「労務事情」連載中!!(毎月1日号)

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今日の労働判例

【福井県・若狭町(町立中学校教員)事件】

福井地裁R1.7.10判決(労判1216.21)

 

 この事案は、所定勤務時間外に、119時間~169時間勤務していた教員Kが自殺したことが、校長の安全配慮義務違反に基づくとして、遺族Xが県・市Yに賠償を求めた事案です。裁判所は、Yの責任を認めました。

 

1.判断枠組み(ルール)

 裁判所は、著名な「電通事件」最高裁判決の示したルール(会社は健康に配慮する義務があること、監督者がこの義務を果たすべきこと)を引用し、これが公務員にも適用されることを示しました。

 そのうえで、実際にこの配慮義務違反の有無をどのような判断枠組みで評価するかが問題になりますが、裁判所はこの点を明確に示していません。判決文の「構成」上は、判断枠組みを明示していないのです。

 けれども、判決理由の章立てから、判断枠組みが読み取れます。

 まず、判決は、「争点①(本件学校の校長の安全配慮義務違反の有無)」として、「(2) 亡一郎の業務内容や業務時間について」という章の下で、Kの業務が「強い心理的負荷の伴う業務に極めて長時間にわたって従事」していたと結論付けています。このことから逆算すると、業務内容と業務時間から、大きなストレスを受けていたかどうか、が判断枠組みの1つ目ということになります。

 次に、「(3) 本件校長の亡一郎の業務に対する認識と対応」という章の下で、校長がKの状況、特に「精神的に余裕がなく、在校時間も非常に長く、身体的にも疲労を感じていることをうかがわせる情報を得ていた」と認定し、「これらの事項についての把握を行ったうえで、亡一郎の業務内容変更等の措置をとらなかった」と評価しています。

 この点は、民事上の「過失」の基本的な構造、つまり、予見可能性・予見義務違反と、回避可能性・回避義務違反が判断枠組みになっていることを意味します。すなわち、「把握」すべきだった点が予見義務違反、「措置」を取るべきだった点が回避義務違反に該当するのです。

 次に、「争点②(校長の安全配慮義務違反と亡一郎の死亡との間の相当因果関係の有無)として、「(1) 業務に基づく精神疾患の発症」という章の下で、「ICD-10第V章『精神および行動の障害』に分類される精神疾患」に該当するかどうか、が議論されています。これは、精神障害の労災認定基準(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120427.pdf)として厚労省が示した判断枠組みのうちの、「認定基準の対象となる精神障害かどうか」に相当します。

 さらにこれに続けて、特にKの労働時間と、ストレスの大きさが問題にされています。これも、同基準の判断枠組みのうちの、「長時間労働がある場合の評価方法」「業務による心理的負荷評価表」を意識した内容となっています。

 次に、「(2) 精神疾患と亡一郎の自殺との相当因果関係について」の章の下で、「業務以外の心理的負荷が亡一郎の自殺を誘発したこと等をうかがわせる事情はない」としています。これも、同基準の「『自殺』の取扱いについて」の中で、業務上の精神障害が認定されれば(上記(1))、「故意の欠如の推定」により、「原則としてその死亡は労災認定されます。」と記載されているところを意識した内容となっています。

 このように見れば、後半の相当因果関係部分は、厚労省が策定した労災認定基準が基本となっており、前半の配慮義務違反部分は、一般的な「過失」の判断枠組みが基本となっていますので、メンタルによる自殺の事案で多くの裁判所が採用する判断枠組みと同様の判断枠組みが採用されていることが理解できます。

 

2.実務上のポイント

 配慮義務を誰が果たすのか、という点について、本事案では校長とされました。

 これを会社に当てはめると、代表取締役と位置付けられるかもしれません。

 けれども、本事案で問題なのは、Kの勤務状況(ストレスを受けているかどうか)と、それを改善すること(業務配分など)であり、ある程度大きな会社で、労務と業務配分について権限と責任を負う担当役員や管理職がいれば、その者に権限移譲されていると評価できます。

 実際、理由の冒頭の「電通事件」の引用部分で、裁判所は「使用者に代わって労働者に対し業務上の指導監督を行う権限を有する者は、使用者の上記注意義務の内容に従ってその権限を行使すべきものである」と示しています。

 このことからみると、この学校では、教員に対して「業務上の指導監督を行う」業務が誰か1人に専属しているのではなく、勤務状況の管理と業務配分について担当者が分かれているからなのか、そもそも権限移譲されていないのか分かりませんが、これら全体について誰かが権限と責任を負う状況でなかったのでしょう。

 これに対して、階層的に組織設計され、例えば部長が部員の勤務状況の管理と業務配分の権限と責任を負っている場合には、社長ではなく、その部長について配慮義務違反が議論されることになるでしょう。

 そして、この構造的な問題から逆算すると、判決ではそこまで踏み込んでいませんが、この学校の内部統制上の問題が、可能性として指摘できます。

 つまり、Kの勤務状況を把握すべき人が、校長以外にいなかったか、いたとしても、その者にはKへの業務配分を調整する権限がなく、したがって、Kの置かれた辛い状況に気づくのが遅れたか、対応が遅れたという可能性も、懸念されるのです。

 校長自身がKの業務の細かい点までケアすべきだった、という認定に違和感を覚えますが、裁判所はこの点の理由を明らかにしていません。なので、ここは推測になるのですが、その違和感の背景の1つに、この中学校の内部統制上の構造的な問題にあるように思われるのです。

 

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今日の労働判例

【ロピア事件】

横浜地裁R1.10.10判決(労判1216.5)

 

 この事案は、スーパーマーケットYの従業員Xが、商品を会計せずに持ち帰ったことを理由に懲戒解雇された事案です。Xは、懲戒解雇が無効であって、依然として従業員の地位にある、と主張し、裁判所はこの主張を認めました。

 

1.判断枠組み(ルール)

 ここで問題になったルールは、就業規則の規定です。

 すなわち、Yの就業規則で、懲戒事由として、①「刑法その他刑罰法規に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなった者」、②「会社財産の横領にかかわった者」、③「会社の風紀を著しく乱した者」、④「会社の秩序を著しく乱した者」、⑤「その他前各号に準ずる程度の不適切な行為を行った者」などが規定されています。

 そして、商品の持ち帰り行為が、①②に該当するかどうか、また、店舗で商品を購入する際には勤務時間外にし、職場に持ち込まない、という「買い物ルール」に違反する点が、③④⑤に該当するかどうか、が問題とされました。

 (懲戒)解雇事由があるが、(懲戒)解雇権の濫用に該当するかどうか、が問題になる事案と、判断構造が異なります。濫用かどうかの前に、そもそも(懲戒)解雇権があるかどうかが問題になるのは当然ですから、構造的にはこの裁判例のとおりです。

 

2.あてはめ(事実)

 まず、持ち帰り行為については、ラベルを付けなかったり、持ち帰った理由の説明に若干一貫しない点があったりしますが、「他の従業員もいる中で人目をはばかることなく」商品の加工や梱包をしていたことから、私的に送付する予定であり、精算を失念した(故意はない)、というXの説明の合理性が認められています。

 次に、「買い物ルール」違反については、「買い物ルール」が周知されておらず、Xの違反もこの1回きりであり、賠償されてYに損害がなく、上記のとおりXには窃盗の故意がなく、③④⑤に該当するか疑問があり、少なくとも処分として「不相当に重い処分」、と評価しています。

 

3.実務上のポイント

 「李下に冠」という発想から、例えばお金を取り扱う金融機関の従業員による着服や横領には、非常に厳しい処分がされます。同様に、大学の教員の学生に対するハラスメントが厳しく処分された事例に関する裁判例もありました。

 その意味で、スーパーの店員が商品を盗んだと誤解させる行為も、客による万引きに比べれば罪状が重い、という発想になるのは理解できます。

 けれども、やはり「疑い」だけで厳しい処分をすることには、限界があることが示されました。Xの軽率な行動に対する懲戒処分がダメだ、と言っているのではなく、懲戒解雇は行き過ぎだ、ということです。

 さらに言えば、金融機関での着服や大学でのハラスメントは客に迷惑をかける(客に手を出す)ものですが、本事案では、客ではなくYに迷惑をかけるものであって、非難される程度に違いがあると評価できます。

 このように、処分の合理性については、会社側から見た理論だけでなく、より客観的な観点からの検証も必要です。

 

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

https://note.com/16361341/m/mf0225ec7f6d7

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