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今日の労働判例

【高島事件】(東京地判R4.2.9労判1264.32)

 

 この事案は、メンタルを理由に休職していた原告Xが、休職期間満了を理由に会社Yを自然退職となった事案です。Xは、有給休暇の消化が先行していれば、休職期間も3か月ではなく6か月となり、その間に復職可能となっていたから、自然退職は無効であると主張しました。

 裁判所は、Xの請求を否定しました。

 

1.なぜXは有給休暇の消化を先行させたいのか

Xが有給休暇の消化を先に行うように求めていたと主張していますが、これは、もし先に有給休暇を消化していたらその分が勤続日数に加算されたからです。そうすると、傷病休職期間の算定基礎となる勤続年数が2年未満(この場合、休職期間は3か月)ではなく、一区分上の2年以上という期間となるため、傷病休職の期間が3か月でなく6ヶ月に伸びていたことになりました。そして、この6か月満了までには復職可能な状態になっていた、というのがXの主張です。

 裁判所は、有給休暇の消化を先行させるような請求がなかったと認定しました。

 その理由には、有給休暇の行使(より技術的には、時季指定権の行使)が認められるためにはその始期や終期が明確に特定されていなければならない、しかしXは特定していない、仮に6月末までの有給行使を求めていたとしても、6月末までの有給が残されていない、等という技術的な理由もあります。労働判例誌の解説部分でも、この部分を特に強調した判例紹介をしています。

 けれどもこの部分だけを見ると、例えばXが出した6月5日のメールでは、「今月3日からは年休をいただき(注:3日から有給を取っていた)、その後は病欠でお願いします。」と記載されているなど、有給消化を先行させる意向が明確に示されているようにも見えますから、始期や終期が明確でない、という裁判所の判断は少し厳しすぎるように感じるかもしれません。終期が示されていなくても、会社側で残された有給を計算し、その分の消化を先行させてあげればいいではないか、という考えをする人もいるでしょう。

 しかし、有給消化を先行させるというXの主張を否定した理由はこれだけではありません。

 すなわち、Xのこのメールを6月5日に受けてYが対応を検討した結果、まずXに産業医に面談させて、6月4日付の主治医の診断(ストレス反応、2か月の自宅療養)について検討させることにしました。その上で、産業医の結論(1ヶ月の就業禁止、その後休職継続の要否を判断)を踏まえ、主治医の診断も尊重して7月末までを休職期間することを決め、Xに伝えました。診断書の日付である6月4日から休職、ということにすれば、概ね2か月になるからです。

 この決定を6月10日にXに電話で伝えたところ、Xは、休職期間の始期を4日ではなく10日にするよう申し入れました。Yは社内で検討し、これを受け入れ、休職期間は6月10日から7月末までとなりました。

 7月中旬になって、Xはさらに2か月の自宅療養が必要と主治医に診断されたため、会社もこれを受けて、7月29日に休職命令を発令し、その結果、9月9日に3か月の休職期間が満了し、Xが自然退職した、という処理が行われました。この結果を、Xも当初は受け入れており、退職に必要な書類を9月10日に提出するなどしていましたが、11月28日に、Yに対して復職を求めました。

 このようなやり取りの中で、Xが有給休暇の消化にこだわっている発言もしています(有給休暇の消化は復職後にされるのか、という趣旨の質問をした、など)。もし有給休暇が残っているなら、本当はそれを先に消化したいという趣旨だ、と読めなくもありません。

 しかし、①自ら望んで6月10日からの休職期間にしてもらったこと、②6月18日に休職に関連する書類を提出していること、③9月11日に退職関連書類を提出していること、④Xは人事総務のマネージャーであったこと、⑤にもかかわらず、有給休暇の残日数などを確認しないままY側の指示に従っていること、⑥当時、Xは休職命令の無効などを主張していないこと、などが指摘されています(順番は入れ替えてあります)。

 このような状況をみると、違った法律構成も考えられます。

 すなわち、XとYが、有給休暇の消化を6月3日~9日とし、6月10日から休職にする、と合意によって定めたと評価することもできるでしょう。だからこそ、残された有給休暇について、もし復職できた場合には追加で消化可能となるはずだが、そのことをXが確認しようとしていた、つまり、Xが有給休暇について質問したメールは、合意によって有給休暇の行使日数と期間が定められたからこその確認であり、有給休暇の事前消化が6月3日~9日であることをXが了解していたことの証拠と言えるようにも思えるのです。

 

2.実務上のポイント

 ここでは議論されていませんが、仮に6カ月後だとして、本当に12月から復職可能だったかどうかも論点になります。医学的な問題に関する事実認定と評価の問題ですが、検討は省略します。

 ところでYとしては、確認しながら休職・退職の手続を進めており、訴訟からさらに判決にまでもつれ込む事態は予想外だったでしょう。

 けれども、有給休暇の数日によって、休職期間が3か月から6ヶ月になってしまう微妙な事案であり、トラブルの可能性をより小さくするのであれば、有給休暇の行使についてより慎重に確認し、本人の納得も得ておくことが考えられるでしょう。

 

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今日の労働判例

【山形県・県労委(国立大学法人山形大学)事件】(最二小判R4.3.18労判1264.20)

 

 この事案は、リストラ(昇給抑制・減給)から4年後に出された、これら処分の見直しのために労働組合Kと誠実に団体交渉に応じることを大学Xに対して命じる労働委員会Yの命令について、Xがこれを無効と主張して争った事案です。

 1審・2審は、理由が多少異なりますが、Xの請求を認め、命令を無効としましたが、最高裁は、Xの請求を一部肯定し、もう一度命令の有効性を審理するために2審に差し戻しました。

 

1.何が変わったのか

 最高裁は2審の判断を誤りであると評価しましたが、最高裁では何が変わったのでしょうか。

 それは、労働委員会の命令の有効性に関する判断基準です。

 すなわち2審は、労働委員会による救済申立ての却下事由の1つである「請求する救済の内容が、法令上又は事実上実現することが不可能であることが明らかなとき」(労働委員会規則33条1項6号)を類推適用し、救済命令が実現不可能な場合には救済命令が、「裁量権の範囲を逸脱したもの」となり、違法・無効になるという判断基準を立てました。そのうえで、4年も経過していて、予算措置を講じたり政策を変更したりすることがもはやできない、という趣旨の認定をし、命令を無効と判断したのです。

 これに対して最高裁は、2審の判断基準について言及せず、違う判断基準を立てました。

 すなわち、会社側の誠実交渉義務違反があれば、一般に、誠実交渉を命じることができる、という判断基準を立てたのです。

 このように見ると、2審は、団体交渉の対象となっている処遇などの事項について、交渉による変更の余地のあることを必要としていたのに対し、最高裁は、変更の余地の有無にかかわらず、会社側の誠実交渉義務違反があれば足りる、とした点に、違いがあるのです。

 そして、この新たな判断基準に照らしてもう一度審理し直すように、すなわち本事案でKの誠実交渉義務違反があったかどうかを審理し直すように命じたのです。

 その理由について、最高裁は以下のように説明しています。すなわち、①労働委員会は広い裁量権を有していること、②(上記規則の類推適用ではなく)労働組合法7条2号の「不当労働行為」について、誠実交渉義務違反がこれに該当すること、③団体交渉事項の変更の余地がなくても、誠実な交渉が行われることで、組合側が資料などを入手でき、労使間のコミュニケーションの正常化等が期待できること、④会社側も、交渉に応じることは不可能でないこと、⑤したがって、このような状態では「救済の必要性」があること、が根拠とされています。

 なお、このように整理してみると、Kの誠実交渉義務違反の有無だけでなく、⑤の「救済の必要性」も、委員会の命令が有効であるための条件になりそうにも思われますが、最高裁が2審に再審理を命じている部分でこの点に言及していないことを見ると、単なる誠実交渉義務違反ではなく、救済の必要性のあるような程度の誠実交渉義務違反、という意味なのかもしれません。この点は、2審がどのように判断するのか、注目される点です。

 また、判断基準の中の「一般に」という表現も注目されます。

 すなわち、誠実交渉義務違反があったとしても、例外的に、労働委員会の命令が無効となる場合があるということなのでしょうか。しかし、例外的なルールを認める場合、特に最高裁の判決では、「…のような特段の事情のある場合を除き」等のように、例外ルールの存在とそれが適用されるべき条件(この文例では、「特段の事情」)を明示しますので、ここでは例外的なルールを最高裁は想定していないのでしょうか。

 この点も、今後の動向が注目されます。

 

2.実務上のポイント

 今さら変更できない事項であれば(但し、1審はこの認定が緩かったのに対し、2審はこれを厳しくしました。結論は同じなのですが)、団体交渉に応じなくて良い、という2審のルールが否定されたのかどうかはよく分かりません。会社側に誠実交渉義務違反があるかどうか、という問題と視点や次元が異なり、誠実交渉義務違反の基準と矛盾する基準ではないからです。すなわち、労働委員会の命令が有効になるための判断基準として見た場合、会社の誠実交渉義務違反がある場合と、交渉事項が団体交渉によって変更の余地のある場合と、2つの場合があり得る、というルール設定も理論的には可能なのです。

 逆に言うと、労働委員会の命令が無効になる(すなわち、団体交渉に応じなくてもいい場合となる)ためには、誠実交渉義務を果たせばいいのか、さらにそれに加えて交渉の余地が無くなっていることも必要なのかについても、よくわからない状況である、と言えるでしょう。

 とは言うものの、会社側から保守的に見た場合、労使交渉を打ち切る場合には、この2つの条件が共に満たされる場合に限った方が安全と言えるでしょう。

 2つの判断枠組みの関係、特に交渉による変更の余地の有無が判断基準として有効なのかどうかについては、今後の動向が注目されます。

 

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今日の労働判例

【ライフデザインほか事件】(東京地判R2.11.6労判1263.84)

 

 この事案は、不動産会社Yで便利屋業務の事務的なサポートをしていた元従業員Xが、未払賃金等の支払いを求めた事案です。

 裁判所は、Xの請求を一部認めました。

 

1.労働時間

 ここで特に注目されるのは、労働時間の認定です。

 近時、いわゆる早出残業については、なかなか労働時間と認定されないのに対し、居残残業については、労働時間と認定される場合が多いのですが、この判決もこの傾向と同じです。すなわち、始業時間とされる10時以前に出社していても、その時間は労働時間と認定されていないのに対し、就業後に職場に在室していた時間は労働時間と認定されています。

 本判決では明言していませんが、この背景には、早めに出社するのは、例えば通勤の混雑を避けたり、気持ちに余裕を持ったりするため、すなわち自分自身の気持ちや体調を整えるためのもので、仮に始業時間前にメールを整理したり資料を整理したりすることがあっても、始業後に集中して行えば簡単に片付く程度のものが多く、業務として会社に指示されたものとは言えない、という判断が一方であります。他方で、居残残業については、わざわざ自分のために好き好んで職場に残る場合は少ないであろう、という判断があります。つまり、始業時間前に出社するのは、自分の好きでやっていることが多いだろうが、就業時間後に職場に残るのは、好きでやっているというよりも仕事としてやることがあるからであろう、という一般的な経験則が背景にあるのです。

 

2.実務上のポイント

 Yでは、当初就業規則もない状況でした。したがって、業務手当が割増賃金として支払われていた、というYの主張も、裁判所から否定されてしまいました。

 小さい会社であっても、従業員を雇う以上は労基法、最賃法など、最低限守るべきルールがあります。このようなルールを守ることの重要性が改めて確認される裁判例と言えるでしょう。

 

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