これを提携ブログで展開する、というもの。制作費やクリック数に応じた報酬も支払われるようなので、ユーザーのインセンティブもしっかり働きそうだ。

 動画投稿サイトそのものに関しては、日本の厳しい著作権管理のためか、海外サイトのほうが面白い動きが多いが、バイラルCMをめぐってここまで急に活性化するのは意外でもある。日本では、新しいウェブサービスをスタートさせても、他企業に売却することを目的にしたバイアウトモデルが成り立ちにくこともあって、どうしても着実な収入が確保できる"広告"絡みのサービスだけが、活性化する傾向にあるのは、なにやら寂しい気もするが。

 いずれにしても、こうした動向の中から、たくさんの新しいクリエイターが誕生してほしいものだ。

 以前エントリーしたように(『Business2.0』とブログの行方 )、アメリカでは、ブログの存在感は、日本とはかなり別のステージに移行していて、多くの広告費を稼ぎだす商用ブログも数多く存在する。そうしたニュースサイトにも匹敵するような商用ブログが登場したために、既存のメディアも、その記事配信の方法やアウトプットの手法を見直しつつあるのだ。

 そうした大きな影響力を持ち、かつビジネス的にも成功するブログが成り立つには、多くのユーザーを集めることも重要だが、ブログに対する広告面での理解やサポートが欠かせない。広告を掲載するに値する媒体だ、という広告主の理解が広まり、広告単価が上がらなければ、ビジネスとしてブログを成り立たせることはできない。

 それは、既存のニュースサイトにも匹敵しうるブログが、いくつも登場してきて、広告媒体としてその影響力を無視できなくなった、ということもあるのだが、広告営業、配信作業を一手に引き受けるブログ・(アド)ネットワークが登場したことも大きな転機だった。

 特に、高いクオリティのブログをいくつも束ねるGawker MediaFederated Media Publishing の存在は、ひじょうに大きなものだった。ブログネットワークにも、ブログにどのくらい主体的に関わるかでその運営の仕方に違いがあるが、ジョン・バッテル(WIRED誌の共同創刊者で、『ザ・サーチ』の著者)が、去年の3月に立ち上げたFederated Media Publishingは、すでに有名だったTechCrunchやBoingBoingやDiggを巻き込んで、広告ネットワークを作り、年間売上1000万ドルを越えるといわれ、存在感も際立っている。

 ……と、ここまでは前フリで・・
 そのブログ(アド)ネットワークが、先日、ようやく日本にも登場した。「アジャイルメディア・ネットワーク 」は、元Cnetの坂和敏さんが中心となって設立され、現在、パートナーとなるブログは12で、いつも読ませていただいているブログも多い。

 さらに注目されるのは、ブログ オン ブログ(BoB)という広告配信形式で、これは広告エリアに、企業ブログの新着フィードが表示されるというもの。こちらは、去年の9月にTechmemeが始めてアメリカで話題になった形式だ(こちらのブログ のエントリーを参照してください)。今回、アジャイルメディア・ネットワークでは、このBoB広告に加えてバナー広告も展開しているが、日本では企業ブログが、まだアメリカほど一般化していないため、という事情もあるのだろう。

 ということで、アメリカの先進事例を大胆に取り入れてスタートしたアジャイルメディア・ネットワーク。そのアメリカでは、ブログネットワークが、その後のブログ界の地位向上、多くの商用ブログの登場、さらに、既存メディア界の改編に大きな影響力を持っただけに、同様のことがこれから日本で順次起きて行くことを期待したい。
 年末の大前研一氏のコラム「日本には、チャレンジ精神・起業家精神を育む教育改革が必要」で気になったデータが紹介されていた。

 全米ベンチャーキャピタル協会(NVCA)の調べによると、アメリカ外生まれの起業家が創業した起業に投資することが増えているけれども、日本は、まったく範疇外だという。1980年以前から比べると、アメリカ意外生まれの起業家が創業した企業数は、約6.5%から約25%と、4倍ほどに増加している。1980年以前から米VCが投資した上場企業725社のうち、144社を締める米以外で生まれた起業家を出身地別にすると、上位から、インド(32社)、イスラエル(17社)、台湾(16社)・・。以下、NVCAにあった元資料を見てみると、台湾の次は、カナダ、フランス、イギリス、ドイツ(6社)、オーストラリア、中国、イラン(5社)、イタリア(4社)、韓国、スイス(5社)、ベルギー、ハンガリー(2社)・・と日本は出てこない。

NVCA070123

 う~ん、確かに日本の経済規模を考えると、このリストにあがらないのは、ちょっと異常な感じがする。この事態を、大前氏は、起業家精神を育まない日本の教育が問題だと言う。確かに、そういう点はあるだろうが、なんでも"教育"のせいにしてしまうのも、なにか判断を停止してしまうようで、あまりに安易という気もする。日本のマーケットは、あえてアメリカに打って出て、リスクを負う必要がないほど充分で適当な市場規模があるとも言えるのだろう。だが・・・やはり、ちょっと大丈夫か?と思う。

 以前、「『フラット化する世界』時代のクリエイティビティ」とエントリーしたが、日本のソフトウェアやウェブサービスでの創造性が、やや欠けているのではないかという懸念を常々抱いているのだ。

 そこで気になるデータをもうひとつ。ダボス会議で有名な世界経済フォーラムが、去年の3月に「2005年世界IT報告書」を出している。情報技術への対応度を指数化したもので、日本はここでも16位。1位から、アメリカ、シンガポール、デンマーク、アイスランド、フィンランド、カナダ、台湾、スウェーデン、スイス、イギリス、香港、オランダ、ノルウェー、韓国、オーストラリア、そして日本。こちらは基準が曖昧とも言えるので、そう過剰に心配するようなことでもないと思うのだが、数年前から喧伝されていた"ブロードバンド大国"はどうなってしまったのか。

 ニンテンドーDSのように、ガジェットを作り込むのは、まだ伝統的に得意なんだろうけれど、時代はガジェットからソフトウェアやサービスに移行しつつある。そうしたサービスは、大企業よりも、個人のユニークなアイデアから生まれ、わすか数人で作り込んだだけであっとうい間に世界中で利用される、ということがよくある。そんな事例を日本で思い浮かべると・・Winny となるわけだが。国家としてのWinnyへの対応が、その後のソフトウェア開発者に余裕と遊び心を失わせている、というのは飛躍しすぎか・・。

 …とにかく、今年は、日本産のユニークなソフトウェアや、メディアの趨勢を変えるようなサービスに数多く出会いたいものだ。


新年、はじめての投稿ということで、Movie作ってみました。
今年もよろしくお願いいたします。
次回から、また通常に戻ります。
 今年最後のエントリーになりそうなので、今回は2006年のネット・メディア業界を振り返ってみよう。思いつくのはこんなところ・・。

・YouTube、MySpaceの大ヒット
・TechCrunchなど商用ブログの影響力増大し、既存ニュースサイトと対等に
・ポッドキャストやビデオで、アマチュアクリエイターが表舞台に
・CNN など大手メディアもユーザー投稿を採用
・RSSアグリゲーターの一般化
・ヨーロッパでは、無料新聞急増
・ロイターなど通信社が元気
・Newsweekなど既存メディア、ネットにシフト
・注目を集めるSecond Life
・コンテンツとメディアが分離

 米Time誌が、「Person of the Year」に"You"を選んだと、前回のエントリーで紹介したように、今年はユーザー自らがコンテンツを作るUser-generated contentが、メインストリームに躍り出た年だった。相変わらずブログ数は伸び続け、SNSのMySpaceやYouTubeのような動画共有サイトなどで、ネット上ではユーザーが作るコンテンツが急増し続けた。そうした流れの中で、名も無いアマチュアクリエイターが、メディアの表舞台に躍り出る機会が増え、まさにメディアは、"You"の時代に入った。

 また、アドネットワークなどの環境が整い、ブログが広告媒体として認知されたことでブログの商用化が成立。中には、TechCrunchのように大手メディアと対等の影響力を持つようになったブログも現れた。限定された読者層を対象にするには、少人数の効率化された制作体制で、軽やかなフットワークを持つブログというメディア形式が適していたのだろう。
 
 いっぽうオールドメディア業界では、大きなリストラ続き、新しい時代に適したスタイルを模索する試みが続いた。Newsweekなど有名雑誌も、ネットでの活動に力点を移し、CNNやNewYorkTimedなどのニュースサイトは、ユーザーによって作られた記事、写真、動画を積極的に取り込もうとしている。

 ユーザーがニュースにアクセスするスタイルも激変している。RSSアグリゲーターとDiggのようなソーシャルニュースサイトの一般化は、ニュース記事とブログ記事を同等に扱うことを促し、様々なサイトを一つの記事単位で横断的で閲覧していくスタイルが一般化した。こうしてユーザーは、新聞を1面から読み、社会面、テレビ欄まで眺めるという習慣は消え、自分の好みにあわせたニュースを、PCやモバイルなど、その場のシチュエーションに合わせて、自分で集めるというスタイルが定着した。

 こうした変化は、コンテンツ制作者と配信メディアが一致していたこれまでの新聞、雑誌のあり方を根本から変えつつある。記事・コンテンツの制作者とそれを配信するメディアの分離が進んでいるのだ。

 そこで勢力を拡大しつつあるのがロイターなどの通信社だ。ヨーロッパで増大している無料新聞は、記事の多くを通信社から購入し、記事制作の低コスト化をはかっている。電車通勤者などを対象にした無料新聞では、記事のオリジナリティよりも、手堅さと低コスト化を重視し、読者も通勤時間ではそうしたコンテンツで充分と判断しているのだろう。

 この無料新聞のようにコンテンツ制作から分離したメディア業は、コンテンツのパーソナライズ技術、広告取得技術を洗練させて、メディアビジネスを多様化させている。こうした流れを明確にしたのは・・もちろんGoogleだ。記事の発信が個人にまで広がり、コンテンツが拡大、拡散し続ける中、重要度を増すのが、集めて選ぶ技術=検索エンジンだ。かつてはこれを"編集者"が担っていたわけですが・・。

 
 さて、今年、欧米で起きたこうした変化は、早晩日本でも起きるはず(一部はすでに起きている)。技術環境にはほとんど違いがないが、あとはメディアのビジネス面を支える広告取得モデルの多様化が課題か。さらに日本で特異なのは、少子高齢化によって人口の年齢構成が大きく変わっていることだ。これまで、主な読者層の高年齢化と退職によって、経済系新聞や週刊誌は、これから数年でさらに急激な部数減少に見舞われることは間違いない。こうした要素も、やや変化が遅く見える日本のメディア界を急変させる要素だろう。
 
 ……ということで、お読みいただきました皆さん、ありがとうございました。
よいお年をお迎えください!