しばらくあって、
彼は、「入門させてください」と、
ハッキリした口調でわたしに合掌しました。


しかし、わたしは即答するのにためらいました。


彼を導くには、いまの力量では、
まだ時間が必要だと感じたからです。

もちろん、人生経験からすれば、
彼に教えておきたいコトは山ほどあります。

それに、自分の性格からして、
すぐ、「内弟子は困るな」と思ったのです。


もうひとつ、即答しなかったのには理由があります。

育ってきた環境に差がありすぎたのです。

それは、生きてきた時代の違いというばかりでなく、
「修行」とか、「宗教性」とかに対する理解の仕方が
まるで異なるからです。
正味、三日三晩、昏睡状態が続きました。

「修行」の途上で、これほどうろたえた経験は
後にも先にも一度としてありません。

ヒトのいのちを預かる身で、暴力によって人殺しに及んだ、
となれば、世間さまはもとより、出家僧としても破戒の謗り
は免れないでしょう。


しかし、彼は三日三晩のこん睡状態からみごと
よみがえってくれたのです。

感激のあまり、わたしは息をつまらせました。

彼は、まなこを開いて、こうつぶやいたのです。

「そらが青い」


ひとり、涙が止まりませんでした。


わたしが、先師に入門したときにも、
まったく同じコトが起きていたからです。

「そらが青い」と。


そのトキには、
わたしはまだ、「修行」の真っ只中にいました。

お弟子さんを取ることなど考えてもいなかったし、
将来も内弟子をとるつもりなどなかったのです。


しかし、彼の窮状をみるに、
「このままでは、命を落とす」
と直観したのです。

そこで、わたしが取った方法は、暴力でした。


当時、専念していた禅の手法を
個人的に発展させようと努力していたわたしは、
思い余って、彼に一撃をくらわしてしまったのです。

今日からみれば、たぶん無謀な暴力とみなされるコトでしょう。


彼は昏睡状態に陥りました。

当時のわたし自身の力では、
回復の手立てもなかったのです。