「労務事情」連載中!!(毎月1日号)

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/romujijo/

 

今日の労働判例

【国・中労委(学校法人神奈川歯科大学)事件】

東地判R2.6.26(労判1237.53)

 

 この事案は、病院Xの看護師Cが、配転拒否を理由として解雇されたが、訴訟で当該解雇は無効と判断され(2審で確定)、物忘れが激しくなったため医師の診断を受け、多発性硬化症と診断されたため、Xから休職を命じられ事案です。その後、Cは「白質脳症」(原因不明)だが「就業に特に制限はない」などの診断を得たうえで、Xに対して直接復職を求め続け、労働組合を通した折衝でも復職を求め続け、さらに休職命令無効訴訟を提起するなどしてきました。なお、訴訟は休職命令の一部を無効と判断し、控訴審でも概ねそれが認められて確定しています。

 このような中で、労働組合は労働委員会に、XによるCの復職拒否が不当労働行為に該当するなどと主張して争いましたが、地労委・中労委Y・1審・2審(本判決)いずれも、不当労働行為の成立を認めました。すなわち本判決は、Yの判断(不当労働行為に該当するという判断)の合理性を認め、これを取消すよう求めたXの請求を否定しました。

 

1.論点の整理

 本事案では、不当労働行為の中でも①不利益取扱い(労組法7条1号)、②断交拒否(同条2号)が特に問題になりました。なお、両者に共通する問題として「支配介入」(同条3号)も問題になりますが、ここでは検討を省略します。

 このうち、①不利益取扱いは、❶「不利益な取り扱い」と、❷組合員であることの「故をもって」行われたことが要件となります。②断交拒否は、❸誠実交渉義務が存在し、❹それに違反したことが要件となります。

 ここで、❶❸は、比較的容易に認定されています。❶については、実際に休職処分が継続され、収入が減少していたこと、❸については、(❶と関わりますが)労働条件に関わる事項であることと、労働者による処分が可能(休職処分の取り消しや復職命令など)であることの2つの要件が満たされること、がそれぞれの根拠となります。

 

2.❷「故をもって」

 裁判所は、まずYの主張に基づき、CX間の対立が激しくなっていた中での復職拒否だから、Cや組合の職場での影響力排除を意図していた、と認定しました。いわゆる状況証拠からXの意図を認定したのです。

 続けて裁判所は、Xの主張を特に詳細に検証しました。

 1つ目は、看護師の職務や責任の重大性から、特に患者の生命や安全にもかかわることから、原因不明では復職させられない、というXの主張です。

 ここで裁判所は、まずXの就業規則(休職事由)を制限解釈します。すなわち、就業規則では「特別の事情」があるとXが認める場合に、休職を命じることができると規定されていますが、「特別の事情」は「業務に具体的に支障があること」をいうと制限解釈しています。

 これに対してXは、原因調査中であった、Cの得た診断書も無条件での復職を認めていない、などの反論をしています。裁判所は、特に復職条件に不明確な面があるなら、CではなくXの側に、復職のための検討をすべき義務がある、などとしてXの対応が不十分と評価しています。

 このように、看護師の職務や責任の重大性、患者の生命や安全、という一見もっともな理由に対し、業務への具体的な影響がないだけでなく、それを克服すべき対応をしていない、としてXの主張を否定したのです。「故をもって」という要件を証明することは、それが会社組織の意識として見ると非常に難しいことですが、この判決の示した理由によると、会社による従業員に対する対立的な経緯を示すことができれば、この「故をもって」という要件の証明も可能であることが示されたのです。

 2つ目は、Cに配置転換させるのは難しい(以前、配置転換を拒否したことがある)、というXの主張です。

 ここで裁判所は、配置転換を拒否したのはトラブルの初期段階であり、その後具体的に検討されていないことから、理由にならないと評価しました。

 

3.❹誠実交渉義務違反

 ここでも裁判所は、まずXの請求を認めました。すなわち、Cを復職させるかどうかについての議論は、訴訟で行うなどとして団体交渉に一切応じなかったことから、誠実交渉義務位に違反していることを認定しました。

 そのうえで、同様にXの主張を特に詳細に検討しました。

 1つ目は、訴訟の関係者と組合との団体交渉の関係者が重なることから、団体交渉で回答しなかったことに合理性があるとするXの主張です。

 裁判所は、訴訟のように過去の紛争を解決するのではなく、団体交渉は将来の労使問題も含めて対策を議論する場だから、訴訟で議論していることは理由にならないと評価しました。

 2つ目は、医師の診断内容や治療内容が分からないと交渉できない、とするXの主張です。

 裁判所は、実際の交渉の場でそのような前提になっていなかった、などとしてXの主張を否定しました。

 3つ目は、Cの要求が、Xが既に明確に否定した対応を繰り返し求めるものであり、しかのCにそのような法的権利がない、とするXの主張です。

 裁判所は、労使交渉は過去の問題を審議する場ではなく、将来の法的関係の創設も含め、将来の労使関係を議論する場であり、過去の交渉経緯などだけで判断できない、などと評価しました。すなわち、将来の円満な労使関係のために現在の労使関係を修正することも含めて議論すべきであることを考えれば、すでに過去の問題として決着済み、という反論は認められない場合があることが示されたのです。

 

4.実務上のポイント

 従業員の処遇に関して労働組合が介入してくることは、会社に組合がない場合でも起こりうることで、多くの会社にとって意外と身近な問題です。この事案では、裁判に判断を委ねている、という会社側の反論が様々な場面で否定されました。裁判所での議論に交渉の場を集約し、こじれてしまった状況を整理したい気持ちも分かりますが、組合との折衝は裁判所の議論と役割りが違うことや、この判決で裁判所が組合との話し合いを促している状況を考えると、組合とのかかわり方について参考になるポイントが多く示されていると評価されます。

 

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

https://note.com/16361341/m/mf0225ec7f6d7

https://note.com/16361341/m/m28c807e702c9

 

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!

 

 

 

「労務事情」連載中!!(毎月1日号)

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/romujijo/

 

今日の労働判例

【視覚障害者後遺障害逸失利益等損害賠償請求事件】

山地下関支判R2.9.15(労判1237.37)

 

 この事案は、いわゆる労働判例ではありません。視覚障害者Xが、横断歩道を渡っているときに自動車に轢かれたため、自動車運転手Yに損害賠償を請求した事案です。

 裁判所は、Xの請求の一部を認めました。

 過失相殺について何ら言及されていないため、責任割合はX:Y=0:100のようです。また、症状固定後の治療費、将来治療費、将来通院交通費、家屋改造費について、賠償額0円と認定しており、Xの請求をすべて否定しています。これらの点は、交通事故に関する裁判例として参考になる論点でしょうが、ここでは労働判例でも問題になることの多い、「後遺障害逸失利益」について検討します。

 この「後遺障害逸失利益」に関し、裁判所は健常者の7割の範囲で請求を認めました。

 

1.類似する裁判例との比較

 ここでは、「社会福祉法人藤倉学園事件」(「藤倉学園事件」東地判H31.3.22労判1206.15、『労働判例読本2020年版』97頁)と比較しましょう。

 藤倉学園事件は、障害者を預かる施設Y2の管理の不手際によって重度の知的障害者X2が施設を出てしまい、施設から離れた山中で死体となって発見された事件で、Y2が負うべき損害賠償の金額が問題となった事案です。

 藤倉学園事件で裁判所は、逸失利益に関し健常者と同額の請求を認めました。

 ポイントは「蓋然性」にあります。すなわち、健常者であっても仕事を得たり、途中で解雇されないことを前提に逸失利益を算定していますが、これは仕事を得たり、途中で解雇されない蓋然性が高いことを前提にします。この観点から見ると、障害者雇用が促進されている状況で、実際に障害者雇用が増えていること、等を考慮すれば、X2の損害賠償を認めることが合理的とわかります。将来、仕事をして収入を得ることが確実でないかもしれませんが、相当の蓋然性があり、このことは健常者と異ならないからです。

 他方、本事案で裁判所は、健常者の7割の範囲でXの請求を認めました。

 ポイントは「基礎収入」です。すなわち、厚労省の平成25年度障害者雇用実態調査で明らかになった障害者の平均賃金等を前提に、「健常者と障害者との間に現在において存在する就労格差や賃金格差に加えて、就労可能年数のいかなる時点で、潜在的な稼働能力を発揮して健常者と同様の賃金条件で就労することができるかは不明であるというほかなく、その実現には所要の期間の年数を要すると思われる。」として、基礎賃金は健常者の7割が相当、と認定しました。

 このように見ると、結論として両者は矛盾するように見えますが、注目しているポイントが異なるので理論としては矛盾していないとも評価できます。すなわち、本事案の理論(基礎収入に着目した理論)は、藤倉学園事件の理論(蓋然性に着目した理論)を否定するのではなく、むしろこれを前提にしているからです。

 

2.実務上のポイント

 損害賠償制度は、現実の損害をてん補する制度ですが、そこにはすでに「フィクション」が含まれ、その機能が拡大されています。「逸失利益」も、将来の収入という、未だ現実化していない損害について賠償を認めるもので、「フィクション」が取り込まれた例です。

 もはや、この「フィクション」を否定することはできませんから、今後検討すべきはこの「フィクション」をより合理的なものしていくことです。

 この観点から見た場合、障害者の逸失利益の算定方法をより合理的にするために議論すべきポイントのいくつかが、これらの裁判例によって示された、と評価できるでしょう。

 

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

https://note.com/16361341/m/mf0225ec7f6d7

https://note.com/16361341/m/m28c807e702c9

 

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!

 

 

 

「労務事情」連載中!!(毎月1日号)

https://www.e-sanro.net/magazine_jinji/romujijo/

 

今日の労働判例

【NOVA事件】

名高判R2.10.23(労判1237.18)

 

 この事案は、英会話学校Yの英語講師Xらが、本来は労働者なのに労働者とされなかったことにより、年休や健康保険に関して不利益を被ったとして損害賠償を求めた事案です。

 裁判所は、1審2審共に、Xらの請求を概ね認めました。

 

1.判断枠組み

 労働者は「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」(労契法2条1項)であり、「使用され」とは指揮命令下の労務の提供、「賃金」は労働の対償を意味します。その判断枠組みとして一般的には、①仕事の依頼への諾否の自由、②業務遂行上の指揮監督、③時間的・場所的拘束性、④代替性、⑤報酬の算定・支払方法、⑥機械・器具の負担、報酬の額等に現れた事業者性、⑦専属性、等が示されています(菅野「労働法」12版183頁~、水町「詳解労働法」34頁~)。

 この事案では、❶業務遂行上の指揮監督(②)、❷具体的仕事の依頼・業務従事の指示に対する諾否の自由(①)、❸勤務場所・勤務時間の拘束性(③)、❹報酬の労務対償性(⑤?)、❺専属性(⑦)によってXの主張を積極的に評価しました。そのほかにも、一審ではYの主張する事実として、❻業務委託契約と雇用契約の選択、➐雇用講師と委託講師の違い、❽レッスン場所やスケジュールの変更(但し、2審では削除)、❾報酬の雇用講師との比較、❿労務提供の代替性(④)、⓫Xらの陳述書が検討されています。二審では、❶に関して①~④に相当するような事情が検討され、❹に関して一審の判断を確認し、⓬その他の事情として❺❻が検討されています。

 しかも、❶~⓬に関して全てXの有利に認定しているわけではありません。

 例えば②に関し、1審ではテキストの使用、授業内容の指示、社内資格の取得、清掃などの作業、服装の指定などから指揮監督を認めていますが、2審ではこのうちの授業内容の指示や服装の指定について拘束がそれほど大きいものではないとしつつ、それでも雇用講師と同程度の拘束があり委託講師も雇用講師と実態が異ならない、と評価しています。さらに、2審ではレッスン時間の変更などの際に、諾否の自由があったかどうかがはっきりしないと認定し、この事実認定を前提に、一方で労働者性を肯定する事情とはできない(すなわちXに有利な事情ではない)としつつ、他方で労働者性を否定する事情でもない(すなわちXに不利な事情ではない)としています。

 このように、判断枠組みは事案に応じて柔軟に設定されるものであること、この全てが揃っているかどうかが問題になるのではなく、総合的に判断するのであって、上記「諾否の自由」の例のように判断枠組みに該当しない場合があっても全体として結果的に該当性が認定される場合のあること、が確認できます。

 

2.実務上のポイント

 Xらはいずれも英語を母国語とする外国人であり、Yでの処遇の様々なことへの不満が蓄積していたのでしょう。それぞれ、100数十万円の損害賠償を請求し、裁判所は10万円~20万円強の範囲で請求を認めました。

 契約文化の強い外国人だから、契約書に書けば文句は出ないはず、と考えていたのでしょうか。社会保険をYが負担しないことや年休がないことを契約書に記載してあったのですが、それでも裁判所はXらの請求の一部を認容しています。

 労働法は、強行法に関する部分については労働者の意思に関わらず労働者を保護するもので、この点は外国人であっても異なりません。契約万能ではないことを、再確認しましょう。

 

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

https://note.com/16361341/m/mf0225ec7f6d7

https://note.com/16361341/m/m28c807e702c9

 

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!